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大伴坂上郎女

(おおともさかのうえのいらつめ)
大伴一族の中心的存在だった郎女、はじめ穂積親王に愛され、その没後は藤原麻呂の妻となり、のちに異母兄の藤原朝巨宿奈麻呂の妻になった。
その作品は才気にあふれ、甥の家持の作歌生活にも大きな影響を与えた。


【藤原麻呂を想って作った歌】
佐保川の小石踏み渡り ぬばたまの 黒馬の来夜は 年にもあらぬか 第4巻525
佐保川の 小石を踏み渡って 愛しい人が黒馬の乗って来る夜は 一年中絶え間なくあって欲しいわ

千鳥鳴く 佐保の川瀬の さざれ波 止む時もなし 我が恋ふらくは 第4巻526
千鳥鳴く 佐保川のさざ波のように いつもいつも あなたを恋しく想っているのです


【大伴宿祢駿河麻呂に贈った歌】駿河麻呂は郎女の娘の求婚していた、娘に代わって歌を作っていたらしい
我れのみぞ 君には恋ふる我が背子が 恋ふといふことは言のなぐさぞ 第4巻656
恋しいと想っているのは私ばかり あなたが恋しいよと言うのは口先ばかりだわ

思わじと 言いてしものを はねず色の うつろひやすき 我が心かも 第4巻657
もう あなたの事を考えるのはやめとうと思ったのに また、あなたを想ってる

思へども 験もなしと知るものを 何かここだく 我が恋ひわたる 第4巻658
どんなにあなたを想っても仕方がないとわかっているのに どうしてこんなに 恋しく切ないんでしょう

あらかじめ 人言繁し かくしあらば しゐや我が背子 奥にいかにあらめ 第4巻659
今から人の噂がたっているのよ ねえあなた まったくこの先はどうなるんでしょうね

恋ひ恋ひて 逢へる時だに 愛しき 言尽くしてよ 長くと思はば 第4巻661
恋しくて やっと逢えた時くらい 優しい言葉をいっぱい言ってよ 私をいつまでも愛する気持ちがあるのなら


【太宰大監大伴宿祢百代を想って作った歌】相次ぐ夫との死別や離別を繰り返した後の歌
黒髪に 白髪交じり 老ゆるまで かかる恋には いまだあはなく 第4巻563
黒髪に白髪が交じる歳になるまで こんなに辛く 切ない恋をしたことがなかった

山菅の 実成らぬことを 我に寄そり 言はれし君は 誰と寝らむ 第4巻564
山菅が実を結ばないように 私と結ばれない事を嘆いていたあなたは 本当は誰と寝ているのかしら


【その他の作品】
我が背子に 恋ふれば苦し 暇あらば 拾ひて行かむ 恋忘れ貝 第6巻964
あの人に 恋してると苦しいから 旅路の行く間も暇を見つけては 忘れ貝と言われる片貝を拾い集めましょう

我が背子が 見らむ佐保道の 青柳を 手折りてだにも 見むよしもがも第8巻1432番
あなたが 今見ている 佐保道の青柳の 手折った枝でも せめて見られたらいいのに
離れた場所に居る人が、今見ている枝を見ることは不可能ですね、愛しい人が見ている同じ風景を同じ時に見たい。
会えない時間の中でも同じ感性を共有したいと思うのが恋心でしょう。


暇無み 来ざりし君に霍公鳥 われかく恋ふと行きて告げこそ 第8巻1498
暇がないからと訪ねて来ないあの人に ホトトギスよ私がこんなに恋慕っていると告げておくれ

夏の野の 繁みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものそ 第8巻1500
夏の野に ひっそりと咲いている姫百合のように 相手に伝わらない片思いの恋は 苦しばかり