lullaby
(序)
瞬間、腹部に激しい熱を感じた。
えっ、と思った時には、破れたパイロットスーツから海水が無遠慮に入り込んできて、腹以外の場所が全部冷たくなった。
もわりと広がる、生暖かい感触。
これ………オレの血?
赤く揺らめいてゆく視界の中で、何故か一人の少年のことを思い出す。
一度きりしか会っていない、あの恐ろしいほど綺麗な瞳をした少年を。
それから、一瞬の内にいろんな顔がめまぐるしく回った。
見た目は典型的なヤンキーのくせに兄貴みたいに世話焼きで心配性のスティング。大佐なんて仰々しい肩書き背負ってる割にやたら
フレンドリーな黒猫仮面のネオ。あ、いっぺんこいつの素顔拝んでみたかったな。いけ好かなねェスタッフの連中とか、ネオの部下の
ヤツらとか、アビスとかカオスとか、全然関係ないようなヤツらの顔まで出てきて、調節されてるハズのオレの記憶でも結構残されてる
もんなんだな、とかぼんやり考えた。
それから…金髪がゆらゆら回る。
………そっか。これだ。忘れてた大事なこと。
戦闘力はオレらとタメ張れるくせに、普段はぽやーっとして、とろんとしてて、その上優しくて可愛い顔してるもんだから危なっかしい、
オレらの妹。
ステラ。ステラ・ルーシェ。
ま、妹っつったって、血が繋がってるワケじゃねーけど。
あいつ、オレが『機能停止』しちまったの見て飛び出したんだっけ。記憶消されたってことは………やられたのかな、ザフトに。
ちくしょう。
守ってやるんだって決めたのに。
こんなことになるんなら、もっと優しくしてやったらよかった。
ああ。
んな事言ってももう遅いか。
目の前、真っ赤だ。
あーあ。
もう一回くらい…会いたかったな。
バイバイ、キラ。
幼い眼から涙が溢れ、ヘルメットの中を完全に侵食した血や海水と、すぐに混じってしまう。
直後。
どぉん、と水面が激しく震えた。