BACK

大伴宿禰家持

【 笠女郎(かさいらつめ)と別れた後に贈った歌】笠女郎から贈られた24首もの歌への返歌、たったの2首
今更に 妹に逢はめやと 思へかも ここだく我が胸 いぶせくあるらむ第4巻611
もう、あなたに逢えないと思うからか こんなにも私の心は晴れ晴れとしないんだ

なかなかに 黙もあらましを なにすとか 相見そめけむ 遂げざらましくに 第4巻612
どうせなら 黙っていればよかった どうして逢ってしまったんだろう 添い遂げることも出来ないのに

【 大伴坂上大嬢(おおとものさかのうえのだいぢゃう)に贈った歌】
朝に日に 見まく欲りする その玉を  いかにせばかも 手ゆ離れずあらむ 第3巻403―
朝も昼も 見ていたいと思う 美しいあなたを どうしたら いつも手元に置いておけるのでしょう

【 大伴坂上大嬢に贈った歌と大嬢の返歌】
後瀬山 後も逢はむと 思へこそ 死ぬべきものを 今日までも生ける ―第4巻739―
いつの日にか 逢いたいと思うからこそ 死にそうに苦しいのを耐えて 生きているのです

坂上大嬢の返歌
言のみを 後も逢はむと ねもころに 我を頼めて 逢はざらむかも第4巻740
言葉だけは いつか逢おうと 優しく言って期待させて 逢ってはくれないのではないですか

【 大伴坂上大嬢と結ばれた後に贈った歌】
夢に逢ひは 苦しかりけり おどろきて 掻き探れども 手にも触れねば第4巻741
夢で逢えても 辛いだけだよ 目が覚めて、あなたを探しても 手に触れる事もないんだから

恋ひ死なむ そこも 同じそ 何せむに 人目人事 言痛み我せむ 第4巻748
恋死にだって こうして 人目をはばかり噂を気にして 逢えないでいるのと 同じくらい苦しいよ

相見ては 幾日も経ぬを ここだくも 狂ひに狂ひ 思ほゆるかも 第4巻751
逢ってから まだ何日も経っていないのに どうしてこんなにも 苦しくてたまらないほど あなたが恋しいのかな

【男友達と別れる時に贈った歌】男性にもだったの・・・?
けだくしも 人の中言 聞かせかも ここだく待てど 君が来まさぬ 第4巻680
もしかして 人の中傷を耳にしたのか こんなに待っても 君が来てはくれないのは

なかなかに 絶ゆとし言はば かくばかり 息の緒にして 我恋ひめやも第4巻681
いっそのこと 別れようと言えるなら 私は 命かけて こんなに苦しい恋をするものか

思ふらむ 人にあらなくに ねもころに 心尽くして 恋ふる我かも 第4巻682
私を思ってくれる人でもないのに 繰り返し繰り返し あれこれと尽くし 片思いしているんだ

【娘子に贈った歌】 娘子=身分の低い女性、娘子に贈った歌はいくつかあるが同一人物なのか、さだかではない
ももしきの 大宮人は 多かれど 心に乗りて 思ほゆる妹  第4巻691
お城には 女官はたくさん居るけれど 心の中から離れないほど あなたを想っているよ

うはへなき 妹にもあるかも かくばかり 人の心を 尽くさく思えば 第4巻692
つれない人だね こんなにも 私は心が苦いほど あなたを想っているのに

かくしてや なほや退らむ 近からぬ 道の間を なづみ参ゐ来て 第4巻700
こんなにまでして来たのに やっぱり追い返されるのか 遠い道のりを苦労して逢いに来たのに

心には 思ひ渡れど よしをなみ 外のみにして 嘆きそ我がする 第4巻714
心では想い続けているのだけれど 逢う機会がないので 遠いここから 想い嘆いているんだよ

千鳥鳴く 佐保の川門の 清き瀬を 馬打ち渡し いつか通はむ 第4巻715
千鳥鳴く 川下の清い川べりを 馬を走らせ あなたに逢いに行けるのは いつのことだろう

夜昼と いふわき知らず 我が恋ふる 心はけだし 夢に見えきや 第4巻716
夜も昼も 私はあなたを想っているのです そんな私の想いが夢に出てはきませんでしたか

つれもなく あるらむ人を 片思に 我は思へば 苦しくもあるか 第4巻717
私に関心がなく つれないあなたに片思いしている私は 苦しくてどうしようもないよ

思はぬに 妹が笑まひを 夢に見て 心の内に 燃えつつそ居る 第4巻718
     思いがけなく 笑顔のあなたが夢に出て来て 私の心は激しく熱くなっています

ますらをと 思へる我や かくばかり みつれにみつれ 片思をせむ ―第4巻719―
たくましい男だと自負していたのに こんなにも 恋やつれするほどの 片思いをしているよ

むら肝の 心砕けて かくばかり 我が恋ふらくを 知らずかあるらむ 第4巻720
胸が張り裂けそうなほど こんなにも 私が恋している事を あなたもわかっているだろう

一昨年の 先つ年より 今年まで 恋ふれど なぞも 妹に逢ひ難き 第4巻783
一昨年の その前の年から 今年まで ずっと恋い慕っているのに どうしてあなたに逢えないのだろう

我がやどの 草の上白く 置く露の 身も惜しかえあず 妹に逢はざれば第4巻785
私の家の庭の 草の上に白くつく露のように 儚く消えてしまう命であっても あなたに逢えないのなら 惜しくもないよ

【童女に贈った歌】童女=成人していない幼い女の子
はね縵 今する妹を 夢に見て 心の内に 恋ひ渡るかも 第4巻705
はなかずらの髪飾りをしている まだ幼いあなたが 私の夢に出てきたよ 私に恋しているんだろう

【紀郎女に贈った歌】 年上の熟女との関係も・・・
百歳に 老い舌出でて よよむとも 我はいとはじ 恋は増すとも 第4巻764
あなたが百歳になり 歯が抜け口元がおぼつかなくなり 歩くのも困難になっても 嫌になんてなりません いっそう愛しくなることはあっても

【紀郎女に贈った歌と紀郎女の返歌】
鶉鳴く 故りにし郷ゆ 思へども なにそも妹に 逢ふよしもなき 第4巻775
鶉鳴く 旧都の奈良に居た頃から 想い慕っていましたが どうしても逢う機会がなくて

紀郎女の返歌
言出しは 誰が言なるか 小田山の 苗代水の 中淀にして 第4巻776
最初に愛の言葉を口に出したのは どなたでしょう それなのに 山田の苗代水のように 訪れも途絶えてしまって