BRING ME TO LIFE
第二部第三章・監獄への脱出
(4)
はっ、とキラが気付いた時には、視線の少し先に見知らぬ少年がいた。
少し大人びた雰囲気の、金色の髪の少年。当然、初めて見る顔だ。
だが、何故か彼には親近感のようなものを感じる。
そう………まるでアスランのような、暖かい気配を。
――――あんたがそうなんだろ。成功体の『K-2』…キラなんだな?
――――君は…誰?
――――あんたになら分かるだろ!
焦れたように、彼は語気を荒げる。駆け寄ればほんの数歩の距離だが、互いに足を踏み出すことはしない。いや、できない。
手を伸ばせば一体何が起きるかわからない。二人はお互いに、漠然とそんな不安を感じ取っていた。
異なるナンバリングの『種』と、それを育む『土と水』とが精神を触れさせたらどうなるのか、想像がつかない。
――――俺達の奇襲を防いだの、あんただな。
――――………。
――――なんでだ? あんた、ついこの前目覚めたばっかりなんだろ? なんでそこまで『天使の種』の能力を使える?
――――…なんで…って言われても…。
――――なあ、あんたは目覚めた時、どんなだったんだ? 他の二人とはどうやって出会った? あんたに聞きたいこと、山ほどあるんだ!
あんたさえこっちに来れば戦闘も終わる!
切羽詰ったような彼の様子に、キラは戸惑う。
だが、それでも迷うわけにはいかなかった。大切な人達を守るために。
――――ごめん。僕は、行けない。
――――キラ!!
なんで、と苛立つ空気が、ざわっとキラの周囲を波立たせる。
――――あんたさえこっちに来れば戦闘は終わるっつっただろうが!! やめさせたいってんならこっちに来い!! 止めたいから俺達の
邪魔してんだろ!? こっちにはあんたの母親もいる!! 悪いようにはされねェよ、俺達と違ってな!!
必死に言い募る彼に、キラは目を伏せる。
――――戦いは止めたいし、みんなを守りたいよ。だけどそれだけじゃ駄目なんだ。
自分がエルクラークに捕われれば、今まで自分の自由のために尽力してくれたみんなの努力が無駄になってしまう。そして、救出しよう
と必死になって、闘ってくれるだろう。
軍事産業界のトップに君臨し、その気になればこうして軍隊を投入し戦争を起こすことができる組織に、立ち向かってくれるだろう。
…たとえ彼らがどんなに劣勢であろうとも。相手が底の知れない巨大な組織であろうとも。
そんな危険に、皆を巻き込むことなどできない。
だから。
――――ごめん。僕は、君達のところには行けない!
迷いなく顔を上げる。応じるように、彼との間にクリアパープルの障壁が生まれた。
立ち入らせることはできない。捕まるわけにはいかない。その決定的な意志表示のように。
カッとしたオルガが、駆け出し、手を伸ばす。
だが、障壁に阻まれ、弾かれた。
「っ!!」
がくん、と狭いパイロットシートの中で不自然につんのめってしまうオルガ。
はっと我に返ると、モニターに映るシャトルが目に入る。
「くそっ!! キラ!!! クロトてめェ、さっさと上昇しろ!!」
コクピットで喚くオルガには、もうキラの乗るシャトルしか見えていない。
『ッざけんなよてめェ!! 状況見ろこのバーカ!!』
「ンだと!? うわっ」
『チッ、くそォッ!』
がくん、と激しく揺れる機体。カラミティを乗せたままでは満足に戦闘できないレイダーは、ラゴゥからの猛攻を受けてかなりのダメージ
を負っていた。クロトの通信回線越しに、エネルギー残量が危険域に入った時のアラートも聞こえてくる。
「くそ…っ」
オルガの思考の冷静な部分が、退却の決断を下している。レイダーは満身創痍、フォビドゥンも蒼いディンに完全にマークされ、シャトル
に近づこうとする度にダメージを負っていた。恐らくフォビドゥンのエネルギー残量も相当少ないはずだ。
今ここで撤退しなければ、成功体の捕獲という目的を達成させることもできないまま、敵勢力の中に取り残されてしまう。
それでも諦め切れず、オルガはモニターの中でみるみる遠ざかって行くシャトルを睨む。
「ちくしょう!! キラ・ヤマト…!」
ダンッ、とシートを叩くオルガ。
…手を伸ばせば届くほど近くに、彼女の存在を感じたのに。
「ちぃっ! シャニ、クロト、撤退するぞ!」
『へっ! 判断遅ェんだよ!! 次からは僕がリーダーやるからな!!』
『………』
「シャニ、撤退だ。戻るぞ! 本部! これ以上の作戦続行は無理だ、一時撤退する! エネルギー補給準備!」
本部に連絡をし始めた時には、クロトはあっさりレイダーを反転させた。基本的に負けず嫌いの彼が待ち侘びていたように帰投を受け
入れるとは、相当危険な状態なのだろう。確かに判断が遅かったかもしれない。
「シャニ、その蒼いの撒けるか? …おい、シャニ?」
『うるさい!』
突然激昂したシャニが、近接武器である大鎌を振りかぶり、ディンの放ったヒートロッドを切り裂く。ばちっと熱線が大きく火花を立てた
瞬間、ヒートロッドは爆散した。
その、ほんの一瞬の隙を突いて、フォビドゥンは一気にシャトルへと向かっていく。むしろ、特攻と表現したほうが近い勢いで。
「おい、シャニ!?」
『ぶぁーっか、助けになんか行ってやらないからな!』
「バカ野郎、戻れ!! クロトてめェだ!! シャニを止めるぞ!!」
『ハッ! 知らないね!』
「この…っ」
本気で基地から遠ざかってゆくレイダーに、シールドと一体化している2連装衝角砲「ケーファー・ツヴァイ」を足元に放つ。当然、
飛行形態となっているレイダーの翼部を直撃した。
『っ、何しやがる!!』
「戻れっつってんだろうが!! 殺すぞてめェ!!」
更に手に持つバズーカ砲を足元に向ける。チッとクロトの舌打ちが聞こえた。
『戻りゃいいんだろうが戻りゃ!! あーあ、ゼロナンバーは得だよなァ色々と!!』
嫌味を怒鳴りながら、レイダーは旋回して再びシャトルへ向かう。
オルガはその時、既にシャニの乗る機体しか目に入っていなかった。シャトルに向かってレールガンを放つ、鈍い緑色の機体だけしか。
なんとか振り切れる。そう確信した瞬間、戦況が動いた。撤退しようとしていた敵主力MSニ機に対し、残る一機は逆にシャトルへ
猛攻を仕掛けてきたのだ。
「く…っ」
窓の外を、砲撃が走る。
「せめて僕達のMSがあれば…!」
何も出来ない自分に歯噛みしたニコルが、悔しそうに呟く。
「大丈夫…、大丈夫だからな、キラ」
私が隣に、一緒にいるからと、ぎゅっとキラの手を握るカガリ。
うん、と頷いたキラは、この状況にそぐわないほど穏やかで、落ち着いている。
「………」
その様子に違和感を感じたアスランが声をかけようとした瞬間、キラの瞳が僅かに発光した。蛍の光のような、淡い光を。
同時に、ぐん、とシャトルが加速した。その感覚にハッとして窓の外を見ると、僅かに紫色をした光の帯が見える。
「…っ」
まさか。
アスランは急いで手元の端末に映像を呼ぶ。それは、基地からシャトルを見上げ追跡しているカメラの映像。
シャトルは三機とも、クリアパープルの光に包まれていた。
これは、と息を飲むアスラン。
画面の中で、円盤を背負ったような緑色のMSが曲がるビームを放ち、シャトルを襲う。平和大使達の乗るシャトルを直撃するかに見えた
それは、クリアパープルの光に吸収されて消えてしまった。
アイシャのディンに妨害されながらも攻撃の手を緩めない敵MSは、今度は実弾であるレールガンを放つ。しかし、それもまたクリア
パープルの光が吸収してしまう。
隣に座るキラを、ゆっくりと振り返るアスラン。
アメジストの瞳は、やはりふわりと蛍火のような穏やかな光をたたえている。
―――間違いない。全て、キラの仕業だ。
複雑にキラを見つめるアスランの手の中で、緑色のMSは仲間に無理矢理掴まれ、撤退していった。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
なんというかもう本当に長い事行き詰まったまま放置状態となっておりまして…、ごめんなさい!
言い訳すると、キラとオルガの会話に苦戦させられたからです。
この二人に会話させるのがこんなに難しいと思いませんでした。
三人組×キラとか、ドミニオンinキラとか書かれてる方を心底尊敬した次第です。