++「BRING ME TO LIFE」第十八章(4)++

BRING ME TO LIFE

第十八章・『発芽』
(4)









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「っ!」
「きゃあっ!!」
「うわ!?」
 現実離れした光景に呆けていた一同も、はっと現実に戻される。
「おいお前ら! さっき地球軍じゃないとか言ったな!」
 フラガの厳しい語調に、サイ達三人も我に返った。
「は、はい!! あれは地球軍じゃない、ブルーコスモスです!」
「あいつらの狙いは、ここの火力発電所なんですよ!!」
「なんだって!? 冗談じゃねえぞ、おい!!」
 その言葉に叫んだのはディアッカ。

 Nジャマーの影響により深刻なエネルギー不足の地球上にあって、この基地が惜しげも無く電力を使える強み。
 その正体は、この基地内にある火力発電所。基地内のエネルギーはすべてそこで補われているのだ。
 この基地はもともと親プラント国家圏内にあり、当初からザフトの基地として機能していた。ここを占領すれば、「マスドライバー」 と並んで貴重な「エネルギー生産施設」を得ることができる。
 …にも関わらず地球軍がそれをせず、演技じみた小競り合いと取引でザフトと密通しているのは、火力発電施設のある敷地内で戦闘行為 を行い、万一爆発でもさせたりしたら取り返しのつかないことになるからだ。原爆汚染には及ばないとはいえ、これ以上の汚染や災害は ご免被りたい。
 イザーク達が見た取引はほんの一部。実際には電気をたっぷり蓄えたバッテリーとカラになったバッテリーを交換してのエネルギー取引 も行われている。代価は金銭や麻薬、覚せい剤の類、そして時に地球軍の機密。
 こんなやりかたが通用するのは、ひとえにこの基地の責任者が欲深いがため。
 このエリアに駐在する地球軍の人間にとっても、他のエリアの者達や上層部だけが占有しているエネルギーや金銭を内密に得ることの できる、いわば美味しい金蔵だ。

 だが、ブルーコスモスにそれは通用しない。
 彼らはあくまで純粋に率直にコーディネイターの排除を望む。
 コーディネイターに益をもたらすだけの火力発電所なら、破壊も辞さないだろう。


「発電所を…抑えるつもりでしょうか…」
「…どうかしら。それだけなら彼らの狙いはもう達成されたことになるわ」
 ちらりと眼下の銃撃戦を見下ろすアイシャ。
 火力発電所を背にして迫るブルーコスモスに対し、ザフト兵は明らかに攻撃の手に迷い、劣勢だ。
「けれど、狙いがこの基地全体の占領であるなら、巨大な爆弾を背にして徐々に領地を広げるつもりでしょうね。…それに…彼らがブルー コスモスなら、下手に突つくと自爆されるわよ」
 ニコルの零した誰にともない呟きを聞きつけ、そして冷静に答えた。
 その言葉に全員がびくっと体を強張らせる。
 聞きつけたアスランとカガリも、思わず顔を見合わせた。




ゆらり


 不意に、キラの体がゆれた。
 彼女の周囲にふわりと紫色の光が生まれる。

「…………」

 焦点が合っているのか怪しい目で、窓から戦闘状態の外を見下ろす。
 ポウ、ポウ、と淡い紫色の蛍火がキラから生まれ、彼女を包んでゆく。
 風もないのに、髪がゆらりと舞う。蒸気に煽られるように。

 キラ、危ない、窓際には行くな下がれ。
 そう叫びたいのに、声が出ない。


 がっ、とキラの手が窓のさんを叩く。



 だめだ。やめろ。そんなこと許さない。
 ここにはみんながいるのに。
 カガリが、フレイが、サイが、トールが、ミリアリアが、カズイが。
 フラガさんが、アイシャさんが。
 イザークが、ニコルさんが、ディアッカが。

 ――――――アスランがいるのに!!!








「やめろおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」





 その叫びは一瞬のうちに雲を引き裂き轟音を呼び、あらゆるエネルギーを集めて紫に光る巨大なリングを空中に作り上げた。
 そこから激しい稲妻が、地上に放たれてゆく。
 空を裂くような、耳をつんざく激しい音と共に。

 それは的確に、ブルーコスモスの兵士を捉え撃つ。
 撃たれた人間は、ザアッと砂が風に流れるかのように崩れ消えた。

 紫のいかずちはまた、彼らが率いて来たミサイル搭載車や戦車をも貫いて、同じように霧散させた。


 基地に攻撃してきたブルーコスモスの一派が全て消えてから。
 雲を割ってそこに突然現れた紫に光るリングは、ふわりと溶け消えた。

















「…………………………あ…………………」

 子供のような声がこぼれる。

 それが自分の声だと気付くまで、数秒を要した。





 気付けば、キラの体を覆っていた紫の蛍灯も消えている。





「………ぼ…く……………ぼく……………」
 わなわなと自分の両手を見る。



 あざやかに克明に残っている、あの感触。あの感覚。
 僕が望んだ。僕が、やった。

 まるでこころが肉体から溢れ出して大気にとけたかのようだった。
 雲が、空気が、大気が、土が、風が、砂が、あらゆる物質が、あらゆる電子が、あらゆる元素が、すべてのものが。
 自分のからだの一部になったかのようだった。


 のぞめば、のぞむように。
 この世界の全てが。


 エネルギーを集め、
 一箇所に収束し、
 ………放つ。
 破壊のちからを。
 まぎれもない破滅のちからを。


 あれだけの命を、一瞬で奪ったのは僕。
 僕はそれだけのちからを手に入れた。
 そのちからに目覚めた。
 言葉のとおりに芽吹いた。





 なんて途方もないこと。
 ねえアスラン、君は信じられる?






 今の僕はその気になればこの宇宙の全てのものを壊せるのかもしれない。



















「キラ!!!」

 遠くなっていく意識を辛うじて呼び留めたのは、愛しいひとが必死に自分の身を案じる叫びだった。




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