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大伴宿禰家持を愛した女たち


大伴宿禰家持へ贈った女性の歌を集めて見ました。

【笠女郎(かさのいらつめ)】
第3巻395
託馬野に 生ふる紫草 衣に染め いまだ着ずして 色に出にけり
高貴なあなたに 想いをよせてから 手も触れていないというのに 顔に出てしまうのよ

第3巻397
奥山の 岩本菅を 根深めて 結びし心 忘れかねつも
心の奥深くから 契りをかわした想いは 忘れません

第4巻588
白鳥の 飛羽山松の 待ちつつそ 我が恋ひ渡る この月ごろを
白鳥の 飛羽山松ではないけれど 永久に待つばかりでも 幾月でも待ち続けますわ

第4巻593
君に恋ふ いたもすべなみ 奈良山の 小松が下に 立ち嘆くかも
あなたが恋しくて 切なさに 奈良山の 小松の木陰に立って ため息ついているの

第4巻596
八百日行く 浜の沙も 我が恋に あにまさらじか 沖つ島守
通るのに八百日もかかるほどの 長い砂浜の砂粒の数よりも 私の恋心の重さとは比べものにならないわ そうでしょ

第4巻609
我も思ふ 人もな忘れ なほなわに 浦吹く風の 止む時なかれ
     私も愛しているわ あなたも私を忘れないで 絶え間なく吹く潮風のように
第4巻607
皆人を 寝よとの鐘は 打つなれど 君をし思へば 寝ねかてぬかも
陰陽寮の 就寝を知らせる鐘の音が鳴っているけど あなたを想って 眠れないの


【紀女郎(きのいらつめ)】
第4巻762
神さぶと 否にはあらず はたやはた かくして後に さぶしけむかも
悟りきって 人並みの恋愛などしないと言ってるのではありません 恋愛関係になったあとで あなたの心が離れてしまうのが不安なんです

第4巻776
言出しは 誰が言なるか 小田山の 苗代水の 中淀にして
最初に愛の言葉を口に出したのは どなたでしょう それなのに 山田の苗代水のように 訪れも途絶えてしまって


【大伴坂上大嬢(おともさかのうえのだいぢゃう)】
第4巻582
ますらをも かく恋ひけるを たわやめの 恋ふる心に たぐひあらめやも
男らしいあなたでも こんなに恋してるでしょ 女性の私は気晴らしするすべもなく 恋心を抱いているのよ

逢はむ夜は いつもあらむを なにすとか その夕逢ひて 言の繁きも 第4巻730
逢おうと思えば いつだって逢えるのに どうして あの晩にかぎって逢った事が噂になったのでしょう

我が名はも 千名の五百名に 立ちぬとも 君が名立たば 惜しみこそ泣け 第4巻731
私は 噂になっても平気だけど 私との噂が立つ事で あなたに迷惑がかかると思うと 口惜しくて泣いています


【山口女王(やまぐちのおほきみ)】
物思ふと 人に見えじと なまじひに 常に思へり ありそかねつる 第4巻613
誰かに恋してると 人に悟られないように いつも普通に振舞っているけれど 本当は死にそうなくらい苦しいのよ

相思はぬ 人をやもとな 白たへの 袖漬つまでに 音のみし泣かも ―第4巻614―
     私を愛してはくれないのだと思うと 切なくて 衣の袖も濡れるほど激しく 声をあげて泣いています

我が背子は 相思はずとも しきたへの 君が枕は 夢に見えこそ 第4巻615
私の愛するあの人は 私を愛してはくれない 本当は私を好きならば あなたの夢の中に 見えるはずよ


【大神郎女(おほみわのいらつめ)】
さ夜中に 友呼ぶ千鳥 物思ふと わび居る時に 鳴きつつもとな 第4巻618
夜中に 相手を呼んで千鳥が鳴いているの あなたを想いながら独り寝している 悲しい気持ちでいる夜なのに



【中臣郎女(まかとみのいらつめ)】
をみなへし 佐紀沢に生ふる 花かつみ かつても知らぬ 恋もするかも 第4巻675
佐紀沢の沼地の奥深くに咲く 花しょうぶではないけれど いままで こんなにも人を好きになった事など なかったわ

春日山 朝居る雲の おほほしく 知らぬ人にも 恋ふるものかも 第4巻677
春日山にかかる 雲のように 浮ついた気持ちでいます 噂に聞いただけで まだ逢った事もない あなたに恋するなんて

直に逢ひて 見てばのみこそ たまきはる 命に向かふ 我が恋止まめ 第4巻678
あなたに直接逢う事ができたなら 命がけで恋する 私の気持ちも落ち着くでしょうに

否と言はば 強ひめや我が背 菅の根の 思ひ乱れて 恋ひつつもあらむ第4巻679
あなたが いやだとおっしゃるのなら 無理に逢って下さいとは言わないわ 切なく苦しい想いで恋い慕っていましょう



【栗田女娘子(あはためのをとめ)】
思ひ遣る すべの知らねば かたもひの 底にそ我は 恋ひなりにける 第4巻707
切ない気持ちを 紛らすすべもないので 片思いの哀しみのどん底に 沈んでしまいました



【河内百枝娘子(かわちのももえをとめ)】
第4巻701
はつはつに 人を相見て いかにあらむ いづれの日にか また外に見む
ほんの少しだけしか あなたを見ることができなくて残念です いつか またどこかで会いたいですね

第4巻702
ぬばたまの その夜の月夜 今日までに 我は忘れず 間なくし思へば 
あなたをちょっとだけ見た あの夜の月が忘れられないの あれからずっと あなたを想っているのです



【巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそをとめ)】
第4巻703
我が背子が 相見しその日 今日までに 我が衣手は 乾る時もなし 
あなたに会った あの日から今日までも 私の衣の袖は 涙で濡れて乾く事がないんです

栲縄の 長き命を 欲しへくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ 第4巻704
長生きをしたいと 神に祈るのは いつまでも永く あなたと逢いたいと思うからなのです


【豊前国の娘子大宅女(とよくにのみちのくちをとめおおかけめ)】
第4巻709
夕闇は 道たづたづし 月待ちて いませ我が背子 その間にも見む 
宵闇は 道がわかりにくいから 月が出るのを待ってから お帰りになって その間だけでも あなたの顔を見ていられるから



【安都扉娘子(あとのとびらをとめ)】
第4巻710
み空行く 月の光に ただ一目 相見し人の夢にし見ゆる 
空に輝く 月の光に ただ一目見ただけの あなたの夢を見るのです



【丹波大女娘子(たにはのおほめのをとめ)】
第4巻713
垣穂なす 人言聞きて 我が背子が 心たゆたゆ 逢はぬこのころ 
周りの人が あれこれ噂するを気にしてるのでしょうか 心が迷って この頃は逢いにも来てくれない