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星に願いを


中国から伝えらた「七夕伝説」は万葉人の心をそそる恋物語であったようです。
第8巻では山上臣憶良が12首、第10巻には秋雑歌に98首が掲載されています。
七夕伝説
天の川の東の宮殿に住む織姫は天帝の娘。
織姫の織る布は、天上に生える扶桑という木の葉で飼った蚕の糸で紡ぎ
天の川ですすいだもので、雲か霞のように薄く
着物にすると雨や雪にも濡れず、真冬に着ると綿を入れなくても暖かく、真夏に着れば風が無くても涼しいという代物でした。
毎日毎日、父の言い付けどおりに機を織っていた織姫でしたが天の川の西に住む牽牛の元へ嫁ぐ事になりました。
結婚してからの織姫は、結婚の楽しさに夢中になり機織もしなくなってしまいました。
怒った天帝は織姫を宮殿に連れ戻し、天の川で隔てられたふたりは離れ離れにされてしまいました。
1年に一度七月七日の夜だけ逢う事を許されたふたりを、一羽の鳥が天の川の中に翼を広げ
夫に逢いに行く織姫を渡してあげるのです



【山上臣憶良 】
第8巻1518番
天の川 相向き立ちて 我が恋ひし君来ますなり 紐解き設けな
天の川に向き合って立ってる 私の愛しいあの方がくる 紐をほどいて寝所の準備しよう
第8巻1529番
天の川 浮津の波音 騒くなり 我が待つ君し 舟出すらしも
天の川の 天に浮かぶ桟橋の波音が 聞えてくるよ 私が待つあの方が 舟を漕ぎ出したんだね



【第10巻 秋の雑歌より 】(七夕はこの時代の四季では秋になります。)

1999番
赤らひく 色ぐはし児を しば見れば 人妻故に 我恋ひぬべし
頬を赤く染めた 繊細な美しさのあなたを何度も見てうちに 人妻と知っていながら 私は恋しくなってしまうんだよ
牽牛を愛する織姫のひたむきさと伝説の美しさに、作者は織姫のファンになったのでしょうか


2009番
汝が恋ふる 妹の命は 飽き足らに 袖振る見えつ 雲隠るまで
あなたの愛しい 織姫星は 短すぎる逢瀬の時が物足りなく 雲に隠れるまで 袖を振っていたろう
織姫と牽牛の別れの場面を想像して、第三者の目で読んだ歌です。


2014番
我が待ちし 秋萩咲きぬ 今だにも にほいに行かな 彼方人に
心待ちにしていた 秋萩が咲いた 今すぐにでも行って 愛し合いたい 向こう岸にいる人と
牽牛の立場になって詠んだ歌です。

2020番
天の川 夜舟を漕ぎて 明けぬとも 逢はむと思ふ夜 袖交へずあらむ
天の川を 夜通しかけて舟を漕ぎ 夜が明けてたとしても 逢うと決めた夜は 愛し合わないでいられないよ


2032番
一年に 七日の夜のみ 逢ふ人の 恋も過ぎねば 夜は更け行くも
一年に 七夕の夜にだけ 逢える人の 恋は尽き果てないままに 夜が明けてきた


2069番
天の川 瀬ごとに幣を 奉る 心は君を 幸く来ませと
天の川の 瀬ごとに 神に捧げ物をしました あなたを無事にお渡し下さいと願う心からですよ
織姫の立場になって詠んだ歌です。


2078番
玉葛 絶えぬものから さ寝らくは 年の瀬りに ただ一夜のみ
(玉葛)永遠の愛を誓ったふたりでも 一緒に寝れるのは 一年経つうちに たった一夜きり