-+DFF「或る終幕」+-

或る終幕








 期待していた幕引きの悲鳴は聞こえなかった。

「…君はどこまでも僕を失望させてくれるね。ジタン」
 ホーリーリングで腕を切り落とし、リモートフレアで足を潰し、フレアスターで体を焼いた。苦悶の表情と苦痛に彩られた悲鳴を待ち 侘びていたというのに、彼は最期の最期まで、歯を食いしばって耐えて見せた。忌々しい。
 彼は、苦悶の表情の代わりに、最後まで希望を失わぬ澄み切った瞳をこちらに向けた。そして、苦痛の悲鳴の代わりに、その声でクジャ の名前を奏でて。
 …あっけなくことりと頭を地面に預け、果てた。
 呼ばれた名前に込められた感情など、気付きたくもない。分かりたくもない。
「折角顔だけは綺麗なまま残してあげたのに」
 事切れた彼の体は、すう、と透き通ったかと思うと、次の瞬間には風景に融けるかのように霧散してしまった。
 遥か昔、この手で捨てた弟。時を経てこの兄の前に立ちはだかり、その野望を挫いて見せた弟。同じジェノムである筈なのに、全てが まるで違う弟。…いっそ愛しいくらいに憎々しい、弟。
 けれど彼の顔はとても気に入っていた。とりわけ、文字通り澄んだ青い空を宿したかのようなスカイブルーの瞳が特に。こんなに美しい 輝きは世界中どこを探しても見つからないだろう。もし抉り出すことができたなら、この身を飾るのに最も相応しい至高の宝石となった だろうに。
 だがそれも、もう消えて失せた。

「哀れな子」
 耳障りな女の声。振り返らずとも分かる。髪を角のように結い上げた魔女だ。
「…仲間の仇でも討ちに来たのかい」
 投げ遣りな問い掛けに返る言葉はない。
 彼女は、ただ距離を保ったまま、こちらを見据えている。
 混沌の戦士として為すべきことが色々と頭をよぎったが、すべて表層をするりと滑り落ちるだけ。今のクジャにはなにもかもがリアル ではない。そしてまた、なにもかもに興味を無くしてしまった。自分の命にさえ、もう執着はない。
 かつてあんなにも死を怖れ、生きたいと切望したのが嘘のようだ。
「やるならやればいい。僕はもう、興味が無くなったよ。この世界のことも、二柱の神のことも、もうどうでもいいさ」
「お前は確かに、混沌から選ばれるに相応しい者のようですね。心の奥底で光るものから目を逸らし、むしろそれを否定しようと、邪な 嗜虐心が囁く破壊衝動に駆られるまま戦う…」
「フン、知った風な口を。僕に言わせればお前こそ、調和よりも混沌のほうがよっぽど似つかわしい」
「いいえ。時とは、秩序の最たる象徴。それを操る私がコスモスに選ばれるのは道理です」
「秩序の最たる、ね。ならやはり君は混沌の申し子だよ。時を弄び、掻き乱し、狂わせているんだから。違うとは言わせないよ、オバサン」
「…」
 無言で掲げられた魔女の手に、魔力によって巨大な光球が出現する。
 振り返らずとも分かる。だが、クジャにはもはや戦う気などなかった。
「どうでもいいさ」
 君のいない世界なんて。





「…あんたにしちゃ随分安い挑発に乗ったもんだな」
 苦々しい溜息をつきながら現れるジェクト。魔女は霧散する死神を見送ってから振り返った。
「せめてもの慈悲です。憐れみで刺された止めよりも、発作的に放たれた止めのほうが、彼には救いでしょう」
「救い、ねェ…」
 眉ひとつ動かさずに語るアルティミシアに、ジェクトは不快感を隠さない。だが仲間内で抉れる気もないのか、がしがしと頭を掻いて その場を去っていく。
 アルティミシアもその場を去ろうと一歩踏み出し、それから、ふと振り返る。
 盗賊と死神が、共に倒れたその場所。今はもう何もない、ただの地面。

「せめて共に眠りなさい。『次』が始まるその時まで」


END  



RETURN

UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
 アルティミシアが別人28号…。
 本来こういう役割は兄さんに担っていただくべきところなのですが、最初にぽんと出て来た時からアルティミシアだったし、兄さんに お出まし頂くと最後とどめ刺してくれないんですよね…。
 ていうかむしろ時は秩序で調和がうんたらいう魔女と死神の会話が一番書きたかった(クジャジタはどうした)(いやだってジタンが 冒頭で…彼には痛い目させてしまって申し訳無いです)(ジタンに怨みはありませんよ。嫌いなわけでもないですよ。むしろ好きです。 85も好きですが589も大好きです)(好きな子っていじめたくなりませんか…ってクジャと同じ思考回路かよ危険危険;;)
 あーでもクジャジタもいいなー。クジャみたくひねくれたサディスト大好き。あ、もし実在したら関わりたくないけどね!