-+DFF「夜明けまであと少し」+-

夜明けまであと少し








 目覚めると腕の中に他人の気配がある。そんな不自然に、いつの間にか慣れてしまった。
 チームを組んで長期間の任務に当たる場合、雑魚寝は珍しいことではない。戦場では男も女も関係なく、貴重な休息の間に、より効果的 に疲れを取ることのほうが重要だ。他人の気配に惑わされず、だが警戒は怠らずに睡眠を取る。それには慣れているから何の問題もない。
 だが。
「………ん〜…ボコ………」
 むにゃ、と暢気に眠り込む旅人は、猫のように頬をスコールの胸に摺り寄せ、幸せそうな顔でにへらと笑う。
 スコールはその暖かい体温を抱き込みながら、テントの外の様子を伺った。どうやら朝まではまだもう少し時間がありそうだ。
 まだもう少し、こうしてバッツの体温を感じていられる。そのことに幸福感を抱く自分に戸惑いながらも、今更律する気にもなれない。

 他人を遠ざけ、一人で生きてきたはずだった。これからも一人で生きていくはずだった。
 なのに、何の因果か異世界の神に召還され、異世界で尖兵として戦う羽目になり、そこで出会った異世界の青年と、こんな風に馴れ 合うことになろうとは、想定外もいいところだ。
 しかも、それを不快に思うこともないなんて。
「…少し前の俺なら、考えられないな」
 小さく、本当に小さく呟いて、スコールは茶色の髪に唇を落とした。

 もはやクリスタルの力も残り僅か。一刻も早く、カオスを倒さなくてはならない。
 それでもスコールは、もう少し、こうしてバッツと二人でいたかった。

 それぞれの世界へと別たれてしまうまでは。







 ふと意識が浮上すると、人の温もりに包まれている。そんな不自然は、既に自然に変わっていた。
 他人の体温を感じながら目覚めることに、こんなにも安堵を感じるなんて。
 瞼を開くと、目の前には黒いシャツと逞しく引き締まった胸板。そして、彼の世界では空想上の生き物だというライオンを象った、 シルバーのアクセサリー。
 暖かな気持ちに満たされて、彼を起こさないように、そっと頬を摺り寄せた。愛する人の気配の傍で眠ることができる、これこそ至福 だとバッツは思う。

 ずっと一人で生きてきた。母はバッツがまだ幼い頃儚い人となってしまったし、生きる術を身をもって教えてくれた父もその隣で眠りに ついて久しい。ボコという相棒はいたが彼は『人』ではないし、お嫁さんと子供ができて家庭を持った以上、今までのように自分との 当て所ない旅に連れて行くわけにはいかない。
 故郷と呼べる村はある。しかし、そこには懐かしい思い出と幼い頃を知る友はいるが、生家は既に人手に渡っていて『帰る家』 ではなくなってしまった。僅か数年、だが確かに家族三人で過ごした、大切な時を刻んだ家。けれどそこにもう、母や父の匂いや気配は 残っていない。村に帰って眠る場所はかつて自宅だった家のベッドではなく、宿屋の借り物の寝床。
 自分には帰る場所がない。落ち着いて安住できる場所がない。きっとこうして一生放浪しながら、どこかで人知れず大地に還るのだろう。 そう思っていた。もし父ドルガンが遺言を残さなかったとしても、逆に村に帰れと言い遺していたとしても、ひとつ処に定住することは できなかったに違いない。
 ひょんなことで出会った仲間達と一緒に世界を救う旅をしても、その確信は変わらなかった。彼女達を始めとした、旅先で関わった多くの人々 ―――気のいい海賊達や科学者シド、父の知己であった人達は皆、自分の故郷や住処にバッツの居場所を作り、我が家だと思っていつでも 来るといい、と言ってくれた。ずっとここにいてくれていいんだよ、と。その気持ちは嬉しかったし、彼ら彼女たちと共に過ごせる時間は とても楽しい。それでも、どこもバッツにとって安住の場所になることはなかった。自分の居場所だと感じられるようにはならなかったのだ。

 けれど、今。
 確信を持って、ここが自分の居場所なんだと言える。
 いつまでもここにいたいんだと、心から願う場所。
「……スコール」
 小さく小さく呟いて、シルバーのライオンとそれが乗る皮膚へ、唇を押し付ける。
 なきゃないでまぁいいか、なんて諦めたつもりだった。特に欲しいとも思っていないつもりだった。けれど、こうして見つけてしまって 初めて気付く。本当は、どこかに帰りたかったのだと。ずっとここにいてもいいんだと思える場所が欲しかったのだと。
 それが、異世界で出会った、更に異世界の青年の傍だなんて、夢にも思わなかったけれど。

 コスモスが託したクリスタルの力は、刻一刻と弱まっている。もう残された時間は少ない。
 だがカオスを倒せば、二柱の神を両方とも失ったこの断片世界は消滅し、新たなる世界へと生まれ変わるだろう。役目を終えた戦士達は 召還主の束縛から解き放たれ、元の世界へと戻ることになる。
 別れ以外に、二人を待ち受けるものはない。
(…けど、そこで終わりだなんて、おれは認めない)
 絶対にスコールの世界まで追いかけてやる。諦めてなんかやるものか。
 何故ならそこは―――――スコールの傍は、やっと見つけた自分の居場所であり、帰る場所なのだから。


END  



RETURN

UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
 思ったよりバッツの内面がロンリーになってしまいました。
 けど考えてみたら、スコールは一人であろうとしていたけど、学園の敷地内に寮がある生活環境で本当に「一人」になるのは不可能なわけで。
 チョコボ一羽連れて「独り」で旅を続けていたバッツのほうが、実は孤独な人なんじゃないかしら、と。ボコのが先に家庭作っちゃったし(笑)
 まぁ出るところに出れば人が集まってくるんだから天涯孤独というには人気者な気もしますが。
 それにあの頃のボコは結構長いことお留守番してたんだから、その間に恋しちゃうのも無理ないよね☆ みたいな。
 ていうか何が言いたいのか自分でよくわからなくなってきました。蛇足はこのへんにしてそろそろ黙ります。