++「tune the rainbow」2−1++

tune the rainbow

第二章・明かされる秘密、出揃う役者
(1)









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「キラ!!」
 押し倒すように庇われて、辛うじて銃弾を避ける。
 ムウの銃撃を避けて壁の陰に入ったクルーゼ。ムウは傷をおして強引にキラを連れ出すと、クルーゼから逃れて階段を降りる。
「しっかりしろ!! ヤツのヨタ話に飲まれてどうする!!」
「……」
 追ってくるクルーゼの銃弾。
 キラはその音を、どこか遠くでぼんやりと聞いていた。

 与太話というには、彼の言葉には妙な説得力と、尋常ではない迫力がある。
 それに、カガリが持っていた写真も。
 ………投げ付けられた写真立てに入っていたのは、確かに彼女が持っていたのと同じ写真だった。
 茶色の髪の、見たことのない女性が、いとおしそうに二人の赤ん坊を抱いている。

 カガリと僕は双子で。
 この人が……多分、母親で。
 ……どうして…それが、ここに………!?


「キラっ!」
 ぐいっと肩を引かれ、ムウを振り返る。
「…あ」
「あじゃない、しっかりしろ! くそっ、こんなところで!!」
 見れば下行きの階段はここで途切れ、目の前にはドアがあるが、強固なロックシステムによって閉ざされており、これでは壁と同じだ。
 そうか、とムウの意図を察して、ただ持っていただけの銃を構え直す。
 とん、と背が壁に当たった。

   ―――――ピッ

「え?」
 微かに響いた電子音に、そちらを振り返る。
 ロックシステムはまだ生きていた。
 何やらデータを読むような音と、一瞬キラの瞳に光が当たる。
「っ」
 軽い眩しさに顔を振る。
『………プロフェッサー・ヒビキ実験体、ナンバー10C392、名称「キラ」と確認。全てのロックを解除します。…お帰りなさい』
 ぷしゅん、と。



 あっさり扉は開いた。




「………」
 中は、実験室のようだった。
 薄暗い部屋に次々と照明が戻り、その冷たい光景を照らし出す。
 硬直してしまうキラを後目に、ムウは彼を部屋に押し込み、扉を内側からロックする。
「とにかくこれで、暫くは足止めが…」
『プロフェッサー・ヒビキ所有カルテ、ナンバー856−F21、ムウ・ラ・フラガと確認。ロックを承認しました』
「…な」
 機械音声の告げたメッセージに、ムウも目を丸くしてしまう。

 まだ保存状態の良い薬品棚。診察室のような処置用ベッド。起動してゆく端末装置。そして、壁と強化硝子で仕切られた向こう側には、 物々しいポッドの数々。


 ふらり、とデスクに近寄って。
 恐る恐る、何を示すのかわからないタッチパネルに、指先を添えた。
「―――おい、キラ」
 ピ、という認識音に弾かれたように我に返ったムウが、彼の肩を掴む。
 だがキラの瞳は、取り憑かれたように画面に見入っていた。

 見たことのない男性が、淡々と自分のことを語るデータに。



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「キラ…遅すぎる。ジャスティス、出るぞ」
「いいえ、許可いたしません。アスランは指示があるまで待機していて下さい」
 アスランの心配は、しかしラクスの毅然とした声にはっきり遮られた。
「しかし!」
「ドミニオンの進攻も、いつ再開されるかわからないのです。これ以上、迂闊に戦力は割けません」
「…っ」
 くっ、と息を飲むアスラン。
 彼の発進許可は、意外なところから出された。
「………アスラン、行って来い!」
 通信画面の中でラクスが少し目を見開く。
「カガリ!? 何を…」
「こんな危なっかしい状態で戦闘に出たって、多分こいつ、どうにもならないぞ」
「しかし」
「それに、ジャスティスとフリーダムがいなけりゃ簡単だ、なんて思われんの、シャクだろ?」
「けど、カガリさん」
 マリューからも怪訝な声が出されるが。
「行けよ、アスラン。キラ達引っ張って、絶対四人で帰ってこい!!」
「……カガリ……」
 ニッと笑うカガリに、最近の彼女が失いかけていた頼もしさを感じて、つい頬が緩む。
「な、ラクス。開けてやってくれ」
「………」
 逡巡している様子の歌姫に、アンドリューが不敵な笑いを浮かべながら振り返る。
「懸念はごもっともだが、向こうでぐずぐずされているよりは、逆にさっさと連れ帰らせた方が得策になるかもしれませんよ」
「…。………わかりました。ジャスティスの発進路をあけて下さい」
 遂にラクスが重い腰を上げた。
「但し、必ず三十分以内に帰艦して下さい。例え貴方独りでも」
「了解した。…ありがとう、ラクス」
 素直な言葉に、ラクスもふわりと微笑み返して。
「ハッチ開け。発進路クリア。ジャスティス発進準備、よろし」
「アスラン・ザラ。ジャスティス、出る!」
 キラ、そしてムウとディアッカの消えた方向へ。

 真紅の機体が、発進して行った。



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『――――により、最後のサンプルであるC405は破棄。最終的に成功例は、C392のみとなる。C392は最も理想的なコーディ ネイターとして組み上げた遺伝子を持ち、更にミトコンドリア遺伝子には「エヴィデンスDNA」を組み込み、更にコーディネイター・ ナチュラル問わず人類初の「SEED因子」を持つ、人類の夢の結晶となるべき最良の一体。これが成功例となったことは、科学者として 研究者として、大変に喜ばしいことである』

 淡々と、読み上げられる、記録。

『無事「出産」の過程を終えたC392、私の息子でもある貴重な成功体に対して、名前を「キラ」と名付ける』

 要所要所に挿入されるデータ。

『成長したC392キラ…これよりこのC392は名前のみで呼称する。キラへの抵抗力、反応力その他のテストのため、便宜上クローン 体を十体作成。成長促進処置を施し、全員が十八歳の状態となって被検体に』

 画面に映る、自分。自分らしき物体。自分と酷似したヒト。

『……SEED因子は正常に機能することを確認。また、抵抗力や治癒力にも驚くべき結果を見せ、一部不具合のあるクローンでもこれだけの 結果が出るのであれば、努力し鍛錬して成長したキラ自身がどれだけの能力を有するのか、今から期待が………』

 これは、記録? それとも記憶?
 この男が語っているのは、実験の結果? それとも、己の息子について?

『クローン制作においては、カルテ856−F03、アル・ダ・フラガの依頼による非合法クローン、カルテ856−F00、ラウ・ル・ フラガに発生した不具合を再演せぬよう……』

 アル・ダ・フラガ? …フラガ? ラウ・ル・フラガ? ラウ・ル・…クルーゼ?
 クローン?

『ラウ・ル・フラガの不具合の原因は主にテロメアが極端に短いことである。クローニングの性質上、オリジナル以上の長寿を望めない のは仕方のないことであり、これが現在の技術の限界である。が、ラウ・ル・フラガの不具合の研究から、コーディネイト技術を応用 すれば対処が可能である事が判明しており、これは今後のクローン生産への課題である。但し現在クローン自体が違法な存在であり、 法改正が行われなければこれ以上の研究は……』



 二人は、黙々と再生されるデータを前に、ただ立ち尽くしていた。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)

 だからね。難しい話はダメなんだってば。
 難しい話はだめなんだってば、海原ののうみそはプーなんだから!!
 あー…この話やめときゃよかったかなー、と思った瞬間。でも頑張る。ないのうみそ捻りながら。

 ちなみに、ドアのロックシステムの『お帰りなさい』はクロノ・クロスから。
 ゲームやっててあそこに辿りついた時、すごいインパクト強くて…これはかなりショックくるぞ、と思って狙っていました。

 ちなみに、ミトコンドリアDNAがなんちゃらいうのは、パラサイト・イヴを思い出して咄嗟にくっつけてみた感じ。
 これ使う前にパライヴ読み返そうと思って、今何時だよ、と気付いて(午前5時)断念。
 というわけでこのへん改稿の可能性大。

 ちなみにクルーゼの不具合についての解釈は。
 …ええと、人間ってどんなに長生きしても百三十歳か百五十歳までしか生きられないらしいです。(どっちだったか忘れてしまいましたが、 確か百三十か百五十のどっちかだったかと。)遺伝子の情報がそうなってるとか。
 で、クローンというのはオリジナルから細胞というか遺伝子を採取して、それをコピーしますよね。
 だから、たとえばムウ父が四十歳の時に遺伝子を採取したとすると、その遺伝子は既に四十年分寿命が減った状態になっているので、 そのクローンであるクルーゼは人生どんなに長くても九十歳or百十歳までしか生きられませんよ、っていう事になってしまうんだそうです。
 クルーゼの「テロメアが短い」っていうのは、この残り寿命の情報がクローニングの時に狂ってしまったからなのかな…?
 という解釈で、ヒビキ博士には中途半端に(^^;)語っていただきました。
 このクローンの寿命については、ぜーんぶ「妖しのセレス」(小学館フラワーコミックス・渡瀬悠宇先生)のコミックス柱からの 受け売りです。しかも現在手元にコミックスがないのでうろ覚え。集めなおそうかな。セレスすごい好きだし。
 あー、返す返すもなんで手放しちゃったかな…。