戦士達の食事事情
ごくり、と誰かの喉が鳴った。
「………なあバッツ。それ、何だって?」
「………目玉のスープ」
「そのままじゃん!」
「………スコール、そっちのは?」
「………カエルの黒焼き」
「………炭じゃなかったのか…」
「………で、そういうジタンの前にあるのは何だよ」
「………見りゃ分かるだろ」
「………やっぱ、ザリガニ?」
「そ。ザリガニ。ザリガニの塩ゆでだってさ」
「………」
三人が三人して、目の前に広げた食事を見据えたまま、誰も手を出せずにいる。
さっきまでぐうぐう鳴っていた腹も、今は静かなものだ。
断片世界へ召還された戦士達。この世界へ順応するよう、召還主であるコスモスとカオスによって身体能力を強化されてはいるが、
夜になれば眠くなるし、人並みに腹も空く。
ちょくちょくモーグリが飛び回っているのも、手紙の配達ばかりが仕事ではない。アイテム販売、そして食料供給という役割もあるのだ。
狙って出会えるわけではないから、自然と保存の利く食品や携帯食を買い込むことが多くなる。
ただ、狙って出会えるわけではないとはいえ、何週間も遭遇できないようなことはない。今まではなかった。それが今回何の不運か、
三人全員の食料が尽きるまでモーグリと出会えなかったのだ。あまり強いイミテーションや魔物と出会うことがなかったので、アイテムの
消費がほとんど無かったことは不幸中の幸いと言えるだろう。
やっと見つかったモーグリから食料を買い込み、空腹に任せて「何でもいいからすぐ食えるもの!」と迫ったところ、その言い草が
たまたまモーグリの気に食わなかったらしい。何でもいいならこれでも食べればいいクポ、とそっけなく包みを渡された。
さあお待ちかねの食事だ、とテント用の敷布を広げ、包みを解いたところ、出てきたものがとんでもない料理だった。というのが、
ここまでの事の顛末である。
無言で炭を切り分け、携帯皿に取るスコール。ぎょっとしてジタンとバッツが振り返った。
「おい、マジかよ!」
「無理すんなって、腹壊したりしたら元も子もないぜ」
「モーグリが食事だと言って出したんなら、少なくとも害はないだろう。補給できる時に補給するのは基本だ。兵糧攻めされることを
考えれば、贅沢は言えない」
「…」
なんだか自分に言い聞かせてるみたいだよなぁ、とバッツは思ったが、そういうことなら、と目玉のスープを自分の皿に取る。
「うわっ、バッツお前もか!」
「いや、意外とこっちなんかマシかもしれない。昔、父さんが焼き魚の目玉は珍味だって言って普通に食ってたし」
ちゃぷ、とスプーンで一口分すくう。
「………」
が、開けた口に含みかけたところで、うっと詰まって皿に戻してしまった。
「…目が合っちまった…」
「うぇ……」
げんなりするジタンとバッツの前で、スコールは黙々と炭を咀嚼し、飲み下していく。
しょりしょりと小さく響く音がまた何とも生々しくて、いたたまれない。
「…スコール、それ…美味い?」
「味は関係ない」
「…」
要するに不味いのね、と顔を見合わせて溜息。
「…バッツ、今からでも保存食出さないか?」
「…正直そうしたいけど、捨てるとなると勿体無いよな…」
「そんなこと言ってる場合じゃねーだろ!」
「それに捨てたら捨てたで魔物が寄ってきたりしたら面倒じゃん」
「魔物が寄ってくるようなもん、余計に食えねーよ」
「いや、例えばの話だけどさ」
「あーもう、喋ってる間に出そ」
ごそごそとアイテムポケットを探るジタンの隣で、バッツはじっとスープを見つめている。そしてその正面ではスコールが黙々と炭を
食べている。…なんとも言えない光景である。
「ていうか、お前のが一番マシそうじゃん。食えよ」
「ええー!! ザリガニだぜ、ザリガニ!」
「案外エビみたいに肉プリプリしてるかもしれないぜ」
「ないない、ありえない。お前ザリガニ食ったことあるか?」
「ちょっと泥臭いけどな」
「あるのかよ!」
「………」
かちゃ、とフォークを置いたスコールが、無言で胸に手を置く。
「…おい、どうした?」
「だから無理するなって言ったじゃん! 大丈夫か?」
「…いや、何か…」
難しい顔をしているスコールに、顔を見合わせるジタンとバッツ。
「―――――スキありっ」
「はが!」
そのチャンスを逃さず、バッツは強引にゆでザリガニの身をジタンの口に突っ込んだ。
うげぇ、と思い切り顔を顰めながら、それでも吐き出すことはせずに黙々と咀嚼し、飲み下すジタン。途端に飲み物に手が伸び、
ごくごくと喉を鳴らして飲み干す。
「泥臭ぇー!! 何がちょっとだよ、ジャリッジャリじゃねぇか!」
「そんなに酷くないだろ、ちゃんと砂抜きするだろ普通」
「ジャリジャリはまぁ大袈裟にしても、この泥っぽさ、ありえないって」
「さて、二人が頑張ったんならおれも腹決めるか!」
まだウエエと口を曲げているジタンの隣で、ひょいとスープ皿を手に取るバッツ。今度は目が合わないようにあさってへ視線を泳がせ
ながら、救い上げたスープを一口。
「……………」
「…どうした」
「しょしょしょ食感が気持ち悪いーっっ」
うげげげげ、と主人公がしてはいけない顔でごくっと飲み下す。そしてジタンと同じく飲み物で口の中を誤魔化した。
「なんかこう…最初プルンとしてるんだけど、中心に骨っぽい硬いのが」
「うわああ解説しなくていいって!!」
「周りがヌメヌメしてて、なんか粘膜と血管みたいな」
「ぎゃ―――――!! やーめーろー!!!」
「…」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人の前で、地道に炭を完食したスコールが、やはり飲み物をごくごくごくと飲み干す。
「うーあー気持ち悪ぃ…」
顔を真っ青にしてしまうジタン。ザリガニもスープも半分以上残っているが、二人はもうこれ以上食べられない、と廃棄を決定した。
もったいないと渋っていたバッツも、これは食べられるものじゃないと諦めた様子。
「モーグリってこんなもん食ってんのか…?」
「さあ…。あ、チョコボが食う木の実は美味いぞ! ちゃんと人間も食べれるし」
「チョコボが食うのは野菜だろ?」
「草も食べるけど、ボコが取ってくる木の実はおれも時々食ってた」
雑談しながら残り物を始末し(そのあたりにポイ捨てするわけにはいかないので、基本ファイアで焼却処分である)、ウォータで水を
出して携帯皿や食器を洗い、大波乱の食事タイム終了。
「…?」
「どうした」
「…いや…」
「…あんたも、何か感じるのか」
さっきの自分のように。
さあ出発するか、と歩き出した三人だが、ふとバッツが胸に手を当てて立ち止まった。それを気にしたのは、スコール。
さっきの自分の仕草とまるきり同じだったからだ。
自分が感じた違和感のようなものを、彼も感じたのかと。
「…そういや、なんかオレもヘンな感じがするような…」
ふよん、と尻尾をゆらすジタン。
ぎく、と三人の足が同時に止まった。
「…さっきの食事か」
「ま、まっさかぁ…」
「さすがに毒なんか…なぁ?」
ははは、と乾いた笑いを零すジタン。
「…」
「……」
「………」
顔を合わせた三人。次の瞬間、がばっ! と各々自分のステータスを確認した、が。
「あれ? 毒どころか…」
「お前、HP最大値増えてるじゃん」
「そういうお前はDEF値が上がっている。俺はATKだ」
「…」
思わずまた顔を見合わせてしまう三人。
「…さっきの食事の効果、だよな」
「他に心当たりはない」
「うん。……………だけどさぁ」
「うん。だからって同じものをまた食べる気にはならねぇーな」
うへ、という顔で肩を竦めるジタン。その拍子に、何かがひらりと落ちた。
「? なんだこれ」
ひょいとそれを拾い上げるバッツ。それは何の変哲もないメモ用紙。どうやらさっきの食事に添え付けられていたものらしい。
モーグリの覚書か何かだろうか。意外と綺麗な筆跡に目を走らせると、バッツはすぐにうげっと口許を押さえた。
「お、おい? どうしたんだよ」
「…うげ〜〜〜っっ………」
慌てるジタン。スコールもその背をさする。その二人の目にも、メモの内容がチラついた。…途端、うっと顔を顰める。
「うわっ…マジでオレが一番マシだったんだ…」
「………炭化するまで焼く必要がどこにあるんだ…」
「あの目玉…ヘクトアイズの眼かよ〜!!」
バッツはもう涙声だ。
モーグリメモ クポ
『目玉のスープ』ヘクトアイズの眼を入れたスープ。
『カエルの黒焼き』炭化するまで焼いたカッパーフロッグ。
『ザリガニの塩ゆで』塩ゆでにしたザリガニ。
三人は揃って、もう二度とモーグリを怒らせないこと、そして出されたものを迂闊に口にしないことを誓ったのだった。
END
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
この短編は、ほぼ出来心と悪戯心と思いつきで書かれております。
正直11でも食べる機会ほとんどないんじゃないかなぁ、目玉と黒焼きは。少なくとも海原の周囲やPT組んだ方々の中でこれ食べた人
いませんでした。ザリガニは食べました。ナイトが低レベルの時に、調理の合成上げも兼ねて。ああ懐かしい。VUせねば。
それはともかく。この11の食事ネタ、悪ノリして他のメンバーでもやってみたいなぁとか思ったり。
アップルパイ食べ過ぎて虫歯になるオニオンとか可愛い。その虫歯をペンチで抜こうとするライトさんとか。…ちょっと古典的すぎるか。
何故か鍋を囲んで団欒するセシルと兄さんと10親子なんてのも面白いかもしれない。いや鍋はあえてカオス側でやってみようか。
鍋をつつくケフカやミシア姉さん。シュール。
でもコラーゲン鍋ならクジャも食してくれると思うんだ!