+-短編「お手上げ」-+

お手上げ












 珍しい相手から呼び出されたと思ったら、引き合わされた相手は暑苦しい二人組。しかし、今日は何やら様子がおかしい。
「おおおおお!!! マイグレィト、お館様あぁぁぁ!!!」
「カモ―――――ン!! 幸村ぁぁぁ!!!」
「ファァァァァイトオォォォォォォォォ!!!」
「ドゥ―――ザ・トレ―――――ニング!!!」
 様子がおかしいというか、あからさまにおかしいというか。
「…おい。何なんだあれは」
 じろ、と半ば白けた視線を呼びつけた張本人に向けると、全く忍んでいない忍はげんなり溜息をついた。
「どうも、アレが原因らしいんだよねぇ」
 あれ、と指差した先に盛られているのは、不気味な髭面の模様が浮き出た野菜。
「Ah? ありゃまつ殿が毒だっつって騒いでた南蛮野菜じゃねェか。食ったのか?」
「危険だと分かっているものを主に出すとは…手前ぇは止めなかったのか」
「止める間もあらばこそ、ってヤツでね。気が付いたら二人して生でムシャムシャと。いや〜、男らしいねぇ〜うちの主人達は」
「…」
 呆れきった目で、怪しい片言の異国語を叫びながらどつき合う武田主従を見遣る政宗と小十郎。まつはあちこちに注進して回っていたの だから、武田の耳にだけ入っていない、ということはないだろう。それを何故わざわざ口にするのか。全く意味が分からない。
「状況は分かった。…で、何で小十郎が呼び出されなきゃならねェんだ」
「そりゃあもう、野菜といえば片倉の旦那の出番でしょ」
「あぁ?」
 ぎろ、と凄みの効いた睨みを向ける小十郎。
「俺様特製の解毒薬も全然効果ないもんだからさ。藁をも縋る思いで、ご足労願ったってわけ」
「だったら藁に縋っとけ。俺には関係ねぇ。どうにかしてやる義理もねぇ。…政宗様、帰りましょう」
「む!? 政宗殿!?」
 小十郎の一言に、ぐるりと幸村が顔をこちらに向けた。
「おお!! 其処に見えるはまさしく伊達政宗ぇぇ!! カモォォン!! レッツ、ファァァァイッ!!!」
 ぴきっ。
「HELL DRAGON!!!!!」
「ぐぅおぉぉぉぉぉ!!!」
こめかみに青筋を浮かべた次の瞬間、有り得ない速さでタメ技を放つ政宗。蒼い雷竜は容赦なく幸村を襲い、その体を吹っ飛ばした。
「…ぐぅっ…、いっつつつ…。…む? …某、いつの間にお館様の下へ…。それに、政宗殿と片倉殿まで…? 佐助、どうなっておるのだ?」
「目は醒めたみてェだな」
「…あっら〜」
 うわぁ解決早っ、と苦笑している佐助を他所に、政宗はくるりと回れ右。
「帰るぜ小十郎」
「はっ」
「あ! ちょっとちょっと、まだもう一人!」
「知るか! 軍神でも呼べ!!」
「えぇ〜!!」
 まったく付き合っていられない。

 後日、上杉謙信が南蛮野菜を禁制の品として指定するよう全国の主要大名へ働きかけるのだが、きっかけはこの事件だったとかそうでないとか。




RETURN