++「BRING ME TO LIFE」第十八章(eiplogue)++

BRING ME TO LIFE

第十八章・『発芽』
(epilogue)









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「おやおや。これは困りましたねェ。また修正箇所が増えちゃったじゃないですか」
 足を組み替えながら、その青年は毒づいた。
「そもそもあなたの存在事態、修正が必要でしょ」
 それを冷たくあしらう、黒に近い髪色の女性。
「世間に知れたら大変ね。地球連合産業理事長、ブルーコスモスの盟主でもあるあなたが、こんなところに座っていられる身分だなんて」
 あからさまな皮肉に、男は僅かに眉を寄せたが、すぐにフッと笑いを浮かべて見せる。
「いやですねェ。邪推しないで下さいよ。これもあくまで、我ら自然な人類が自然に生きてゆくために必要な研究なんですから。 …ところで博士。良かったですねェ。あなたの最後の実験、本当に成功していたようじゃないですか。これは推測データ以上ですよ」
 彼の背後の宇宙空間を移していた壁面モニターの一部が、ぱっ、と切り替わる。
 それは衛星から撮影した地球の表面の映像。
 紫色の光輪が、くっきりと写されていた。
「しかし、まさかいきなりこんなにハデに、自己主張してくれるとは…。躾がなってませんねェ。おかげであちこちに手を回さなくちゃ いけなくなるし、プラントはつついてくるし、オーブも口を挟んでくるしで、もう大変ですよ。まったくみなさんお仕事が速いことで。 よっぽどヒマなんですねェ」
「ヒマなら仕事なんてしないわよ。…みんなが欲しがっている証拠よ…」
 何故か誇らしげに、どこかうっとりした音色で答える女。
「あの子があらゆる人々から愛されている証拠よ…。あの子が、必要とされている証拠。そう、愛の証明だわ」
 はいはい、とばかりに肩を竦める、デスクの青年。見た目はニ十代半ば〜後半なのに、実年齢は三十代後半なのだから、世の女性は 羨ましがるだろう。
「どっちにしろ、こうなった以上どこにもアレは渡せません。造物は造物主の手の中にあるべきですからねェ。博士だって戻って来て ほしいでしょう?」
「ええ、もちろんよ。その点では何も文句はないわ」
「結構。では、修正したシナリオを早速舞台に反映させるとしましょうか。…何故これだけの力を持つに到ったのかも、しっかり調べる 必要がありそうですからねェ…」
 モニターが切り替わり、もとの宇宙空間映像に戻る。

 女は無言で青年に背を向け、その部屋を出た。



 わかっていた。彼女にはわかっていた。
 あの子がそうだったのだ。
 正直、認めたくはなかった。だが、抗い切れない予感があったことは否定できない。密かにそれを期待していた自分がいたことも。 …矛盾している。だがその矛盾こそが人間の魅力の一つでもあるはず。
 素晴らしい、よくやったと褒めてやらなくては。
 そして、もういいのよ、役目は終わったの、もう自由にしていいのよと、終わりを宣告してやらなくてはいけない。





 さあ、帰っていらっしゃい。私の愛しいキラ。
 すべての始まりの場所へ。
 あなたへの愛に満ちた私のもとへ。


 今あなたが持つすべてを捨てて、私のもとへいらっしゃい。
 そのかわり、私はあなたに新しい宇宙をあげるから。
 あなたと私のためだけの世界を。







BRING ME TO LIFE 第一部 『発芽』 END
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