BRING ME TO LIFE
第二部第三章・監獄への脱出
(3)
「さァ、そろそろボスが出てくるぞ! 総員、気を引き締めて行け!!」
コクピットから指揮下にある兵士達に檄を飛ばすバルトフェルド。山岳部の斜面を駆けながら偽装されたMS射出口を潰し、慌てて飛び
出して来た新型を屠る。まさしく獰猛な種の虎の狩りを思わせるような駿足、そして一撃必殺の攻撃。
そこへ突然、注意を促すようなアラート。
「!」
途端に、モニターに変化が現れる。未発見の敵機からの、五秒後の攻撃予測。
「有り難い!」
タイミングを合わせて散開するバクゥ隊とラゴゥ。そこへ強力なエネルギー砲が、空を裂いて炸裂してゆく。
パイロットの舌打ちが聞こえるようだ、とバルトフェルドは小さく笑う。敵機を仕留めるどころか、バクゥの足一本たりとも落とせ
なかったMSは、焦れたように山間からその姿を現した。肩に二門の大きな砲を背負った特徴的な機体は、つい数分前に目にしたデータと
寸分違わない。
「なるほど。確か、カラミティ…とかいったかね。僕が相手になろう!」
砲撃をかわし、ヒット&アウェイで近距離戦を仕掛ける。しかし相手もナチュラルの動きとは思えない。幾度めかの砲撃に右側の
センサーアンテナが破壊された。
「チッ!」
しかし、破壊されたはずのアンテナは生きている。恐らく、キラによるサポートだ。
「すまんな、今は甘えさせてもらう!」
本当は彼女に力を使わせたくはないのだが、今はなりふり構っていられるときではない。とにかく全力で敵を倒す。彼女が無事に旅立つ
ために。
「!!」
やはり五秒後の攻撃予測をモニターに受け、咄嗟にバーニアを吹かす。間一髪のところで、歪曲するビームの軌道から逃れることができた。
「来たわね」
甲羅を背負った深緑色の新型めがけて、迷わずエレジーエコーズの照準を合わせるアイシャ。しかし、発射されたエネルギーはMSに
届く前にその軌道を湾曲させられてしまう。
「なるほど、エネルギー偏向装甲ね。厄介」
舌打ちの代わりにそう呟いて、敵からの攻撃をかわす。しかし防戦一方というのもストレスが溜まる。アイシャは反撃に転じるチャンス
を逃すまいと、五感を研ぎ澄ました。
『よし、輸送機を発進させろ!』
最愛の男にして隊長たるバルトフェルドの声が通信スピーカーから聞こえて来る。その指示に従い、滑走路が開いて輸送機が発進していく。
それを追いすがるように、黒いMAが飛来した。
「あれか!」
クロトはコクピットで叫ぶ。レイダーをMAモードにして、さっさと離陸したその輸送機にあっさり追い付いた。
殺すな、とこちらを見下しながら告げるアズラエルの顔がシャトルと重なる。
「ヘッ、生きてりゃいいんだろ!? 生きてりゃ!! そらァ!!」
MSモードに戻って破壊球ミョルニルを繰り出す。翼部をツブして船体を持って帰ればそれで文句はないはずだ。大体、生体兵器の
完成体だというのなら、これくらいの攻撃で簡単にくたばったりはしないだろう。なにしろ『兵器』なのだから、自己保存本能に従って
破壊力を行使することくらいするはずだ。
…とのんびり考えながら、破壊される輸送機の左翼部を眺める。ザフトのモビルスーツが煩く攻撃して来ていたが、それをエネルギー砲
で薙ぎ払い、再びMAモードに変形させて、鳥の鉤爪のようなマニピュレーターの先端でシャトルを乱暴に掴む。
「よォし、掴まえたぜ」
『………違う』
ぼそり、とシャニの声が低く響く。
「あァ?」
『違う。それにはいない。………上…』
ばちっ、と眉間に電流が走った。
「イテッ!!」
不愉快に歪んだ顔でモニターを確認すると、遥か上空に突如シャトルの反応が三つ。
「なっ、はぁ!? なんだよこれ!」
『くそっ、そっちは囮か!! おいクロト!! さっさとこっちに来い!』
「あァん!? 誰に命令してんだコラ!!」
悔しそうなオルガの声が切迫した様子で叫ぶ。当然反発するクロトだが。
『うるっせぇ、文句があるならオッサンにカラミティ専用の飛行ユニットでも造らせろ!』
もっともな反論だ。というか、その意見は採用してやってもいい。
「チィッ、めんどくせェ!!」
輸送機を放り出してオルガの元へ向かう。シャニはシャトルを追おうとしながら、蒼いカラーリングのディンに足止めされ、苦戦中の
ようだ。見れば自慢の偏向装甲が派手に損壊している。さっきまでバカでかいプラズマ収束ビーム砲を操っていたディンは、熱線の鞭の
ような武器に持ち替えて、フォビドゥンを押し留めていた。
オルガはオルガで、ラゴゥに近接戦闘に持ち込まれて苦戦中の様子。
「ケッ! お前ら二人とも弱すぎんだよバーカ」
『あァ!? 殺すぞてめェ!!』
言い合いながらもラゴゥを攻撃。俊敏な動きで逃げ回り反撃してくるが、オルガのスキュラが命中こそしなかったものの右足を掠り、
機動力は一気に落ちる。
「もらったぁぁ!! 滅殺!!」
ミョルニルを繰り出すレイダー。しかしそう簡単に倒される相手ならば既にオルガがカタをつけていた。獣のような動きで、口のような
部分から左右に延びるビームソードで鉄球をまっ二つにされてしまう。
「ちぃっ!! こンのォォ!! うわっ」
更に追い撃ちをかけようとするクロトだが、突然ズシンという重みがかかる。
『ボーッとしてんじゃねぇ!! さっさとあのシャトルに追いつきやがれ!!』
「あァ!? 勝手に乗んなよ!!」
『いいから行けよ!! あれさえ掴まえればいいんだろ!! あれさえ……っ』
一体いつの間に発射されたのか、どんどん天空に近づいていくシャトルを見上げ、睨みつけるオルガ。
――――あのシャトルさえ押さえれば、シャニは…!!
――――えっ!? …何…?
――――…な…何だ、この声!? 誰だ!! どこにいやがる!!
――――どこ…って言われても…。君は誰? どうして僕と「会話」ができるの?
柔和そうな声。耳の奥、いやもっと近い…頭に直接響くような声。
――――…まさか、あんた………あんたが成功体か!!
オルガは咄嗟に叫んでいた。声には出さず、頭の中だけで。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
本当はアイシャがプラズマ砲から武器を持ち替えて換装するところとかもがっつり書きたかったです。
インパルスが合体していくかのようにこう…大気圏内での兵装交換シークエンスっていうんでしょうか。
これがインパルスの先駆けでした、みたいなのをこう…かっこよく書いてみたかったんですけどね。
…己の文才と発想力の無さに挫折…。
なんだか中途半端になってしまって申し訳ありません。自分でもがっかりです。とほほ。