tune the rainbow
第三章・憎悪の渦、戸惑いと抵抗
(1)
『プロフェッサー・ヒビキ所有カルテ、ナンバー856−F00、ラウ・ル・フラガと確認。ロックを解除します』
無機質なコンピューターボイスに、はっと扉を振り返る二人。
「知ったかね? すべてを!!」
「くっ!!」
ムウの発砲により、部屋の中央にあった処置寝台の上に吊られていた装置が外れ、派手な音を立てて落下。
装置そのもの、下にあった寝台や補助デスク等が音を立てて壊れ、破片が飛び散り、粉塵が上がる。
「!」
欠片が飛んで来て、咄嗟に顔を腕で庇うラウ。
「フッ、ハハハ!!! どうやらそのようだな」
飛来した欠片が腕に当たった拍子に送信オンリーのスイッチが入ったが、その起動音は破壊音と自分の声に掻き消され、気付かなかった。
その隙にデスクの影へキラを押しこみ、自分も隠れるムウ。
「人は理解できぬこと、理解したくないことに直面した時、暴力に訴えて気を晴らそうとする。今のお前が丁度そうじゃないか。そして
その延長がこの戦争だ!! お前がどんなに戦争を終わらせようとしても、同じ事をしているお前にできるはずもない」
「あぁ!? ヘリクツ言ってんじゃねぇ!!」
「さて、どうだね。自分の正体を知った気分は! キラ・ヤマト君……いや、キラ・ヒビキ君と呼んだほうがいいかね!?」
「っ」
びくん、とキラの体が大きく反応する。
「私が君を『完璧なコーディネイター』と評した意味…わかってもらえたかね」
続くクルーゼの声に、キラはまたがくがくと震え始めてしまう。
「ふざけんな!! どういうつもりか知らないが、手の込んだ細工しやがって!!」
弾倉に残っている弾丸の数を確認しながら叫び返した。
「ほう? お前は認めんというのか、ムウ。だが残念ながら、その記録は全て真実なのだよ。私と貴様のこともな!!!」
ばんばんっ、と目の前の棚に銃弾が撃ち込まれ、開き戸の留め金が壊れてガラス戸が乱雑に落ちる。その衝撃でバランス悪く重ねられて
いた中の資料がバラッとムウ達の目の前に落ちてきた。
それは、先ほど階上で投げつけられたファイルと連動する資料。
ムウの幼い頃の写真もあれば、父のデータもあった。そして、ラウのものとされる、クローンのデータも。
咄嗟に目を走らせたムウの体が強張る。
「っ、……まさか……嘘だろ………」
「あの男がやりそうな事だ。お前が一番よくわかるだろう…」
「…この…記録の、ラウ・ル・フラガは…本当に、貴様なのか…」
「ククク…まだ思い出さないか。私とお前が、幼い日に会った時のことを。それさえ覚えていれば、すぐに納得するだろうに」
「…っ」
気丈に否定してきたムウも、さすがに揺らぐ。
「なんなんだ…なんなんだよ、お前は!!」
「…まだ思い出さないか…わからないか、『私』が」
歪んだ笑みを浮かべ、銃をかまえたまま、一歩踏み込む。
「………私には生憎テロメアが短いという欠陥があってね。まあ、資料を見た後なら知っていると思うが」
「!」
「おかげで『造られ』てすぐに失敗作扱いだ。後継ぎにと望んで造っておきながら、すぐさま遠縁のアリューダ家へ出された。フン、
失敗作だろうと自分の分身を処分するのは気分が悪かったらしい」
「アリューダ………一度会った………!?」
ムウの顔が強張る。
思い当たる心当たりがあるのだ。
「フ……そうだ。貴様が十二歳を迎えた誕生日に、私は初めて正式にフラガ家の屋敷に呼ばれた。貴様の従兄弟としてな…」
「…ファル………ファルス・アリューダ………か!?」
ニヤリ、と仮面でカバーされていない口元が歪んだ。
初めて会った同い年の従兄弟。
自分とそっくりな彼。初めましてと差し出された手と、理知的な笑顔。ムウはすぐに彼を気に入って、彼のほうもそれは同じだったようだ。
初対面のはずなのに、二人はすっかり仲良くなった。
彼とは、三日間しか一緒にいなかったけれど、でもとても印象深い存在で、ムウは彼が好きだった。
また遊びに来いよ、いやオレがそっちに行く!
そうだな。俺もまたムウと遊びたいよ。そうだ、同じハイスクールに進まないか?
あっ、それいい!! うーん、でもどうだろ。同じ学校行けるのかな?
何だよ、成績はいいんじゃないのか?
いや、そうじゃなくて。…戦争、起こってなかったらいいけどな。
そんな風に無邪気に語り合っていたのに。
屋敷が大火事になった夜。
彼は、ぷっつりと消息を消した。
そして今。
目の前で、銃を構えている。
前線で何度も撃ち合った、宿敵として。
そして自分の父のクローンとして。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
オリジ設定ガシガシ出してます。
…いや、ほら…ムウとラウの子供の頃のことってあの映像だけしか提示されてないから、いろいろ想像がふくらむというか…
ラウの事にしたって、フラガ家の中でどういう位置付けだったのかなぁ、と。
ムウとは一回しか会った事ないみたいだし、その一回の時に何があったのかな…それとも顔合わせただけ? その時ラウはもうすべてを
知っていたの? それとも、それを知ったからラウが火をつけたの? などなど…。