予告編

今後連載を予定している小説の予告編です。
メインとなっている「BRING ME TO LIFE」以外の作品が完結次第、順次連載を開始する予定です。
但しあくまで予定であり、タイトル及び内容が大幅に変更になる可能性があります。
また、構想初期段階の作品もありますので、断りなく連載を断念する可能性もあります。ご了承下さい。
※並んでいる順が連載開始順ではありません。

birdcage ・シリアス長編、「閃光の刻」から派生したパラレル(「星に願いを」より改題)
・第一部「大天使の庭」、第二部「舞い踊る堕天」、最終章「誰が為に鐘は鳴る」の三部構成の予定
・死にネタ(キラ)、キラを殺したアスランがAAの捕虜に
・キラ←サイvsアスラン×キラ
(タイトル未定) ・シリアス短〜中編、「約束の地へ」前後から派生したパラレル
・勲章を授与されたアスランがラクス邸を訪れる
・キラ女性化、黒ラクス×キラ←アスラン
AUTOMATION AIR ・シリアス中〜長編、「運命の楔」から派生したパラレル
・ブリッツではなくストライクが大破。キラ、ザフトの捕虜に
・キラ女性化、アスキラ前提ザラ隊×キラ(予定)
Raven ・シリアス中〜長編、最終回「見えない明日へ」後の創作
・死者の姿と声を感じ、人の心の声を聞く能力に目覚めてしまったキラ、皆の前から姿を消す
・アス×キラ
ANASTASIA ・シリアス長編、ファンタジー(完全パラレル)
・元オリジナル小説にSEEDキャラをはめ込んだ作品。一部兄弟設定や敵味方がバラバラになっています (例:キラとカガリは血の繋がりがなく、フレイとクルーゼが兄妹になっている等)
・キラ女性化、アス×キラ(キラ女性化につきBLカップリングはありません)
rise ・シリアス長編、アス×キラ
・ヘリオポリス崩壊時にヤマト夫妻死亡、オーブ寄港時にウズミから出生の秘密を聞く
・ザフト製核エンジンMSとミーティアはオーブ製、キラはプロヴィデンスに、カガリはフリーダムに搭乗
newTHE GARDEN OF EVERYTHING ・シリアスorラブストーリー、中〜長編(展示中止予告作品の改稿版)
・第一話「偽りの平和」から派生したパラレル、ミゲル&ラスティ生存
・再会直後アスランに連れ去られたキラはイージスのOSを改造、ヴェサリウスへ連行される
・キラ女性化、ミゲ×キラ←アス

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「birdcage」予告



「お前、イージスのパイロットなんだろ!? キラの友達なんだろ!? なんであいつら助けてやらなかったんだよ!!」
「……お前……馬鹿か? …俺達がやってるのは戦争だ。戦争ってのは殺し合いなんだ」
「そうじゃなくて!! …なんでお前が、キラを殺すんだよ…!」



「畜生…!! なんで…! なんでお前みたいなヤツに、キラも…トールも!!」
「トールを返して!!! 二人をかえしてよぉぉ!!」
「…ふざけるな…それじゃお前らがキラを心配してるみたいじゃないか!! お前らは、お前らナチュラルは、キラを利用してたんだ!!  自分達の戦力にする為にキラを利用してただけだ!! それがなんでそんな風に悲しむっ!!」
「そうよ…私の望むとおりになったわ…キラは、戦って戦って死んだ………。…ねえサイ、なんでだろ…嬉しいはずなのに…涙が出ないの」



 オーブ近海から端を発した、ザラ隊との死闘。

 ストライクとイージスは激闘の末、その雌雄を決した。


 コクピットが半分剥き出しになったストライクに組み付いたイージスは、迷わずスキュラを放つ。

 ―――――あっけなくのみ込まれ、骨も残さず彼は死んだ。







「………………………え?」

 自分でもまぬけだと思うほど、拍子抜けた声が零れる。

 それから後のことは、よく覚えていない。

 彼が次に気付いた時には、AAに捕虜として捕えられていた。



「…あいつは…お前のこと、ほんとに好きだったのに……最低だよ!!」
 ぶつけられる想い。
「キラもトールも、なんでお前なんかに殺されなきゃならないんだ!!」
 流される涙。
「……………………そんなのお前らのせいに決まってる」
 増殖する憎しみ。



 けれど。

『トリィ? トリィ……トリ…………… プツッ      メモリー02、アスラン・ザラ確認。音声データを再生します』
「……えっ………」
「…これは」
『………アスラン? 僕…………キラ。…いつか君に届くことを信じて、このメッセージをトリィに託すよ』
「…!!!」





 星が降る。
 彼の手によって、星の雨が降り注ぐ。

「…キラ…見てる? 綺麗だよ…とても…」



 そしてまた一つ。
 …………流星が、流れた。






RETURN



「(タイトル未定)」予告



「君にはネビュラ勲章が贈られる」
「ええっ………」

 そんなもの、誰が望んだというんだ。
 あんな思いをして、彼女を手にかけて、…そのみかえりに、ただの金属の塊と、称賛と栄誉が与えられる?

 ………そんなものいらない。
 そんなもの、いらないから。
 彼女を返してくれ。
 それが駄目なら、時間を戻してくれ。
 最初の悪夢の前まで。



 彼女が―――――ニコルを殺す、前まで。




「いらっしゃいませ、アスラン」

 婚約者の少女は、変わらぬ穏やかな笑顔で俺を迎えた。
 …俺が何をしてきたか、知っているのだろうに。

「今日はどうなさったのですか?」
「…ええ、…あの……特務部隊へ…転属が決まりました。…オペレーション・スピットブレイクが終わってからの任務になるらしく…その 間の五日間、休暇を与えられたので…」
「まあ。それでわたくしに会いに来て下さいましたのね。嬉しいですわ。さあ、どうぞ」


「………ラクス!!」

 俺の方が、堪らずに叫んだ。
 彼女は変わらず穏やかに振り返る。
「ご存知でしょう……俺が、何をしてきたのか………!!」
「…ああ!」
 こともなげに彼女は微笑んだ。
「真っ先に申し上げるべきでしたわね。ネビュラ勲章、おめでとうございます」
「!!」
「所用で授与式に出席できなくて、申し訳ありませんでしたわ」
「……………………」

 彼女は。
 笑顔を、崩さない。


「……何故…どうして、そんな………」
「…どうしてそんなにお辛そうな顔をなさるのですか? アスラン」
「俺はっ!!! …キラを…殺して……」
 …殺してきた。
 そして、親友を討ち取った褒美を、へこへこ貰って帰って来たのだ。
 父の手前、辞退するわけにもいかず。
 結局ながされるまま受け取ってしまったのに。

「……あなたは軍人として当然のことをしたのでしょう」
「っ……」
「あなたも、キラも、敵と戦っただけ。…違いますか」
「…………敵………」
「貴方はザフトのアスラン・ザラ。彼女は地球連合軍のキラ・ヤマト。そしてこれが戦争ならば、刃を交える事に何の不思議もないはずです」
「…けど……あいつ…は………」
「それなら、戦って得た称賛は喜んで受けるべきではありませんか」
「そんなもの、俺は…!!」
「あなたは親友を失った。その代わり、命を賭しても貫くべき信念を貫いた。ならば、この結果も、仕方のないものなのでしょう」
「仕方ない…!? ラクス、あなたはキラと…」
「それよりも、アスラン」
 彼女はとびきり魅力的な癒しの笑顔で微笑んだ。

「そこまでしてあなたが守った信念とは何なのか、お聞かせ下さいませんか」




 彼は婚約者に返す言葉を持たなかった。





「…ラクス? お客様が来てるなら…」
「いいんですのよ、キラ。きっともうお帰りになりますわ。さあ、お茶を淹れてきますわね」
「大丈夫なの?」
「ええ。キラの体には、まだ静養が必要ですわ。ベッドへ戻りましょう」


 鳥篭には、美しい鳥が二羽。
 篭の主はそれをしらない。
 猟銃で無残に撃ち抜いたと思った愛しい小鳥が、そこに紛れこんでいる事に気付かない。


 すべては、彼女の望むとおりに。
 美しい声で鳴く歌鳥の、思惑のままに。

 ―――――その小鳥を欲したのは篭の主ではなく、歌鳥であるという事を、まだ誰も知らない。




RETURN



「AUTOMATION AIR」予告



 キラが俺を殺す。…殺そうとしている。
 それはちっともリアリティを伴わない感覚だった。
 だってお前は優しいから。今でもトリィを大事にしている事をラクスから聞いたから。
 大事な友達だと言ったから。


「アスラン下がって!」
 はっ、と弾かれたように止まっていた思考が動いた。
 同時に、あらぬ処から突如うまれるビームの刃。
「っ!?」
 息を飲むキラ。身を捩るストライク。

 ビームサーベルの刃がストライクを貫き、同時にミラージュコロイドが解除されて、片腕を失ったブリッツの姿が現れる。左腕には、 ストライクを貫いたビームサーベルが握られて。
 辛うじてコクピットへの直撃は免れたが、しかし。
 ――――ばちばちとスパークを起こすストライク。
 コクピットが開いて、小さな影がその身を投げた。
 直後。


 ストライクが、爆発した。



 影は爆風に煽られ、虚空を飛ぶ。




「……キラ――――――――!!!!!」


 岩場に叩き付けられた体。
 即座にイージスを起こして、その体を拾い上げる。
 巨大な機械の指の間から、細い腕がだらりと落ちる。青いはずのパイロットスーツは真っ赤に見えた。
 ぞく、と背筋を冷たいものが走り抜ける。

「ザラ隊、帰艦する!! イザークはニコルを補助、ディアッカは退却を援護!」
 PSが落ちた今、MSが動くエネルギーさえも残りごく僅かだ。
 そして、キラの命を繋ぎとめられる時間も、きっと僅か。
 アスランは後ろを振り返ることもなく、真っ先に帰艦した。

*   *   *

「あいつ、バッカじゃねぇの? ナチュラルがあれで生きてるわけないじゃん」
 ストレッチャーに横たえられて緊急処置を施されようとしているストライクのパイロット。その傍にいる、必死な表情のアスラン。…奇妙な光景に、 三人とも微妙な空気になってしまう。
「呼吸、脈拍とも、微弱です」
 キラを挟んで右側の医師の声が漏れ聞こえて、えっ、と顔を上げる三人。
「大変危険な状態ですが…」
「ですがじゃないだろう!! 早く治療を!!」
「しかし、輸血の必要があります。この艦には、ナチュラル用の血液は…」

「キラはコーディネイターだ!! 問題ない! さっさとA型の血液を用意しろ!! 絶対に死なせるな!!!」

 死なせるな、の一言に自分を取り戻す二人の医師。その指示に従うほかの衛生兵からも、戸惑いは消えた。
 緊急処置を終え、処置室へ移送されるストレッチャー。それについていこうとしたアスランの肩を、駆け寄ったイザークがぐいっと引いた。
「おい!! 今何て言った!!! …コーディネイター!? A型の血液!? 貴っ様ァっ……ストライクのパイロットを知ってたのか!!」

*   *   *

 指揮官としての仕事を優先させなければならないアスランを出し抜いて、イザークとディアッカが処置室の前で『ストライクの パイロット』を待ち構えていた。

「捕虜の容態はどうだ」
「とにかく一命は取りとめましたが、この艦ではこれ以上は…。早々にカーペンタリアの医療棟へ収容した方がよいでしょう」
「よし。では、このまま治療室へ」
「はい」
 医師は一旦奥へ引っ込み、入れ替わるように衛生兵に引かれてストレッチャーが出てくる。

 覗きこんだ二人は、目を疑った。

「………こいつ…………あん時の……!?」
 呟き、追う足が止まってしまうディアッカ。イザークも絶句して立ち止まってしまう。

 オーブに潜入して、モルゲンレーテを調べていた時の。
 アスランの元に飛来したロボット鳥を追ってきた作業着姿のこの少女を、二人共目にしている。
 幼い顔立ちに似合わぬ、切なげな表情。瞳を潤ませて、アスランに何かを告げていた。
 車を発進させた後、不意にアスランが振り返った。イザークがその視線の先を追うと、大事そうにロボット鳥を手にした彼女もまた、 こちらをずっと見送っていた。
 その姿がとても印象的だったのを覚えている。

 その彼女が。
 顔面蒼白になり、点滴を繋がれた状態で、目の前を通過して行った。
 包帯だらけの体にかけられたシーツが、女性の体のラインをいやに強調させていて。
 まるで、マネキンのよう。

「…………ふ…ざけるな…っ!! こんな……!!!」
 ぎりっと拳を握るイザーク。
「…なるほどね…道理で足付きがオーブにいるって、断言できるわけだ…」
 ディアッカも複雑な表情で唇を噛んだ。

*   *   *

「………あいつはっ……バカだ……!! 友達なんて…ナチュラルに騙されて、いつまでもあんなものに乗っているから、だからっ… こんなことに…!!!」
「…騙…されて、って………」
「あいつ…、あいつは、昔からお人よしでボーッとしてるから! 友達だとか何とか言い包められて、ナチュラルにいいように 利用されてたんだ!! そうじゃなければ、こんなことになるものか!!」
 そんな相手を、知らずの内にこの手にかけようとしていたのか。
 ニコルの背筋に冷たいものが走った。
「…だからあの時も、殺さずに捕獲しようとしたってわけか! えぇ!? なんであの時それを言わなかった!! なんでオレ達に黙ってた!!  オレ達は危うく同朋殺しになるところだったんだぞ!!」

*   *   *

 そして、カーペンタリア。
「………おいっ!! 起きろ!」
 声も上げずにうなされているキラを見かねて、イザークがキラの肩に手をかけ、小さく揺すった。
「やめろ! 傷に障ったらどうする!」
「っ!!!」
 びくん、と跳ねるようにキラの体が竦み、かっと瞳が開いた。
「あっ、アスラン! 彼女が…」
「…とにかく、目は醒ましたみたいだな」
「キラ! キラ、大丈夫か? 俺がわかるか?」
 押し詰めた息。怯える瞳。
「俺だよ、アスラン・ザラだ」
「………ア……アス………………?」
 優しい瞳で頷くアスラン。
 だが、キラは不思議なものをみるような目で後ずさり、点滴が繋がっているのも構わずに自分の頭に手を伸ばす。
「ちがう…君はアスランじゃない…」
「キラ?」
「アスランがそんな…軍服なんて着てるわけない」
 ぶるぶると震えて。怯えが、顕著に表れ始める。
「…ア…アスランが…アスランがあんなことするわけない…………僕の家を……ヘリオポリスを、壊すなんて…するわけ…………」
 ハッとしたアスランの前で、びく、と突然動きが止まって。


 ――――――耳をつんざくような悲鳴を上げた。


「キラ!?」
「いやあああ!!! 違う!! 僕じゃない!!! 僕じゃない!!!」
「キラ、落ちつくんだキラ、キラ!!」
「僕じゃないぃぃ!!! ち、違う、違う!! ちがう!!! あれは、僕が、僕が、空を、僕……いやだ!! あああああ!!!!!」
「キラっ!!!」
 耳を塞ぐように頭を抱え、ぶんぶんと左右に振る。足はがくがくと震え、完全に錯乱してしまっている。そんなキラを抑えようとする アスランだが、キラはそれを振り払おうとするかのように身を捩る。
「僕が…!!! 僕が……守れなかっ…あの子…………僕…は………バル…ェルドさ……、っっ」
 びくん、びくんと痙攣を始めるキラの体。
「キラ!?」
 慌てるアスランの背後で、病室の扉が開いた。
「お前達、いつ入室を許可した!!」
 歳若い女医が早足に部屋へ滑りこみ、アスランからひったくるようにしてキラの診察を始めた。
「何をしている! さっさと部屋を出ろ!」
 厳しい医師の声に、三人は弾かれたように部屋を出る。
「キラ!」
 アスランだけは、キラから離れようとしなかったが、しかし。
「致死量の麻酔を打ちこまれたくなかったら、十五秒以内に退室しろ! クルーゼの部下でも容赦はしないぞ!」
「っ」
 まるで軍人のようなその女医の言葉に、アスランは仕方なく部屋を出た。

 キラの悲痛な声を、耳の中で繰り返しながら。



 ――――――十数分後、難しい顔をした女医が病室から出てきた。
「入ってもいい」
 彼女はぶっきらぼうに、いや、不機嫌そうにそう告げる。
「私としては不本意だが、患者が会いたがっている。全員入れ」
「……」
 複雑な表情の顔を見合わせるイザークとディアッカ、そしてニコルとアスラン。

 先程までの混乱が嘘のように、キラは穏やかだった。
「……ごめんね、アスラン。なんか、騒いで迷惑かけちゃったみたいで」
「…いや……、それよりお前……」
「僕、捕虜になったんでしょ。なら尋問とか、あるんだよね」
「……」
 一瞬眉間にしわを寄せてしまうイザーク。
「キラ、お前は保護されたんだ。事情聴取なんて、傷が治ってからでいいから」
「だめだよ。…そんな特別扱いしちゃ」
「…キラ…」
「……でも、そうだね。僕が聞かれる立場になる前に、あなたたちに尋ねてもいいかな」
 えっ、と顔を上げるニコル。ディアッカも、何を言い出すのやら、と腕を組んで息を一つ吐き出す。

「………どうしたら、この戦争は終わると思いますか…?」







「…そうだ、アイリーン。だから早々にラクス嬢に連絡を取ってほしい。…わかっている。エザリアは?」
『予定通りだ。パトリック・ザラはもう、彼女を同じ強硬派と信じて疑っていない』
「そうか。…よし。ではキラ・ヤマトはこちらで確保する」
『頼んだぞ』

 通信ログを操作してから、女医は再びキラの病室へ向かった。




RETURN



「Raven」予告


 僕達は、どうして。

『トリィ…おいで。こっちよ』

 …こんなところへきてしまったんだろう。
『キラはここよ。導いて』

 僕達の…せかいは…。
『キラを愛する、キラの愛する…彼らを』



 …………かえりたいんだ。





「今、臨時最高評議会が停戦を提案した。地球軍も、それに同調してる。…終わったんだ。キラ」
 宇宙空間でも声が通じるように、ヘルメットをかちりと合わせて。
「…うん…」

 知ってる。



「…撃てなかったんですよね、艦長。あれだけドミニオンと接近していたのに、艦長は一度しか―――最後の一度きりしか、決定的な 一撃を…ローエングリンを撃てと言われなかった」
「…ノイマン…」
「撃てなかったんですよね」
「………」
 ドミニオン。
 あれにはブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエルが乗っていた。地球軍に巣食うブルーコスモスを掃討するには、盟主たる彼を 倒すのが最も効果的。ブルーコスモスの盟主がなぜ連合内であれだけの発言権を持っていたのかといえば、彼が連合産業理事長だから。
 だから、彼が乗っているというのなら、落とさなくては……いけない、艦だったのだ。
 例えナタルが乗っていようとも。

 だが、幾度となく撃ち合っても、本気でドミニオンが沈むとは思っていなかったのかもしれない。本気でナタルがアークエンジェルを 討つとは、思っていなかったのかもしれない。
「―――丁度、僕とアスランのように」

 はっ、と声に振り返る。
「…キラくん…」
 ノイマンの声。マリューは涙が詰まって、声にならなかった。
「わかります、マリューさん。…ナタルさんが本気でアークエンジェルを落とすはずがない。自分もどこかで、ドミニオンを本気で落とす つもりはなかった。どんなに本気で攻撃してるつもりでも、ドミニオンは沈まないって、どこかでそう思っていた。…そうですよね」
「……」
「…僕と、アスランも…そうでしたから」

「……仕方っ…なかったのよ……!!」
 ぎゅっと己の軍服の胸元を握り締めるマリュー。
「あのままじゃ…ムウの死が意味のないものになってしまう……!! 私達を守って…ナタルの銃口から守ってくれたムウの命が!!」
「艦長!」
「わかってるわ!! ナタルだって撃ちたくて撃ったんじゃない、彼女は任務に忠実な人よ!! 仕方なかったのよ!!」
「違います」
 再びの、キラの介入。
「あれはナタルさんが撃ったんじゃありません。アズラエルです」
「………え?」
「アズラエルが、撃ったんです。ナタルさんはそれを止めようとして、フレイや他のクルー達をアークエンジェルへと脱出させて、自分は アズラエルを止めるために留まった…。あの時のあの一撃を放ったのは、ナタルさんじゃないんです。マリューさん」

 しん、としてしまうブリッジ。

「ナ…タル……!!」
 再び涙をあふれさせ、ぺたりと床に座り込んでしまうマリュー。ノイマンは、そんな彼女を複雑に見守るしかできない。
「……………ちょっと待って下さい」
 キラの後ろから呆然と口を挟むアスラン。
「…それじゃ…フラガさんは…」
「………………アークエンジェルの、盾になって………」
 その疑問に答えたのは、サイ。
 くっ、と眉を寄せて視線を床へ投げるディアッカ。そんな彼を気遣わしく見上げるミリィ。そこへ入ってくる、イザーク。
「…………キラ……お前はなぜそれを知ってる?」
 尋ねようとしたことをカガリに先に尋ねられ、それでもアスランはじっとキラを見つめたのだが。
 キラは困ったように淋しく微笑むだけだった。



「キラ!」
 エターナルへ戻るため、シャトル発着口に向かうキラを、アスランが追ってきた。
「お前、フラガさんが死んだこと、いつ知ったんだ」
「……。アスラン、何か変わったことない?」
「誤魔化すな!」
「誤魔化してるわけじゃないよ。…何か…自分の身に、変化はなかった? 戦ってる間」
 だから誤魔化すなって言ってるだろう、と怒鳴りつけようとしたが、そのアメジストの瞳は真っ直ぐに自分を捉えていて、逸らせない 真剣な強さを思い知らされる。
「……いや、別に」
「そっか。ならいいんだけど」
「キラ!」
「アスラン。…君はもう二度と、モビルスーツに乗らないで。…お願い」

 手遅れにならないうちに。
 僕のように目覚めてしまわないうちに。

「…キラ、それはどういう…」
「アスラン!」
 詰問しようとした声は、カガリによって遮られた。



「…さっき…ジェネシスの中でさ。言葉、足りなかったから」
「え?」
「お前、自分のお父さんのしたことに責任取って、自爆する気だったんだろ」
 ハッ、とアスランの目が見開かれる。
「…どうして…」
「そんなのは駄目だ。それは責任取るって云うんじゃない、逃げるっていうんだ。…残された者の気持ちを考えろ!」
 ぎゅっと瞑ったカガリの目の端から、涙が零れる。
「お父様があんな風に逝って、あたしがどんなに苦しんだか見てるだろっ、お前!! キラを殺したと思ってた時、自分がどんなに 苦しんだのか覚えてるだろ!?」
「カ…カガリ…」
「あたし達に…キラに!! あんな思いをさせるなよ!! ただでさえ、みんな…! みんな…!!」



 二人に遠慮して先に進んだキラも、その先でラクスに捕まる。
「キラ…」
「…ひょっとして、今の…聞いてた?」
 心配そうな声と泣き出しそうな顔のラクスに、キラは小さく微笑んで尋ねる。帰ってきた答えは、肯定を示すものだった。
「あなたも、目覚めてしまいましたのね」
「…やっぱり…ラクスはそうだったんだ」
「………」
「…このことを言ってたのかな。あの人が言ってた、『最高のコーディネイター』って」
「…キラは…『SEED』が発動していない今も、聞こえるのですか?」
「うん。…見えるよ」
 はっ、と灰空色の瞳が揺れる。
「今もね」
「……キラ……」





『…ありがとう、ヤマトしょ……うい、ではないのだったな。もう』
 自分に語りかける時にはいつものクセが抜けない彼女に、キラはクスッと笑った。
『キラ・ヤマト。…感謝する』
「…いえ…。フレイを守ってくれて、ありがとうございました」
『守りきることが出来なかったのは、心残りだがな』
『バジルール少佐…』
『君は傍にいてあげるんだろう?』
『はい』
『…貴方も』
『そりゃあ、ね。彼女がちゃんと、新しい幸せ見つけてくれるまでは、いくにいけないっしょ』
『…むこうで、お待ちしていても…よろしいでしょうか』
 頬を僅かに染めて俯きながらの言葉に、ムウがクスッと笑う。
『…サンキュ』
『……』
『そっちにいく時、マリューと一緒かもしれないぜ?』
『それでも、お待ちしています』
『…わかった』
 優しく微笑む彼に、彼女も珍しく、素直な笑顔を向けて。
『…やっと掴んだ平和の灯火、絶やすなよ』
「はい」
『バジルールしょ……いえ……、ナタルさんも、お元気で』
『フフ、あの世に元気も何もあるのかどうかは知らんがな』
『気の持ちようだろ?』
『そうですね』
 す、と上げた手が敬礼をしかけて。
 はっと気付いて止め、微かに苦笑してしまう。そして、その手をこちらに向けて振った。

 そのまま、溶け込んで、消えてしまう。

「…………見送りも済んだし、行こうか。フレイ」
『本当にいいの? 折角平和に…普通にあのひとと一緒にいられるようになったのに…』
「僕が居たら、アスランはきっと僕を守ろうとしてくれるから。だから…」
『…キラ…』
『ほんとにいいんだな、キラ』
「ええ。………こういう時、何て言ったらいいのかな…」
 さよならじゃ哀しすぎる。
 ありがとうっていうのも、確かにそのとおりなんだけど…ちょっと違って。
『またな、でいいんじゃない?』
「…」

「じゃあ、また」



 そうして。
 キラは、ある日突然姿を消した。



「一緒に行こう、フレイ。…来て、くれる?」
『もちろんよ。私はいつまでも一緒にいるわ。キラが望む限り、ずっと』
「…ありがとう」





「…キラくん…どうして」
「なんでっ…なんでだよっ、キラ!!」
「…わたくしには、やはり何もできないのですね…キラ…」
「キ…ラ……嘘だ……」

「…どうしてお前はいつも、俺の知らない間に俺の傍からいなくなる!!!
 キラ――――――!!!!」








 キラ。
 どこにいるんだ、キラ。
『みつけて』
 誰だ。知らない。探してるのはお前じゃない。
『またキラが泣いてるの』
 だから、そのキラはどこにいるんだ!!
『私に気付かれまいとしているけれど、泣いているの』
 どうして!?
『あなたが好きだから傍に居たくて、あなたを愛してるから傍に居られなくて、苦しんでるの。私じゃ、どうにもできない』
 なら教えろ!! キラはどこにいる!!
『……それは駄目。私が教えたんじゃ意味がないの。あなたが、見つけたんじゃなきゃ意味がないの』



 私にできるのは、見守ることだけ。
 想いのちからで包んで、護ることだけ。
 あなたでなければキラの願いは叶えられない。

 早く来て。アスラン・ザラ。




RETURN