諦めない。だけど、『次』もきっと。
ああ、またリセットかな。
炸裂する寸前の魔法の光と、それを悠然とこちらに向けている男の姿。それが、目に入った血のせいで、薄い赤の幕を張った向こう側に、
まるで他人事のように見える。ぼんやりとその視覚情報を脳に受け取りながら、小さな諦めの息が零れた。
(折角お前が好きだって言ってくれたのにな)
『次』でもまた、言ってくれるかな。それとも、俺のほうから言ってみようか。だけどお前、記憶リセットされちゃうしな。いっそ俺も
リセットが効けばいいのに。味方はその都度変わるんだから、『ものまね』できる技だってその度に変わるんだし。
そんなことをつらつらと考えられるほど、いやに時間の流れがゆっくり感じる。皇帝の手から放たれた魔法が、向かって来る。ああ熱そう
だな痛そうだなと、まだ他人事のような感覚でうっすら思う。
「バッツ!!」
一気に意識を覚醒させたのは、獅子の咆哮。同時に飛び込んで来る黒い背中。
―――――――スコール!!
「……っぐ」
受け止め切れず、揺らいだガンブレードの隙を突くように、魔法が炸裂した。バッツの身を焼くはずだったそれは、スコールの体だけを
焦がす。
「ス…、スコール…!! なんで…!」
「フン。虫ケラが、悪あがきを」
勝ち誇った皇帝は、こちらがもう抵抗できぬほど深手を負っていると分かっているからだろう、悠然とこちらへ向かってくる。
仲間達はそれぞれ別の敵と戦っている。助勢は期待できない。かろうじてセフィロスの剣戟から逃れ、体勢を立て直そうとしたクラウドの
姿が目に入り、そしてそれを見た瞬間、意識するより先に体が動いていた。
「フルケア!!」
ものまねによって発動した、クラウドと同じ魔法。それは一瞬にしてスコールの傷をすべて癒し、彼のコンディションを完全に立て直す。
「死ね!」
直後、振り下ろされる皇帝の杖。
しかし、鋭さを取り戻したガンブレードの敵ではない。杖はあっさりと弾き飛ばされ、皇帝の手から遥か遠くへ離されてしまう。
「何っ!?」
「死ぬのは…」
元々杖が届くほどの間合い。詰める必要もない。ガンブレードにセットされた魔法弾を即座に交換し、トリガーを引いて一気に解放させた。
「貴様だ!!」
魔法の刃が巨大化し、皇帝の体を問答無用で叩き伏せる。
お約束のウボァーという絶叫を残し、彼はそのまま消滅した。
がくり、とその場に膝を付いたバッツを、スコールが支えた。
「バッツ! しっかりしろ」
「…だ、大丈夫」
「どうして俺から回復させた! あんたのほうが重傷だろう」
「いや…さっきのはお前のほうがヤバかったじゃん、どう見ても」
エクスポーションの光でバッツを照らすスコール。心地良い光の感触と、急速に傷が癒えていく感触を味わいながら、バッツは小さく
苦笑してしまう。
危機は去った。バッツは白魔道士にジョブチェンジして自己ケアルすることもできる。スコールもよく知っているだろうに、そんなに
慌てて貴重なアイテムを迷わず使ってくれるなんて。
嬉さがくすぐったくて、まっすぐに顔が見れない。
照れ隠しに周囲を見れば、仲間達はそれぞれ宿敵と決着をつけ、或いは一旦退かせることに成功していた。とりあえずの脅威は去ったと
見ていいだろう。やっと死闘から解放され、皆自分の回復で手一杯という様子だ。
その周囲の様子に気付いているのかいないのか、エクスポーションの光が消えてもスコールはバッツを離そうとしない。むしろ、離すまい
ときつく抱き締める。
「…あんたが、やられたかと思った」
「………スコール…」
バッツの首筋に顔を埋めて、肩を震わせるスコール。滅多に見せることのない、年齢相応の姿。
震える声で、囁くよりも小さな音で、怖かった、と。
皮膚に押しつけられた唇から、あんたを失うかと思うと怖かった、と。
(…ああ、おれってバカだ)
たとえここがリセットを繰り返す世界であろうとも、大切な人を失う痛みが和らぐわけではない。ましてや、目の前で殺される様など、
誰が目にしたいと思うだろう。
なのに、生き抜く意志を一瞬であろうと失って、流されるまま倒されるのを待つなんて。その挙句、大切な人に庇わせてしまうなんて。
「ごめんな」
「…謝るな。あんたは、ここにいるんだろう」
「うん。…ごめん」
ニ度とお前を置いていこうなんてしないから。
だから『次』もきっと、おれを好きだと言って。
スコールとまた出会えるのなら、この神々の闘争は未来永劫続いたって構わない。
この一瞬だけはそんなことを本気で思いながら、バッツは目を閉じてスコールの口付けを受けた。
END
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
恐らくこの頃はカインやセリスがいたんだろうなーとか妄想しつつ、過去大戦話でした。
仲間がみんないるところでチューとは中々大胆だなとか身も蓋もないことを自分でつっこんでみたり。
クラウドは位置的にうっかり目に入っちゃって、二人に気付かれないようにさりげなく顔を逸らしたりとかしてそうです(笑)