12月の章 12月15日 凱風快晴

「 これにしよう!! 」 

当然一度も作ったことなどない。 
決め手になったのは、料理本の
“ごはんをもりもり食べたくなる” というサブタイトルだ。
 
冬山を重い機材を背負って登ってくるんだ。
寒いし、お腹もすくはずだ。
あったかいご飯がたくさん食べられたら嬉しいだろう。
 
なんとなく作り方も、みたところ簡単そうだし・・・。
 
決めた! 夕食の献立は「麻婆豆腐」だ。


これに決めたのには、もう1つ理由があった。

 


12.6 吹雪もやみ 夕焼けせまる

12.6 夕焼けの落葉松
今まで、豆腐など越冬には使えない食材だった。
ところが、この年、ハウスが新食品を開発した。

ハウス 本とうふ 』
(今もあるかどうかわからないが)
 
どこででも本格的な豆腐が作れるという優れものだ。

これは越冬で使えそうだということで、
我々もいち早く目をつけておいた新食品である。

山小屋で豆腐料理がでたら、驚くぞ。
「びっくりさせてやろう」という下心も働いてた。


しかし、現実はそんなに甘くなかった。

料理をしたことがないので、
ひとつひとつの段階で、
次に何をしたらいいのかわからない。

手が止まってしまう。

料理本の所へ行ってじっと見る。 
火にかけていたものが、吹きこぼれる。
あわてて火を消す。

不安げに、また料理本を見る。

片付けながら調理することを知らないから、
台所は切った食材や使いっぱなしの調理道具が
散らかしっぱなしになってしまっている。

夕食時間は刻々と迫ってきて、だんだん焦ってきた。
焦るけど、料理はいっこうに出来上がらない。



12.6 暮れゆく小屋周辺
 


その日の夕食は、悲惨な状態だった。

出来上がりは、大幅に遅れて、
‘ 自慢する予定 ’ だった「麻婆豆腐」はお皿に分けると、
分量を間違えたのだろうか、1人分には、あまりにも、あまりにも少なくなった。

“ごはんをもりもり食べたくなる” というサブタイトルだったが
みごとに予想に反し、全員が 
“ごはんを遠慮しながら食べる” 寂しい夕食になってしまった・・・。




 12.15  凱 風 快 晴


重苦しかった吹雪の日も、
何日か続くと、
ちょっと一息ついたように

おだやかな日が訪れる。

燧ヶ岳も久しぶりに姿を現し、
雲がのどかに流れてゆく。

ほっとする静かな1日だ。

尾瀬沼は
ついに真白い雪に
おおいつくされ
 
 深く長い眠りについた。


つづく