--「lullaby」終--

lullaby

(終)








 一面の海。

 凄惨な戦いをくぐり抜け、オーブの誠の信念を貫くべく、カガリの元へ…このアークエンジェルへ集ったオーブ軍人達の受け入れを終え、 とりあえずの嵐は過ぎようとしていた。
 元々小人数だったアークエンジェルからラクスとバルトフェルドが宇宙へ向かい、静かすぎたくらいの艦内。それが一転して大所帯に なった。志を同じくした民との合流は、カガリにとっても心強く、大きな支えとなるだろう。
 まあ大所帯と言っても、軍艦と考えれば圧倒的に少ない人数ではあるのだが。

 落ち着きを取り戻した艦内で、キラはそっと一人になれる場所を探した。
 そうして辿り着いたのが、アスランとの話し合いが平行線のままで終わってしまった直後にラクスと語り合った、この場所だったのだ。
 部屋に戻れば一人にはなれるが、居住区は今、新たに乗り込む事になったオーブ軍の人々が部屋割りをしているところで、一人の空間は 得られても静けさは得られなかった。

 話し合いは平行線、いや、感覚的には決別に近い。そればかりか、今度の戦いでは彼の機体をもバラバラに切り裂いた。
 先の戦争が終わって、やっと穏やかな時間を取り戻し、共にいられるようになったというのに。それなのに、ほんの少し離れた僅か ばかりの間に生じた溝は、自分が考えていたよりも遥かに深く広がってしまっていた。
 アスランのことは気がかりだが――――。

「………」
 だが、今キラの心を占めているのは、友のことではない。
 ぎゅっと握り締められる両手。止められない涙。
「アウル…」
 印象的な明るい水色の髪。屈託のない表情。やんちゃに跳ねる声。
「……………アウル…!!」
 また会おうねと言って別れた。
 また会いたかった。
 平和な世界で、また二人でカフェに行って、いろんな話をしたいと思った。一緒に遊んで、一緒にいろんな景色を見て、楽しい思い出を 積み重ねていきたかった。

 あの戦闘の中で、一瞬胸を貫いた、あの感覚。
 どうして分かってしまうのだろう。
 気付くことがなければ、信じていられるのに。きっとどこかで生きていると。

 前大戦のある頃を境に、ムゥがラウ・ル・クルーゼと通じ合えたのと同じ能力が、キラにも目覚めた。それは時を追うごとに強まり、 一度出会ったことのある相手の気配が、直感的に感じられるようになってしまった。
 ことに、自分に強い意識が向けられている場合や、生命に関わる何かが起こった時などは、電流が流れるような強い衝撃が走る。
 それはもう、間違えようがない。


 静かな、一面の海。
 この広大な海のどこかに、アウルは眠っている。
 深海の静けさの中、優しく響く波音を子守唄にして。

 もっともっと話したかった。
 もっともっと、色々なものを一緒に見てみたかった。
 ………君のことを、もっともっと知りたかった。



 キラは、泣いた。
 さよならと伝えることができない代わりに、一人で涙を流し続けた。




END




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