+-mix「プロローグ」【十五年前】-+

プロローグ〜クラウド&セフィロス
【十五年前】









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 斬り伏せた魔物は、自らを『闇の王』と名乗った。

「…厄介だな」
 ビュ、と重く風を斬る音を立て、男は愛刀についた血を払う。
「縁起でもない事を言わないでくれ」
 大声でもないのにまっすぐに届く声。いや、彼の声だからこそ、だろうか。
 全身を鎧で固めた彼の顔は、フルフェイスの頭装備に隠されて見えない。―――だが間違えるはずなどない。
「獣人軍の総大将をあっさり倒しといて、何が厄介だって言うんだ。それにあんたが厄介だなんて言うようなこと、誰の手にも負えない」
「どうかな。お前はそのオレを止めただろう。………クラウド」
 男に向かって歩み寄っていた彼の足が止まった。そして、ゆっくりと頭装備を外す。
 トレードマークのチョコボ頭は相変わらずなのだな、と男の頬が僅かに緩んだ。
「久しぶり」
「ああ。…一万年ぶりか」
 頷く彼に、男も一歩あゆみ寄る。
「闇の王よ、覚悟!!! おおっ!? セフィロス殿、これは!?」
 だがそこにぞろぞろとアルタナ連合軍が駆け込み、その途端、部屋を占領している巨大な魔物の死体に驚いて足を止めた。セフィロスと 呼ばれた、長く美しい銀髪を持つ長身の男は、やれやれと小さく溜息を零す。
「見てのとおりだ。『闇の王』は討ち取った」
 おおお、とどよめく兵士達。
「な、なんと…!」
「我々が一年かけて戦ってきた獣人軍を、『闇の王』を、一夜にして!?」
 どよめく連合軍。やがてそれは、歓喜に満ちた勝鬨の声に変わってゆく。

「我等人間の勝利だ!!」
「女神アルタナのご加護に感謝を!! 英雄セフィロスに栄光あれ!!」
「セフィロス! セフィロス!」
「英雄セフィロス!!」

「…厄介なことって、まさかこの事じゃないだろうな」
 そっとセフィロスとの距離を詰めたクラウドが、周囲に気取られないように囁く。耳打ちしたいのだが、唇が彼の耳まで届かない身長が 大変に悔しい。
「この事?」
「千年王国を滅ぼしたあんたが、今度は英雄扱いだからな。気分がいいとか言ったら軽蔑するぞ」
 クッ、と珍しく自嘲気味に笑う、銀髪の英雄。
「まさか。…今後を考えれば、好都合ではあるがな」
「?」
 怪訝に見上げるクラウド。もうセフィロスの顔に笑顔の気配はない。
「今後って…どういう意味だ。闇の王はあんたがたった今倒しただろう? これ以上何があるっていうんだ」
「クラウド…」
 浮かれる周囲をいいことに、彼にだけ伝えようとその耳元へ唇を寄せるが。
「英雄セフィロス!! さあ、ジュノへ凱旋と参りましょう!! デュランダル大公に、各国に、あますことなくこの勝利を轟かせましょうぞ!!」
 この『闇の王の間』に突入してきた師団の隊長だろう。セフィロスに敬う礼を取って、さあ、と誇らしい満面の笑みでもって出口へと 勧める。隊員達もズラリと並んで、セフィロスに敬礼している。
「…」
 仕方ない、と二人は顔を見合わせて苦笑した。アルタナ連合軍に紛れ込んでいる身であるクラウドは、周囲に合わせて一歩下がり、敬礼。
「よせ。大袈裟だ」
 フ、と愉快そうに小さく笑うと、クラウドの敬礼の手を取って降ろさせた。出口へ向かおうと足を踏み出す直前、きゅ、と強く握って、 それから離す。敬礼を降ろさせたのは当然、クラウドの手を取るための口実に過ぎない。一万年ぶりに触れた感触を名残惜しむように、 銀の輝きが揺れて後ろ髪を引く。

 テレポやデジョンで帰れば早いものを、連合軍は敗残兵である獣人達に見せつけるように、高らかに勝利を宣言しながらジュノへの長い 帰路についた。
 ―――――それが道化の如きパフォーマンスだとも知らずに。


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「どういうことなんだ」
 緊張したクラウドの声に、やはり緊張した面持ちのザックスが唇を引き結び、二人の足元でミクルがきゅっと両手を重ねて握り締めた。
「セフィロス達の言っていることは、本当なのか」
「…はい。本当です…」
 おずおずと頷くミクル。クラウドは彼女に視線を落としてから、ザックスに戻す。
「オレ達ウィンダスの神子が先見の能力を得ることは説明したよな。そのオレ達全員の先見に、『闇の王』は何度も何度も出て来るんだ。 しかも、結構近い未来にな」
「あの、詳しいお話は、ラクスとセフィロスさんが戻ってからにさせて下さい。セフィロスさんは、『闇の王』の意識に触れているはずですし、 私達も彼にお尋ねしたいことがあるんです。尋ねて、確かめたいことが」
 一生懸命と大きな瞳に書いたミクルにそう言われては、クラウドは頷くしかない。
―――今度こそ…この大陸を救えたと思ったのに…。
 ぐっと拳を握り締め、まだ演説の続く大公の邸のテラスを見上げた。

 そこにはそうそうたるメンバーが並んでいる。
 不老不死の処置を施されたジラート人の生き残りであり、その英知を余すことなく活用して、僅かな期間でジュノを今のような大国へと 推し上げた大公デュランダル。ヒュームとガルカの融和政策を進めるバストゥークの大統領ウズミ。ウィンダスからは、まだほんの幼い 少女でありながら一国の代表の一人である、星の神子ラクス。戦争終期に後継者問題が荒れたサンドリアからは、つい先日現国王のご落胤 であると認められ、他の王子が全員戦死を遂げたためにすぐ第一王位継承者となった、クルーゼという名の青年が代表を務めていた。
 高らかにアルタナ連合軍の勝利を宣言したセフィロスは、その同じ口で、『闇の王』は必ず復活してくると告げた。それも、そう遠くない未来に。
 そうして再び獣人達を纏め上げ、人間に戦いを仕掛けてくるだろう、と。
 どよめく大衆を静まらせたデュランダル大公は、アルタナ連合軍の解散と、次なる希望はセフィロスのような冒険者であると説く。軍隊の 規範に縛られず、自由にヴァナ・ディールの地を駆け、種族も国境も年齢も境遇も超えて協力し合える冒険者達こそが、新たなる希望であるのだと。
 そして三国とジュノが協力して、冒険者制度の充実を図っていくことが約束された。モグハウスやレンタルハウスの充実、冒険者端末に よる通信方法の多様化、競売の設置、等々。
 長い演説を聞きながら、クラウドはセフィロスを見つめ続けた。
 …彼の魔晧眼は、一体どんな未来を映しているのだろう。


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 ウィンダスを統治するのは、女神アルタナより神託を授かった三人の神子達。神子は女神から先見や夢見、予言といった未来予知の能力 を授かり、その能力によってウィンダスを守るのである。一人ではなく三人なのは、未来には無限の可能性があり、一人が見る一つの未来 ではなく、三人で複数の未来を探りながら、どの未来がより良い方向であるのかを協議することができるからだ。
 代々神子はタルタルから選ばれてきたが、今期はその内の一人が外見上はヒューム、更にもう一人も外見上はエルヴァーンであり、 最初にザックスが太陽の神子として神託を受けた時にはそれはそれは大騒ぎになったものだ。とはいえ、タルタル族は多少の例外はあれど 皆種族の特徴としてのんびりした気質であるため、一通り物議を醸した後はサラリと受け流されており、外見上はエルヴァーンにしか 見えないラクスが星の神子として神託を受けた時には、祝祭ムード一色であった。
 無論、今までタルタルの内から選ばれていたのに突然どの種族でもオッケーですと主旨変えされたわけではない。
 ザックスとラクスはそれぞれ、タルタルとヒューム、タルタルとエルヴァーンの間に産まれたハーフなのである。
 ヴァナ・ディールに存在する五つの種族。異種族間のハーフとして生まれてきた子供は、両親のどちらか一方だけの種族の外見的特徴を 受け継ぐという性質がある。そして二人はたまたま、タルタルではないほうの特徴を受け継いだというわけだ。それでも半分タルタル族で あることに間違いはないので、神託が降った。

「…で、その三人の神子がモグハウスに揃ってるんだから、考えてみたらすごい光景だな」
 当人の一人であるはずのザックスが、他人事のようにそう言ってケラケラ笑っている。
「あ、あの、話を脱線させないで下さい〜」
 振る舞われたサンドリアティーから立ち昇る湯気の向こうから、一生懸命にミクルが訴える。タルタルである彼女のために用意された 椅子は、カウンターテーブルのスツールのように高い。ちなみにエルヴァーンの特徴を持つラクスもまだ幼いため、彼女にもそれと同じ 椅子が用意されている。
 ザックスはひょいと肩を竦め、この部屋の主に視線を戻した。
「セフィロス。詳しく教えてくんねーかな。あんたが見てきた『闇の王』のことをさ」
 全員の視線がセフィロスに集まる。彼は頷いて、口を開いた。
「見た目は巨人族サイズのデーモン族といった体躯の魔物だった。だがあれの本体というべきものは、『闇の王の間』の更に奥に安置されて いると思われる、魔晶石だ」
 えっ、と一同の表情が変わった。だがセフィロスは口の端に微笑さえ浮かべている。
「そんなに驚くようなことでもないと思うが。獣人軍の拠点には必ずといっていいほど魔晶石がある。ならばその総大将の居城もまた然り…だ」
「ですが、今回の討伐の後、連合軍の兵士達がズヴァール城をくまなく調査して戻っています。あの城で魔晶石を発見した…そのような 報告は受けておりません」
 五歳とは思えない聡明さで、はっきりと発言するラクス。年齢と不釣合いなように見えるが、彼女はタルタルの血を引いていると思い 出せば納得できる。そして幼いながらも既に一国を担っているという自覚があるのだろう。遠慮することも萎縮することもなく、話に 積極的に加わって来る。
「魔晶石の間がズヴァール城の敷地内にあることは間違いない。だが、城とは物理的に繋がっていないんだろう。『鍵』となるものを持つ 者だけが通れる、魔力的な道…。ありていに言えばワープゾーンのようなもので繋がっていると考えられるな」
「…それって…」
「そうだ。デルクフの塔の地下。あれと同じだ」
 心当たりがあるという目で見つめて来たクラウドに頷くセフィロス。ああなるほど、と手を打つザックスと、きょとんと首を傾げるミクル。
「地下って、何ですか?」
「デルクフの塔の地下には、クリスタルラインの予備回線と予備ターミナルがあるんだよ。勿論、ちっこいけどクリスタルもな。だから、 万一塔が獣人達に占拠されたとしても入り込めないように、特殊な『鍵』を持ってないと反応しないワープゾーンからじゃなきゃ入れない ようになってるんだ」
「そうなんですか…。あの塔にもクリスタルがあったなんて、知りませんでした」
「ま、一応王国の『極秘事項(トップシークレット)』だからな。これ」
 ほう…、と感心して溜息をこぼすミクルに、ひょいと肩を竦めるザックス。くすくすと悪戯っぽくラクスが微笑した。
「ジラート王国の王子ともあろう方が、そんな重要機密を簡単に漏らしてよろしいんですの?」
「まあ、王子つっても前世だしなぁ。大体さ、ジラートは一万年前に滅びた国だぜ? 今更秘密も機密もねぇって。第一、ンなこと言ったら デュランダルはどうなるんだよ。ジラートの技術使いまくりじゃん、あいつ」
「あの方は前世ではないようですけれど。こちらのお二人と同じく」
 ふわりと視線をセフィロスとクラウドに移すラクス。二人は顔を見合わせ、苦笑した。
「話を戻すぞ。…つまり、『闇の王』がお前達の先見に繰り返し現れるのも当然、ということだ。本体というべき魂が、恐らく魔晶石と 同化している。器となる魔物を何度でも作り直して、獣人達を束ねて君臨し続けるというわけだ」
「…くそ、ここにアッシュがいてくれたらな…」
 悔しげにクラウドが呟く。ああ〜と懐かしげに目を細めるザックスに対し、神子女性陣はきょとんと首を傾げて二人を交互に見た。
「なるほどな〜。確かにアッシュならどうにかできる可能性高そうだ」
「魔晶石の間までどうやって行くか、っていう問題はあるけどな」
「…? …あ、あのぉ…??」
「お二人とも。わたくし達にも分かるようにお願いしますわ」
 ラクスがクスクスと苦笑し、ミクルはこくこくと首を上下に動かした。
「あ、そっか。悪い悪い。いや、アッシュってジラート王国にいた兵士の一人で、いいとこの坊ちゃんだったんだけどな。『音素 (フォニム)』魔法の使い手だったんだ。あいつは特に『第七音素(セブンスフォニム)』の…」
「待って下さい。『音素(フォニム)』とは?」
「あっと、そこからか。えーっとな…」
「我々が通常使う魔力とは別種の、未知の魔力のことだ。『第一(ファースト)』から『第七(セブンス)』まであるらしい。ジラートの 時代に発見されたが、それを操ることのできる者は少なく、研究もあまり進んでいなかった。術者に言わせれば、通常の魔力と同じく、 我々の側に当然のように存在しているそうだがな」
 どう説明しようかと頭を掻くザックスに代わり、セフィロスが簡潔に説明。
 すると、ああ、とラクスが軽く目を見開いた。
「もしかしてそれは、吟遊詩人の操る『呪歌』の起源といわれている、『譜歌』と関係があるのではありませんか?」
「そうだ。『音素(フォニム)』を消費して発動させる魔法の他に、『第一(ファースト)』から『第七(セブンス)』まで、それぞれの 『音素(フォニム)』が持つ特性を理解していなければ操ることのできない『譜歌』、そして固有の特殊能力である『超振動』。『音素 (フォニム)』を原動力とする力の行使には、その三つの種類が確認されていた」
「そうそう。『譜歌』は特性がしっかり解ってれば、譜術者が独自に『譜歌』を編み出すこともできたんだよな、確か。けどほとんど口伝 だったから、ジラートが滅びたときに絶えたと思ったんだけど。どっかに楽譜が残ってたのかな」
「或いはデュランダルのように特殊な方法で一命を取りとめた譜術者がいたのかもしれん」
「で、アッシュは唯一『超振動』を操ることができたってわけ。こいつは対象とした物の構成『音素(フォニム)』を分解して消滅させ ちまうことができるっていう能力でさ」
「正確には『音素(フォニム)』を分解して再構成する能力らしい。傍目には消滅してるようにしか見えないんだけどな」
 ザックスの説明を、今度はクラウドが補足。
「なるほど…。『音素(フォニム)』については分かりましたわ。ありがとうございます。皆さんの口ぶりから察するに、皆さんの中に 『音素(フォニム)』魔法を操れる方はおられないようですわね」
「残念ながらな」
 クラウドが苦笑し、ザックスが肩を竦める。やれやれと溜息をついたのはセフィロス。
「話を戻すぞ。…確かにアッシュなら、とりついた魂ごと魔晶石を消滅させることができるだろう。だが彼も一万年前の人間だ。貴族とは いえ只の兵士だったアッシュに延命処置が施されていたとは思えん」
「いやでもさ、デュランダルは王族でも貴族でもないのに、大臣ってだけでされてたんじゃん。アッシュは唯一無二の貴重な能力の持ち主 だぜ?」
「忘れたのかザックス。延命技術を確立したのはどこだ」
「え? 王立研究所だろ。そこの生物セクション………あっ」
「そうだ。あの主任はヴァン将軍と折り合いが悪かった。いくら貴重な能力を持つとはいえ、将軍が可愛がっている部下をわざわざ延命 させると思うか。第一、その頃既にアッシュは行方不明だったはずだ」
「………確かに」
 ぐっと詰まってしまうザックス。
「…打つ手なし、か」
 ぽつりとクラウドの言葉が零れる。
「些か乱暴ですが、この際セフィロスさんに破壊して頂くしかないようですわね」
 ラクスが過激な提案を平然と口にする。一万年前にクリスタルを破壊したのだから、魔晶石も破壊できるだろう、という読みなのだろうが、 しかしセフィロスは首を横に振った。
「一万年前のあの時、クリスタルには力の伝わる『道(クリスタルライン)』が整備されていた。だから、破壊した時に暴発した魔力は その道の上だけを走り、クリスタルラインを瓦解させた。つまり、被害はクリスタルラインが全部背負ってくれたわけだ。それがなければ、 俺が崩壊させるまでもなく、ジラートの都は壊滅していただろう。今回はそんなラインのない魔晶石、しかも闇の王の魂が憑依している。 暴発した闇の魔力は、まず間違いなく、ズヴァール城を破壊する程度では済まんぞ」
「…ザルカバード、ボスディンどころか、サンドリア王国にまで影響が及ぶと?」
「直接の破壊という形ではなくとも、何らかの負の遺産を担うことにはなるだろう。瘴気が立ち込めるくらいで済めばいいが、最悪 サンドリアに住む連中が全員魔物化するという可能性もある」
「………」

 しーん、と静まり返ってしまう部屋。

 不意に、すぅ、とミクルが顔を上げた。
「………アッシュさんって…もしかして」
 沈黙の後だ。自然とミクルに全員の注目が集まる。彼女はいつものほややんとした表情ではなく、どこか神がかったように空中の一点を 見つめている。
「ジラートの時代に、『聖なる焔の光』と呼ばれるほどの、美しくて深い…赤い色の髪を持つ方ですか」
「!?」
 驚いて顔を見合わせ、それからミクルを振り返るクラウドとセフィロス。
「深い真紅の髪…瞳は森の奥のような翠。そうですよね」
「…な、なんでミクルが…」
 ザックスも思わず椅子から腰を浮かせてしまう。
「………。ミクルさん、もしかして…」
「はい」
「そうですか…。では、まだ希望は残されているのですね」
「はい!」
「おいおい、今度はこっちがわかんねーって!」
 ザックスの声に、にっこりと微笑んで振り返る二人。
「機が熟せば、道は拓ける。そういういうことですわ」
「まだ十数年は掛かります。だからこそ、その時間を有意義に使うべきです。幸い、そのきざはしはセフィロスさんとクラウドさんが 掛けてくれました」
 まだハテナマークを飛ばしているザックスの隣で、クラウドが小さく口角を上げた。
「来るんだな。アッシュも」
 にっこりと満面の笑みを返すミクル。
「希望の星は、ひとつではありません。いくつかの大きな輝きが見えます。それは今は小さな瞬きでしかありませんが、やがて世界を照らす 光になるでしょう。私達は、それを導く灯火です。セフィロスさんとクラウドさんも。お二人は光でありながら、道標でもあるのです」
 きっぱりとした口調は、ミクルが神子としての能力を発露させた時特有のもの。神子として語る時のもの。
「今は、私達にできることをしましょう。まずは冒険者制度を充実させることから」
「…それがいずれ…アッシュを導いて呼び寄せる、って?」
 ザックスの言葉に、こくんと頷くミクル。そして力強く締め括った。
「赤き双子星は、必ず私達の前に現れます」


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 国賓として招かれた身である三人は、デュランダル大公の屋敷へ戻った。英雄として招待されているセフィロスも、そろそろ向かわなければ なるまい。そこではこれから、国際会議が開かれようとしている。アルタナ連合軍の解散に向けて、そして冒険者制度についての話し合い がされる会議だ。
「…双子星、って言ってたな。彼女」
「ああ」
「アッシュって双子だった?」
「いや」
「………どういう意味なんだろう」
「いずれ分かる」
「えっ、心当たりがあるのか?」
「………」
 やれやれと言いたげな溜息が金色の髪を揺らす。
「気に入らん」
「は? 何だよ薮から棒に」
「俺の腕の中で他の男の話をするな」
「……………」
 きょとんと目を見開いて、それからぷっと笑ってしまった。
 怪訝に眉間に皺を寄せるセフィロスの背中へ腕を回しながら、クラウドはクスクス笑う。
「笑うな」
「いや、笑うよ。安心した。…あんた、ちゃんと昔のあんただ」
「……」
「俺が好きになった、俺を好きになってくれたセフィロスだ」
「…」
 ストレートな愛の告白だというのに、セフィロスの表情は晴れない。
「………それでも俺は変わった」
「それを言うなら俺もだ。けど多分、必要な変化なんだと思う。今思えば、必要なことだったんだ。一万年後の、この時のために。……… あんたが一番よく分かってるだろ」
 目を細め、クラウドの体をぎゅっと抱き寄せるセフィロス。

 変わった―――――何が変わったのか。
 そして、何の為に必要な変化か。
 一万年後のこの時に、何が起きようとしているのか。
 言葉にしなくても分かっている。ヴァナ・ディールを表立って脅かしているのは闇の王、だがその裏にまだ潜んでいるものがいる。
 それが動き出す時がきっと来る。その時のために永遠とも言える命があり、人外の力が、能力がある。

 そして、『それ』とは別の思惑を持って動いている人間がいる。
 それはヴァナ・ディールに変革をもたらそうとしている者。そのために過去に封じられた力を解放しようとしている。世界に良かれと 思っているのか野心に燃えているのかは知ったことではない。だが、それを解放することは決して世界にとってプラスの結果にはならない。 二人はそれを知っている。
 何のためにジラート時代の者達が『それ』を封じたのか。
 解放を目論む者は、それを分かっていない。

「………俺はジュノでするべき事が終わったら、改めてサンドリアで冒険者登録をする。お前はバストゥークに行け」
「ウィンダスはいいのか?」
「あの国にはザックスがいるからな」
「…ザックスに、言ってないよな?」
「仮にも先見の能力を得た神子だ。あいつも薄々察してはいる筈だ」
「そうか。丁度いいかな。俺今バストゥークの兵士なんだ」
 クラウドはセフィロスの背中へ回した腕に力を込めて、目蓋を伏せた。
「……………ここは?」
「ジュノは…ここは冒険者の中心となる街だ。俺もお前も定期的に来ることになるだろう。それで充分だ。一箇所に留まれば返って警戒 される」
「冒険者は冒険者らしく冒険してろってことか」

 お互い、何をするべきかを具体的に口に出すことはない。
 分かっている。相手が何を危惧しているのか。そして自分が何を警戒しているのか、相手も分かっている。

「まずは『闇の王』とカタをつける。できればサンドリアのほうもな」
「…クルーゼ王子のこと疑ってるのか?」
「普通に考えても出来過ぎだろう。王子が皆戦死した途端ご落胤が出て来るなんていうのは。それに、…クラウド、お前なら分かるはずだが?」
「…ああ…。けど、あいつの顔も名前も覚えがない」
「俺にはある」
 えっ、と顔を上げるクラウド。セフィロスはいつのまにか難しい顔に戻っていた。
「デュランダルの腹心だった男だ」
 うわ、と思わず顔を顰めてしまう。
「…怪しすぎるだろ、それ…」
「だから俺がサンドリアに行く。警戒されるのも面倒だが、何も察していない間抜けと思われるのも癪だ。多少の牽制くらいはしても いいだろう」
「わかったよ」
 やれやれと息をついたクラウドは、セフィロスの肩に頭を預けた。
「………またしばらく別行動?」
「何だ。淋しいのか?」
「まさか。今更だろ、今まで一万年も離れてたのに」
「愛のない言葉だ」
 くくっと喉を鳴らして笑ったセフィロスが、クラウドの顎を掴んだ。引き寄せる力に、クラウドも逆らわない。
 唇を交わし、間近で微笑み合う。



 クラウドがキラと、セフィロスがアスランと出会い、そしてパーティーを組むに至るまで、あと数年の時間を要する。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)

 セフィロスがジラートを壊滅させ、クラウドが暴走を止めた時のエピソードについては、また別に書く予定です。
 『闇の王』の設定はほとんどオリジナルになるのかな。何度でも魔物という器を作って蘇るため、冒険者の数だけ闇の王討伐ミッション がある。ということで。
 それにしてもタルタルなミクルの可愛いこと! あああもっと書きてぇ!!(笑)
 ちなみに彼女の先見中のセリフ「今はまだ小さな光ですが、やがて導かれて大きな光となり…」と書きそうになり、あれっこれどこかで 見た文章。…あっ!
 慌てて没にしました。それDQだっつのw