++「BRING ME TO LIFE」第二部・第一章(2)++

BRING ME TO LIFE

第二部第一章・『天使の種』
(2)









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「……………生体…兵器」
 ぽつり、とキラの声が零れる。
「………兵器………、なんですか」
 震えていた小さな声が、少しずつボリュームを上げ、はっきりとフラガまで届く。
「……じゃあ、僕は…最初から……人を殺す道具として…造られた……ってこと…ですか…?」
「…開発者の意図としては、だ。だが、あくまでもそれだけだ。そこに縛られる必要はない。親が自分の子供を、自分の子供だからって 理由だけで、全部自分の思いどおりにはできないのと同じだ。産み出された時の理由はどうあれ、『お前』は、『お前』なんだ」
「…」
 ぎゅっ、と無意識にアスランの袖を掴んでしまうキラ。
 あまりの事に眩暈を起こしそうになっていたアスランは、その感触にハッと我に帰る。
 そうだ、自分がここで呆けている場合ではない。一番ショックなのは、他ならぬキラに違いないのだから。
 自分がささえてやらなければ。
 思い直して、彼女の肩をしっかりと抱いてやる。


「…でも、なんで、こんな突然」
 やっとカレッジ組から声が上がる。サイだ。
「今まで、ずっとこんな事なかったのに、どうして、…急に、あんな…」
「キラが『ANGEL-WEAPON』として目覚めたからさ」
「目覚める?」
「そうだ。考えても見ろ、あんだけの力を持ってるって言ったって、普通の人間と同じなんだぞ? 赤ん坊のころからそんな力使えたら、 たちまち世界は滅びちまうだろうが。だから、段階を追って成長して、そして頃合を見計らって『ANGEL-WEAPON』として目覚めさせる ―――つまり『発芽』させる、っていう方法を取ったんだよ」
「発芽?」
「俺が事情を聞いた研究者は、その目覚めのことをそう言った。『天使の種』のサンプルは三人一組になってる。但し、実際 『ANGEL-WEAPON』として目覚めるのはその内の一人だけだがな。だからキラのナンバリングも、『K-2』になってるだろ?」
「あ…」
 そういえば、誰もそこに気付かなかったが、キラが「2」であるなら、少なくとも「1」があるはず。
「実際に『発芽』を起こし完成体となるキラが『種』。その種が発芽する為に必要な、『太陽』の役目を果たすのが『K-1』。そして種を 育む『土と水』の役目を果たすのが、『Sample:0』だ。で、お前がそういう能力に目覚めるのをよしとしなかった一部の研究者達が、 『K-2』は地球に、『K-1』はオーブに、『0』はプラントに分散させようって計画を、密かに立てていたんだ」
「目覚めるのをよしとしなかったって事は、…そのプロジェクトに関わった研究者にも、良心の呵責を感じる人はちゃんといたんですね」
「ああ。俺が話を聞いたのも、そんな相手でね」
 ほっと息をついたニコルに、フラガは少し優しい笑顔を返す。
「…ところがだ。この研究のことを知ったプラントの過激派が、『0』を誘拐しちまったんだ」
 だがフラガの笑顔はすぐに消え、真剣な表情に戻る。
「誘拐…ですか」
「ああ。赤ん坊の状態のまま、ザフトの特殊工作員に連れ去られたらしい。…で、キラが兵器として絶大な力を持つには、成長過程でその 攫われた『ゼロ』の放つ特殊な脳波を浴び続けることが必要不可欠なんだそうだ」
「脳波?」
「ああ。『0』は常に特殊な脳波を放出してて、そいつはキラ、つまり『Sample:K-2』にしか反応しない。キラのなかに眠る能力に かけられた鍵を、少しずつ、一つずつ、外していくようなもんなんだそうだ」
「………」
「だから、それができなかった『Sample:K』シリーズは、結局失敗作と見なされて、研究所のお荷物に早変わり。そうなれば誰も引き 止めるやつはいない。最初に三人を分散させようとした研究者が、キラを連れ出したんだ。最初の計画では地球にって事だったらしいが、 その頃から情勢がかなりキナ臭くなってたからな。それで、駆け込み先を中立地域である月に変えたらしい。そして、失敗作とはいえ兵器 であるキラを戦争に関わらせまいとして、素性を隠すためにID情報を男に偽造し、男の子として育てられた…ってわけだ」
「…それが、父さんと母さんなんですか……」
 苦しげなキラの声に、フラガの表情も痛ましいものになってゆく。
「…そう聞いてるよ」
「………」
 複雑な表情で俯くキラ。アスランがそっと肩を抱き直してやるが、その表情まで晴らせることはできない。

 ここまででもキラにとって充分に辛い話。分かっている。だが、まだ続きがある。
 それも話さなくてはならない。
 …まだ辛い思いをする子が増える。それも、分かっているけれど。

「………それで、キラが『発芽』する条件は、まず目覚めのきっかけとなる太陽、『K-1』と出会う事。それはクリアした」
「…っ、誰だよそれは!」
「お嬢ちゃんだよ」
「……………へっ?」
 息巻いて問いかけたカガリだが、逆に思いもよらない言葉を即答されてしまう。
「キラの目覚めとして用意され、オーブに保護されていた『Sample:K-1』は、君なんだよ。カガリ・ユラ・アスハ」
 あまりにもあっさりと突き付けられた現実に、カガリが勢いを失っていく。
 突き付けられた現実―――自分もキラと同じ実験体だったということ。そして、それはつまり……………父ウズミとの血縁がないことを 示している。
「だから俺とサバーハ大使は、お前とキラを会わせまいとしてたんだ。ザフトに攫われた『0』がどこにいようと、少なくともお嬢ちゃん との接触さえ防げば、キラが『発芽』することもない」
「…けど、キラは今までにも何度もカガリとは…。なんか、おかしくないですか?」
「まず、って前置きしただろう。つまり、発芽する条件は二つあるってことだ。一つ目が、『K-1』と『K-2』が出会って、つまり、『K-1』 の放つ特殊脳波を『K-2』が受信して、言ってみれば目覚めるための最終ロックが解除された状態になること。こいつはまだ、準備段階だ。 で、いよいよ『発芽』を起こす二つ目の条件ってのは、一つ目の条件を満たした状態で、三人一組のサンプルが、全員一堂に会すること。 それぞれの脳波が触れる範囲内に全員が揃うこと。それをクリアしてしまったから、特殊脳波が共鳴を始めて、『発芽』を起こしたんだ」
「……って、あそこにいたのって…」
「…まさか」
「……ああ。まさか俺も、本当にこの基地に居合わせて、………しかもそれがキラの幼なじみとして昔からキラの傍にいたなんて、 思いもしなかったけどな」
 フラガに集まっていた視線が、キラを支える少年へと移ってゆく。
「プラントに奪われたまま行方不明になっていた『Sample:0』は、君だったってことだ。アスラン・ザラ」
 アスランの瞳が見開かれる。
「キラが兵器として充分すぎるほどの力を備えることになったのも、君が幼い頃からずっと一緒にいたからだろうな」



 目の前が真っ暗になる。
 ぎゅっとしがみつくキラの手がなければ、倒れていたかもしれない。

 なんてことだ。
 ………なんていうことなんだ。

 自分のせいで、キラが兵器として完成されただなんて。



 自分が造られた存在だとか、両親と血の繋がりがないとか、そういったことは全く浮かんでこなかった。
 ただ、自分がキラのそばにいることが、彼女を『人ならざる存在』へ導いたのだという事実だけが、鋭い楔となってアスランの心を刺し 貫いていた。




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