++「tune the rainbow」3−2++

tune the rainbow

第三章・憎悪の渦、戸惑いと抵抗
(2)









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「…嘘…だ……!! そんなわけあるか…っ!!」
「フン」
 ムウの苦悩を一瞥し、コツ、と靴を鳴らす。
「さて、キラ・ヒビキ君。君の話をしようか。栄光に彩られるはずだった、君と君の本当の両親の話を」
「っ!!」
 びくん、と震える体。
「昔々あるところに、研究熱心な科学者がおりました。そして科学者を献身的に支える妻がおりました。科学者は新たなる人類・ コーディネイターを産み出す仕事をしていましたが、遺伝子操作された胎児は不安定な状態にあり、母体の影響をダイレクトに受けて しまう脆弱な存在でした。強いこころと肉体を持つはずのコーディネイターも、生まれる前まではそういうわけにいかなかったのです」
 意図的に物語りめかして語り出すクルーゼ。
「そこで科学者は、母体の影響を胎児に与えない方法を一生懸命に考えました。その答えが、人工子宮だったのです。そしてそれは成功を 収めました。…妻が身ごもった双子の片方を摘出し、移し変えるという方法で!!」
「………」
 さっ、とキラの顔色が変わる。
「それが君だよ…キラ・ヒビキ。そして妻の胎内にナチュラルのまま残されたのが、君達がカガリ・ユラ・アスハと呼ぶオーブの姫君… カガリ・ヒビキというわけだ」
 がちっ、と噛み合わない歯が鳴った。
 フッ、とラウは笑う。
「知らぬということもまた罪だよ…キラくん。そう、君は知るべきだ。知らなくてはならない。己があってはならない存在だということを!!」
「……っ」
「君はまさにジョージ・グレンの再来だよ。君のことを知れば、誰もが言うだろう。君のようになりたいと。君のようでありたいと。 そしてこぞって君を調べ、暴き、そのデータをこの手にと望むだろう! コーディネイト研究最盛期の、あの醜い争いが再び 繰り広げられるに違いない」
「黙れっ!!!」
 叫んだのはムウ。そしてラウに向けて発砲。
 だが、ラウは物陰に隠れながら尚笑う。
「キラ・ヒビキ。君は間違いなく禁忌の存在だ!! 私と同じくな……!!」
「人を勝手に貴様と一緒にするな!! キラとお前は違う!!」
「フン! そうだな、確かに違うよ。彼は至高の存在。私は失敗作。その点においてはな」
「ふざけるな!!」
 更に二発。
 ラウが隠れた壁を掠めてゆく銃弾。
「君はアスランの友達だそうだな、キラくん」
「っ!!」
 びくん、と心臓が跳ねる。
「幼年学校時代から、十年近い付き合いの幼なじみだそうじゃないか」
「………」
 アスランはクルーゼ隊にいた。それは知っている。何度となく戦ったのだから。
 だから彼がアスランのことを知っているのは当然だ。
 けれど、なぜそんなことまで。…自分と彼とのことまで。
「可哀相に。父親の暴走さえなければ、君はまた別の形でアスランといられたかもしれないというのに」
「…」
 どういう、意味なのかと。
 尋ねたいのに、体に力が入らない。どこも上手く動かない。
 そんなキラの状態を見透かしたように、ラウの声が響く。
「君とカガリ・ユラ・アスハは双子だと言っただろう。つまり君は本来女性として産まれるはずだったのだよ」
「貴様!! いい加減にっ!!」
 ばっと飛び出して銃撃を行うムウ。
 ラウはその隙をついて、一発だけ反撃。
「うっ!!」
 左の二の腕を抑えて、別の角へ身を隠すムウ。ラウも物陰へと戻った。
「…君達は、一卵性双生児だったのだよ、キラ・ヒビキくん。君の実父の狂気が、君を最高のコーディネイターたらしめ、そして君の 性別を捻じ曲げた。…女性として産まれていれば…アスランとの関係はどう変わったかな…?」


 頭のシンが焼き切れそう。
 どくどくと血管が激しく脈打つ。

 彼の言葉は、ほんとう…?

 僕とカガリが双子で。
 一卵性双生児で。

 ほんとうなら。

 そのままなら。

 そうしたら?



 混乱した頭のなかでとりとめのない想いばかりがぐるぐると回る。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)

 こちらも超久々更新となります。ごめんなさい。
 そしてアンソロジーをお持ちのかたは、海原の犬の行き倒れ具合を笑って下さい。
 またもやキラとカガリ一卵性双生児設定です。でもってキラは、こっちでは操作されて男性になっているということで。
 そして「むかしむかし…」の語り出しといえば、ガンダムWのあの方を思い出します。
 二股眉毛を指で弾いたナイスなお嬢様、昔話が大好きでリリーナ様の無敵の追っ駆け、一時はモビルドールまで操った、 ドロシー・カタロニア!!
 あの人のインパクトは凄かったなぁ…。

 ちなみに
 犬の行き倒れ=ワン・パターン (元ネタは○タ○ロです)