tune the rainbow
第一章・戻らぬ友、戻る絆
「僕は…君の仲間、友達を殺した」
「…」
ニコル。
自分を守ろうとしてキラの刃に散った友人を思い、アスランはくっと小さく喉を鳴らし、わずかにうつむく。
「だから君は、僕を殺した」
「……」
「…それで気は済んだ?」
キッとキラに視線を戻すと、彼は淋しそうな瞳で優しくこちらを見つめていた。
「君の友達を殺した僕を殺して、それで君の気は済んだ? 満足した? 今も、僕を殺したい?」
「…キラ…っ」
そんな葛藤、どれだけ繰り返したか。
キラを殺した。キラをこの手で殺めた。喪った。……それでニコルが帰ってくるわけでもないのに。
残ったのは、哀しみと、やりきれなさと、虚しさと、どうしようもない喪失感と、そして…ドロドロとした重たい罪悪感だけ。
『キラだって、守りたいもののために戦っただけだ! なのになんで殺されなきゃならない! それもっ、友達のお前に!! …殺された
から殺して、殺したから殺されて…! それでほんとに最後は平和になるのかよ!! えぇっ!?』
そう叫んだカガリに、返す言葉など、一言も見つからなかった。
ふ、とキラが視線をそらし、天井を見上げるように顔を上げた。
「…君は…僕の仲間、友達を殺した」
「…えっ」
「!!」
驚きにアスランが目を見開くのと、ミリアリアが体を震わせたのが同時だった。
「だから僕は、君を殺そうとした。…間違いなく、本気で」
「…」
「………でも、君を殺したって、トールは帰ってこない」
ぱたり、とミリアリアの瞳から涙が零れ落ち、床を濡らす。
そんな彼女を気遣わしげに見遣っているディアッカの姿が不思議だったが、誰もそれを改めて尋ねようとは思わなかった。
彼はアークエンジェルを、その背にあったオーブを守る力を貸してくれたのだから。
その行動だけで充分。その行動こそが、彼が既にオーブの灯火を守る同志であることを表しているのだから。
いや、ひょっとしたらこのままザフトに帰ると言うかもしれないが。だが一時の恩人というだけでも有り難い。そしてザフトに帰ること
が彼の選択なら、誰も責めはしない。
「…正直言って、わだかまりがない…とは言えない。…君と敵対してでも…沢山の人を傷つけてでも守ってきた人を、君は、僕の目の前で、
あっさりと奪った」
「……それはお前も同じだ…。共に戦ってきた仲間を…まだ十五で、ピアノが好きで、ほんとうは戦いなんて似合わないヤツだったのに、
お前は…!!」
「…うん…。…だからこそ、もう誰も失いたくない。…もう誰も」
「…キラ」
「お前が誰かの夫を撃てば、その妻はお前を恨むだろう」
不意にカガリの声が入りこんで、二人は彼女を振り返る。
「お前が誰かの息子を撃てば、その母はおまえを恨むだろう。そしてお前が誰かに撃たれれば、私はそいつを恨むだろう。こんな簡単な
連鎖がなぜわからん。戦争の根を学べ。撃ち合っていては、なにも終わらん。……オーブを出るとき、アークエンジェルと共にゆこうと
した私に、父上が言った言葉だ」
「……キラ…カガリ…」
「だから。その憎しみの連鎖を止める」
強く、キラは宣言する。
止めたいではなく、止める、と。
「今更なのかもしれない。多くの命を奪ってきた僕が、今更何をしても、何も取り戻せないのかもしれない。でも、だからって、このまま
続けていいわけがない。どこかで絶ち切らないと、この戦争はいつまでたっても終わらない。それこそ、お互い滅ぼし合って…お互いに、
滅亡してしまうまで」
「キラ…」
「僕一人で止めることはできないかもしれない。でも、せめて流れが変わるきっかけになれれば、それでいい。…だから…僕は、戦う」
「……………」
優しい瞳で、強く言い切ったキラは、フリーダムへ向かって歩き出す。
「っ、ちょっと待て」
これだけは確認しておかなければ、と立ち上がるアスラン。
「…フリーダムにも、あれが搭載されている筈だ。あれを、お前は…」
「もし、あれを何かに利用しようとする人がいれば、僕が討つ」
アスランのいう『あれ』がニュートロンジャマーキャンセラーのことだと即座に理解したキラは、穏やかな微笑みのまま、はっきりと
言い切った。
「…」
討たぬ決意と、討つ決意。
一つの思いから生まれた、二つの矛盾した決意を、はっきりとアスランに示して。
そして、キラは今度こそフリーダムのもとへ向かう。
この時のキラは、知らなかった。
当然、想像すらしていなかった。
志とは裏腹に、己の存在自体が憎しみの連鎖の中心から造り出されたものであることも。
自分の命そのものが、この宇宙にはびこる憎悪の渦の中心にあるということも。
―――カガリと、双子のきょうだいであることも。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
見切り発車な連載開始第二段です。…シャレになら〜ない(^^;)
あれもこれもと欲張って収集つかなくなる悪い癖が発動してるようです…。
わかってんならやめろよ、と言われそうですが。
…とりあえず世間様のSEED熱が冷めないうちにUPを始めるだけでも始めてしまおう…という大変セコい根性だったりします…。
あっあっ、石投げないで(滝汗)