その日はいつもと違っていた。 朝、ものすごく冷え込んで目が覚めた。 布団の中にいるはずなのに、 目の前に雪がちらついている。 よく見ると、布団の縁が真っ白になっている。 自分の息が凍っていたのだ!! 「なかなかさーん、ちょっと来てくださーいっ」 いそいでダウンを着て、ストーブの部屋に行く。 「この冬の最低気温を記録しましたよ。」 やや興奮気味にウミさんが教えてくれた。 窓のすぐ外に設置してある温度計をのぞき込む。 なんと “マイナス28度”だ。 「すごいっ」 「これは、ここ数年で1番の寒さじゃないかなぁ」 隊長も驚いた様子だ。 |
2.16 マイナス28度を記録 |
2.16 深い群青色の空に 雪煙をあげる燧ヶ岳 |
これは外に出て体験しなくっちゃ。 さっそく、重装備で外に出てみた。 外に出た瞬間、空気はズシーンと重い。 その寒さは半端じゃなく、なんだか息苦しい。 ほおにふれる空気は痛さを感じる。 まばたきがしづらくなってきた。 なんと、まつげが凍って まばたきの瞬間にくっついてしまうのだ。 空の青さもいつもと違い、深い群青色だ。 空気中がキラキラ輝いている。 ダイヤモンドダスト現象が起こっているようだ。 「これがダイヤモンドダストかぁ・・」 初めて体験する寒さと美しい風景は あまりにも神秘的だった。 |
「大江山まで足をのばしてみようか」 太陽が照ると気温も少し上がり、除雪も一段落したので、 休養日の今日は遠出をすることになった。 大江山には道がなく、 雪のある時期にしか行けないので 我々も、初めて行く場所だ。 すごく興味がわいてくる。 大江川湿原を詰めていき、 右手の雄大な斜面を登っていく。 真っ白い冬毛のウサギが、あちこちにいる。 真っ白い雪に真っ白いウサギはとてもきれいだ。 まだ誰も来たことがない場所だけに ウサギの天国なのだろうか。 |
2.16 大江山(1881.5m)の山頂付近 |
シールを付けて登っていくシュー・シューという音以外は いっさいの音が雪に吸収されてしまっている。 スキーを止めると、そこはまったく音のない世界に包まれる。 いや、不思議なことだが、耳にはなんと・・ 『シーン』という音が聞こえるように感じる。 大江山頂上付近は手つかずの場所だけに、 「聖域に来たんだな」と強く感じられた。 |
大江山頂上で、一息入れた後、 沼山休憩所に向かって樹林帯を一気に滑る。 樹林帯を山スキーで滑るのは とてもスリルがある。 もちろんどこを滑っても新雪だ。 目の前に樹木が次々に現れるので、 それをよけながら滑っていく 少しも気を抜けない。 ゲレンデスキーではとても味わえない 緊張感がある。 沼山休憩所に到着。 新雪の積もる屋根が美しい。 「来週は、いよいよツアー隊が来るよ。」 「いよいよ、ツアー隊が来るんですね。」 いよいよ最大のイベントが近づいてきた。 つづく |
2.16 真冬の沼山休憩所 |