++「BRING ME TO LIFE」第二部・第一章(1)++

BRING ME TO LIFE

第二部第一章・『天使の種』
(1)









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「やめろおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」


 彼女が叫んだ瞬間、その体を包んでいた光がバシッとスパークを起こした。
 直後、空の雲が左右に開き、その間に巨大な天使の輪が現れる。
 紫色の光のリングは、ブルーコスモスとその武装を次々と雷で撃ち、ザァッと塩が崩れるように霧散させた。


 それは一刹那の出来事。
 けれど、とてもとても長い時間の出来事のような感覚。
















「…………………………あ…………………」

 呆然と零れる音。

「………ぼ…く……………ぼく……………」

 ふぅっ、と意識を失いそうなったキラを。

「キラ!!!」
 アスランの叫びが呼び留め、力が抜けて倒れそうになった体を支えた。
「キラ、キラ大丈夫か!? キラ!!」
 虚空を見つめたままのキラの体を揺さぶるアスラン。その声に揺り起こされるのはキラだけではなく、アイシャとフラガも。
「…」
「…」
 二人はアイコンタクトを取って、動き出す。
「キラ!! おい、キラ!」
「だ……、だい…じょうぶ……、大丈夫………」
 額を手で抑えながら、なんとか自力で立とうとするキラ。だが体に上手く力が入らず、どうしてもアスランに体重を預けるような格好に なってしまう。
「フラガ大使、処理は私が。あなたは、キラちゃん達をお願い」
「って、俺がかぁ!?」
「私のほうが事態を処理して廻るのに都合がいいでしょう? 地球軍のほうは、あなたの艦長さんが既にしてくれているはずだし」
「………」
 ごもっともな意見にフラガはそれ以上言えず、立ち去るアイシャを少し恨めしい気分で見送る。

 そんな二人の様子を見たキラが、アスランに支えられながら立ち上がって、なんとかフラガに向き直った。
「……フラガさん……今の、どういう意味ですか。……何か…知っているんですか?」
「……………」
「……………教えて下さい」


 勿論、こうなった以上、本人が知らなくてはならない。
 自分の置かれた状況を知ってもらわなくては。つい数分前までとは、事情がまるっきり変わってしまったのだから。
 さっきまでは決して明かすことの出来なかった真実。
 今は、知ってもらわなければ。自覚を持ってもらわなくては。

 ……キラ自身がどんなに危険な存在なのかということを。

「…アスラン君、俺達全員が集まれる部屋を、どこかに用意できるか」
「あ、…先日の会議室なら、俺が鍵を管理しているが」
「よし、そこでいい。全員そこに集まるんだ。戦闘の後始末は、基地の連中とサバーハ大使に任せればいい」
 さっさと指示を出すと、フラガは歩き出した。
 皆顔を合わせたり、戸惑って首を傾げたり。
 だが、ニコルが真っ先にフラガを追って歩き始める。
 それに触発されてイザークとディアッカが続き、そしてキラとアスランが続き、カガリ達も後を追う。



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 ジープに伏せていた体を起こして、彼は息を飲んだ。
 空は既に、何事もなかったかのように青い。
 つい今さっきまでは間違いなく、紫色の天使の環が現れて、神の裁きとばかりに地上へいかずちを落としていたというのに。

「……………全く……タイミングが悪いとしか言い様がないな………」

 よりによってこんな状況で『発芽』を起こし、その力をこうまでありありと示してしまうとは。

 砂漠の虎の異名を取る男はアクセルを踏み込み、愛人の待つ基地へと再び進み出した。


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 ふぅ、と重い溜息をついて、フラガは一番奥の席に座った。
 アスランに支えられたキラがその隣につき、主治医としてニコルが続く。
 そしてイザーク達と平和大使達が、思い思いに席についた。
「ああ、お嬢ちゃんはこっちだ」
「あたし?」
 指名されたカガリが、きょとんとしながら手招きされるままに席を移動。丁度、キラの正面に。

 そして、全員の注目がフラガに集まる。

 体の中の空気を一度入れ換えるように、深呼吸。
 机の上に組んだ両手を置いた。


「………最初に言っておくぞ。俺も、事情を知っている人間から一通り話を聞いてるだけで、お前達の疑問に全て答えられるわけじゃない。 …いいな、キラ」
「…はい」
 最後に確認を求められて、複雑な表情のまま、しっかりと頷く。

 ―――まさか俺の口から告げるハメになるとはな…。

 苦々しい思いを隠して、フラガは真っ直ぐにキラを見た。
「結論から言うぞ。キラ、お前はコーディネイターじゃない」
「…」
 息を飲むザフト組。
「かといって、勿論ナチュラルじゃない」
 え、と戸惑う大使組。

「つまり、人間じゃない」







 フラガの声が、やけに大きく室内に響いた気がした。
 そのまま部屋の中には、沈黙が満ちる。
















「…バ、バカなこと言うなよおっさん!」
 堪りかねて口を開いたのは、ディアッカ。
「いくらとんでもない現象見せられたからって、そりゃ行きすぎだぜ!」
「大体、人間じゃなきゃ何だってんだ! えぇ!?」
「分類学的に言えば、『擬似ヒト生体兵器』だそうだ」
「…っ」
 すぐさま切り返された言葉に、問い詰める勢いで声を荒げたイザークは思わず息を飲んだ。
「……へ…いき……?」
 呆然とこぼされたキラの言葉に、フラガを除く全員がハッとして振り返る。
 硬い表情のフラガは、ゆっくりと一度、頷き返した。
「キラ・ヤマト。君は、現存するどのCPUとも比べ物にならないレベルの速度で観測・計測・分析を行い判断を下す能力と、体内で生命 エネルギーを無限に生み出し、それを破壊力として体外へ放出する能力とを併せ持つように『開発』された、『天使の種』と呼ばれる プロジェクトの『Sample:K-2』。全ての遺伝子が人工DNAで構成された、最もヒトに近い人造生体兵器。その開発計画の、 唯一の成功体だ」
「な……っ」
 目を見開いたアスラン。だが、非人道的で非常識な真実を告げる言葉は淡々と続く。

「人造遺伝子から作られた、生命体兵器。すなわち、


A bsolute
N ew
G enic
E voke
L imitless
WEAPON−SYSTEM

 ………通称、『ANGEL-WEAPON』。それがお前の正体だ。キラ」






 今度こそ。

 誰もなにも言えなくなって、重苦しい沈黙が室内を支配した。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
お待たせ致しました、第二部開始です。
そういえばツブヤクのも久しぶりのような(笑)
……つまり更新するのが久しぶりってことなんですが。自分で墓穴掘る癖どうにかしよう私。
さて、今回から第一部で引っ張りに引っ張った『天使の種』の種明かしが始まります。
えー……『ANGEL-WEAPON』の正式名称についてですが、
一応意味的には『全く新しい遺伝子の呼び覚ます限界のない兵器システム』になる…と思うんですけど…。
………つ、通じますか?(滝汗)