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とある魔女との戦闘記録inとある輪廻








「うぇっぷ、なんだぁ!?」
「うっわー、またえらい場所(とこ)に出たな〜」
 世界の境界を飛び、新たな『世界の断片』へ出たコスモス戦士一行。そこは一面の砂漠で、風に乗って顔についた砂をティーダが払い、 ジタンはうへぇと顔を歪めた。
「こういう時、ぶ厚い鎧っていいッスよね〜」
「いや、かえって隙間とかに砂粒が挟まって、後で手入れするのが大変なんじゃないか? それにこの陽射しじゃムレて汗だくだぞ」
「…。一長一短。どちらも的を射た意見だな」
 気楽に言うティーダと、自身も戦士等のジョブで鎧を着込むことがあるバッツ。それぞれに苦笑しながら頷き返して、ゴルベーザは前方を 見遣る。
「しかし、どうやらこの砂漠を抜けなければ、先へは進めぬようだ」
「「「えーっ!!」」」
 ゴルベーザが静かに指差したほうを見て悲鳴を上げる年少組の三人。確かに彼の言う通り、砂漠を通り抜けた向こう側に、次の世界への 境界が現れていた。
「マジッスか…砂漠って熱いし砂だらけだし足取られるし、大変なんスよね〜…いっそ海を抜けた向こうならよかったのに」
「まあまあ。折角だから楽しもうぜ! ほら、見ろよ」
 ひょいひょいと踏み出したバッツ。流れが激しくなっている辺りに足を下ろすと、ざぁ、とローラーブレードでも履いているかのように スピードに乗って滑っていく。
「おおっ!?」
「む…」
「うっわ、すっげー! なんだここ!」
 ざざざと音を立てて一回りし、戻って来るバッツ。ふっと一瞬体を浮かせ、スタッと着地。
「ここ、オレの世界の断片みたいだ。流砂の砂漠って言ってさ、こうやって流れの強いとこに足乗せると勝手に滑り出すんだよ」
「おおお〜!!」
「つまり、流れをよく見て、向こう側に辿り着けるルートを見つけないとダメってわけか」
「そういうこと」
「よおっし! そういうことなら、オレに任せておくッスよ! それっ」
「む…待て、迂闊に動かぬほうが良い! ティーダ!!」
 はしゃぐ年少組には、年長者の言葉は届かない。早速、さっきバッツが乗った流れとは別の流れに足を乗せて滑り出すティーダ。
「ヒャッホー!!」
 景気良く声まで上げる、が。
「危ない!!」
「え!?」
 ゴルベーザの声が響き、直後、ティーダのいた辺りからドォと砂柱が立つ。
「ティーダ!!」
「敵か!?」
 ザッ、と砂を弾かせて宙を舞うティーダの体。くるりと身を翻し、警戒するジタン達のところへ戻って来る。どうやらゴルベーザの声に 即座に反応し、咄嗟にジャンプで避けていたようだ。
「フッフッフッ、来たな! 調和神の手駒どもよ」
 雄々しい声が響き、砂柱の収まった向こうから大きな体躯の人物が現れる。
 身構えるバッツ達。敵は流砂をもろともせず、ズン、ズンと地響きさえ立てながらこちらへ歩いて近づいてきた。
「新手か…!」
 それはまだ誰も見たことのない人物だった。甲冑を着込んだゴルベーザよりも一回り以上大きな巨体と、同じくゴルベーザの倍はあり そうな長身。鎧の上から肉を張ったかのようにぶ厚い筋肉、そして顔の輪郭を縁取るようなフェイスマスク。
「こりゃまた、とんでもないマッチョマンのお出ましだな」
 両手に携えた短剣を握り直すジタン。いっそ惚れ惚れするような筋肉の鎧には、正直、短剣で太刀打ちできるか疑問だ。クラウドが いてくれれば、あのバスターソードでなら一刀両断できそうなのだが。
 同じことを考えたのか、バッツは迷わずバスターソードを具現化し、構えた。
「フン、子供ばかりか…。コスモスの趣味も知れるな」
「見た目が小さいからって、油断してたら痛い目見るぜ」
「敵と相対して名乗りも上げられぬ小童が。口だけは減らぬようだな。よかろう、この魔女アデルが粉々にうち砕」
「「「はあああああ〜〜!????」」」
 口上を掻き消す勢いで、バッツ、ジタン、ティーダが叫ぶ。顔いっぱいに驚愕の表情を張りつけて。
「ま、魔女!? 魔女って言ったッスか今!!」
「…な、なんだいきなり。いかにも、我が名は魔女アデr」
「魔女ぉぉ〜!!??? 嘘だろ、レディだってのかよ!! 魔人の間違いじゃないのか!?」
「…ジタン、君は私に何か含むところがあるのかね」
「いや、おっさんのことじゃねえって」
「おっさ…、………私はまだ三十なのだが………」
「ふふ、仲良さそうだね」
 さらっと口にしたジタンの言葉にショックを受けるゴルベーザ。その背後から、黒い影が現れた。
「まるで本当の兄弟みたいだ。羨ましいな」
「セシル…!!」
 それは、何の因果か混沌の神に選ばれ暗黒騎士に戻されてしまった、血を分けた実の弟。
「僕達も…、一緒に育っていれば、こんなふうに笑い合えたのかな」
「…セシル…」
「それとも、僕みたいな臆病者は、やっぱりいずれ嫌われてたのかな」
「セシル………」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「だああああっ!!! 黒いのが二人突っ立ったままストップするなよ!!」
 複雑な表情…かどうかはフルフェイスタイプの兜に覆われていて分からないが、漆黒の鎧が二体向かい合ってただ黙って見合っている だけというのは、どうにも見ているほうがイライラする。思わず声を上げたバッツだが、それでも二人は武器も出さずに見合うばかり。
「フン! 仲間のことを気にしている場合か!!」
 はっと振り返る。すっかり戦う間合いに入っていたアデルが、ブンと腕を振り上げていた。
 魔法が来る! 咄嗟に三人とも、その放たれるタイミングを狙って回避するべく集中する。
「はああああ!!」
 が、アデルは振り上げた腕をそのまま地面に振り下ろした。ドウ、と悲鳴を上げて砂と一緒に大地が砕ける。
「「ええええ!?」」
「うがッッ」
 その拍子に上空へ吹っ飛ばされたのはティーダとジタン。少し離れていたバッツは飛び散った大地の欠片に撃たれてブレイブダメージを 受けてしまう。
「ぬおおおおおおおお、ふんっ!!!」
 アデルの攻撃はそれだけでは止まらない。振り下ろした腕でそのまま大地を掴むと、三メートル四方ほどのブロックに地表を剥がし取り、 更に上空へぶん投げた。
「っぎゃーっなんだこりゃーっっっ!! 受け身が取れねえぇぇ!!!」
「あれっ、オレこんな攻撃どっかで見たような…どこだったっ……わあ!!」
 上空に放り投げられていたジタンとティーダを直撃。二人のHPは一度に半分ほど奪われてしまった。受け身を取って着地すると、アデル はふふんと満足げに筋肉を脈動させる。
「どうだ、我が力味わった感想は!」
「いや、今の、仮にも魔女って名乗ったヤツの攻撃じゃないだろ!!」
「魔女なら魔女らしく魔法使ったらどーなんッスか!!」
「そうだよ!! なんだよその隆々しい筋肉は!! 魔女ってもっとこう、魔法を自在に操ってさぁ!!」
 まったくもって納得いきません、と全力で抗議するジタンとティーダ。その後ろで、バッツが「あっ!!」と声を上げた。
「しまった、今のHP攻撃だったんだよな!! ブレイクのチャンスだったのにー!!」
「ブレイクなんか今どうでもいいよ!!」
 しかし、悔しがるバッツをあっさりすっぱり、一言で切り捨ててしまうジタン。ぐさっ、とバッツの胸に矢が刺さったのは目の錯覚では ないと思う。
「ちゃんと腑に落ちるように説明してもらおうじゃん。あんた、魔女だってんなら魔力を持ってるはずだよな!!」
「無論。総てこの至高の筋肉を維持し、更に高めるために常に費やされている」
「はああぁぁぁ〜〜!!???」
 ジタンはもはや怒りさえ沸いてくる。なんだこのふざけた魔女は。しかしアデルは満足げ、そして大変自慢げに、ふん、と筋肉を盛り 上げて見せる。
「魔力といえば魔法とは、あまりにも短絡的だな。あのようなちまちました小技など、理想的に鍛え上げた肉体の前には無力よ!!」
「うわっ、魔女のくせに魔法全否定しやがった!」
「完成された筋肉がどれだけ素晴らしいか…その身を持って知るがいい!!」
 ザ、と砂を踏み締めたアデルは、踏み切ったと思ったらジタン達の目前に。
「「「ええ!?」」」
「むおおおお!!!」
 再び振り下ろされる拳。三人は咄嗟に回避してかわしたが、アデルは砂に突き立てた腕を支点にして更に回転蹴りを繰り出す。
「「ぐぁっ!」」
 これをモロにくらってしまったのがジタンとバッツ。吹っ飛ばされて、バトルフィールドの境界に激突してしまった。
「いってててて…! …ウソだ…あれで魔女とか絶対ウソだ!!」
「魔女…? 魔女…か。あ、そっか。よしっ!」
 地上に着地する二人。地団太を踏むジタンの隣で、バッツは何か閃いたようだ。
 一方、ブリッツボールを当てて吹き飛ばし、とりあえず間合いを取ろうとするティーダだが、アデルの筋肉装甲は固く、ガードで弾き 飛ばされてしまう。うげっと顔を顰めたところに懐へ飛び込まれ、拳を叩き込まれる。
「くそっ、その巨体でそのスピードってありえないだろ!!」
「甘いわ! 理想的な筋肉に無駄な重量などない!! 我が魔力によって鍛えておれば尚更のことよ!」
 フフン、といかに筋肉が素晴らしいかを称えるアデル。彼女の完璧な肉体は瞬発力も素晴らしく、また鎧も不要な強度を誇るのだと、 延々語りながら拳や蹴りを繰り出してくるのだからたまらない。
「あ、そっか!!」
 絶対ガードクラッシュされる、と回避を繰り返していたティーダだが、唐突にぽんと手を打つ。間合いを詰めようとしていたアデルが ぴくりと動きを止め、怪訝そうに眉間に皺を寄せた。
「何だ、小僧」
「わかった。あんたアレだろ、体は男だけど心は乙女ってヤツ!!」
 ぴしっ、とフェイスマスクの影で青筋が立つ。
「だから魔女って名乗ってんだな。そっかーそっかー、よーやく納得いったッス。あ、気にすることないッスよ、ザナルカンドにもそんな ヤツちらほら居たしさ。探せばきっとこの世界にも……………って、アレ?」
 ぷるぷると違う意味でアデルの筋肉が震えている。
「…フッ…小僧、いい度胸だ………。よかろう、それほど死に急ぎたいのなら、ここで引導を渡してくれる!!」
「ちょ、図星だったからって怒ることないだろ!」
「何が図星か!! 私は心も体も女だ!!!」
「わかったわかった、わかったッスから、も〜」
「聞き分けのない子供をあやすようなリアクションをするな!!!」
 ブチ切れたアデルがティーダに襲い掛かる。と、そこへ。
「風よ!!」
「むぅっ!!」
 アデルの周囲に、球体を形作るような風の魔力が発生する。
 バチバチと音を立てるHP攻撃。はっとティーダが周囲を見遣るが、この魔法を操る小さな淑女の姿はない。代わりに、同じモーションで 空中に浮かぶバッツの姿。
「あ、そっか、『ものまね』ッスね」
 なるほどと頷くティーダの前で、攻撃から解放されたアデルがくるりと受け身を取る。
「フン! この程度の」
「風よ!!」
「おおおお!?」
 またもや『エアロ』に捕らわれるアデル。
「ええい小癪な、きさm」
「風よ!!」
「まてえええええい!!!」
 あーハマッたッスねー、とティーダがのんびり空中に浮かぶアデルとバッツを見遣る。その隣にジタンが、そして後ろからゴルベーザと カインがやってきた。
「お前達、大丈夫か」
「あれ、カインも来てたんだ。あの通り、もー大丈夫ッス。サンキュ」
 カインが差し出したハイポーションを受け取りながら、空中の二人を指し示すティーダ。
「…さっきの暗黒騎士は?」
「セシルは…」
 言い淀み、俯くゴルベーザ。隣でカインがぎりっと奥歯を噛み締める。
「…そっか」
 戦いにならなかった代わりに説得も失敗したのだろう。神妙な表情で、差し出されたハイポーションを受け取るジタン。
 その後ろから、バシュッ、とブレイブブレイクの音がした。
「細切れにおなり!!!」
 高飛車に言い放つバッツの目の前には、アデルを巻き上げる巨大な竜巻。
「おのれえええぇぇぇぇぇぇぇ」
「オーッホッホッホッ!!」
 アデルの断末魔と、バッツの高笑い。
「……………どういう光景だよ、これ」
 げんなりと額に手を当てるジタン。ティーダ達も苦笑いを返すより他なかった。
「やっとやっつけたぜ〜! …あれ?」
 テンションの低い四人の元へ駆け寄ったバッツが、きょとんと首を傾げる。
「あー、いや、なんつーか、助かったッス」
「しっかしお前、ノリノリだったな」
「シャントットの『ものまね』って面白いんだよ、色んな魔法使えるし。てか、ゴルベーザ、弟はいいのか?」
「よくは、ないのだが…」
「…アルティミシアとかいう魔女にあれこれ吹き込まれた上、パラディンの力を封じられたらしくてな。自暴自棄になって、俺達の言葉を まともに聞こうとしない」
「あ、オレ知ってる。そういうの、ヤンデレっていうんスよね」
「いやそれなんか違………………」
 苦笑するジタンだが、はた、と言葉が止まる。

「………魔女、か」


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「わたくしの城に乗り込んで来るとは…」
 ふわり、と黒い羽根を散らすアルティミシア。時の流れが乱れ、歯車がガラガラと音を立てて狂ったように回り、城の輪郭がぶれて歪む。
「いいでしょう。魔女の領域を侵そうとしたこと…後悔させてあげましょう」
 キン、と空を斬るような音が耳を突き、上空に闇の色をした魔力の矢を創り出す。
 ところが、侵入者達はそれを見て、武器を出して構えるどころか、目をキラキラさせて満面の笑顔を浮かべた。
「……………っくぅ〜〜〜っ!!! これこれ、これだよな!!」
「魔法の矢! 魔法で動く歯車! 魔法でおかしくなる空間! これぞ魔力の正しい使い方って感じッスね!!」
「ああ! やっぱ魔女って言ったらこうでなくっちゃな!!」
 テンションを上げて騒ぐジタン、ティーダ、バッツの三人は、いえーいとハイタッチ。その後ろで道案内をさせられた獅子がげっそりと 肩を落としている。
「はぁ〜スッキリした! じゃ、行こうぜ!」
「邪魔して悪かったな! お礼に、ここは避けて通るから!」
「とりあえず魔女の邪魔はしないッスよ」
「レディがオレ達の邪魔するってんなら、話は変わるけどな」
「あ、でもスコールはいいのか? あの魔女、宿敵なんだろ?」
「……………(……馬鹿馬鹿しい………)」
 言いたい放題言って、さっさと出て行ってしまう調和の戦士達。



 後には、意味不明なまま放置された時の魔女だけが、ぽつねんと取り残されていた。


END  






〜オマケ・アデルさんの言い分〜

―――では、調和神側の戦士さん達に負けた今でも、筋肉一番魔法は二番なお気持ちは変わらないんですか?

「無論だ。次に会った時こそは、この至高の力を証明してみせる。小娘、貴様も体を鍛えるがいい。素晴らしい力が身に付くぞ」

―――私は結構です(きっぱり)。それよりアデルさんって、本当に全然魔法使えないんですか? 魔女なのに。

「使えないのではない、使わないだけだ」

―――じゃあ、たとえばどんな時に使うんですか?

「そうさな…。例えば、未熟な魔女を捕縛して体力を吸い取りながらの戦闘を余儀なくされた場合などだな」

―――なんか、随分限られた状況というか、妙に具体的ですね…。

「とにかく! あのふざけた小僧共にこの力を認めさせ、味わわせてやるまでは、元の世界へ戻るに戻れん!! 幸いカオスとの縁はまだ 切れておらぬからな…フッフッフッ、首を洗って待っておるがいいわ!」

―――…。(この人のキャラ紹介、筋肉フェチの一言でいいよね…。)

(ヘルプメッセージ担当パンネロのインタビューメモより抜粋)



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 アホな話です(笑) 笑い飛ばしていただけましたら大成功という感じです。
 デュオデシム発表前に書いた話なので、あくまでサイトにのっけてる海原の好き勝手設定に基づいております。なのでデュオデシムとは 色々食い違ったり齟齬があったりしますが、広ぉーいお心で軽く流していただけましたら幸いです。
 サイトに掲載すると言いっぱなしで長らく時間が掛かってしまい申し訳ありません。