『・・いまから・・一ノ瀬を出発します・・どうぞ・・ザザッ』 『・・了解しました・・』 『こちらからも・・迎えにいきます・・ピッ』 ツアー隊が上山する日、燧ヶ岳は姿を見せず 沼には雪が静かに降っていた。 「なかなかさん、ウミさん、迎えお願いします」 「はい、行ってきます」 泊まる部屋の準備は昨日までにすませてある。 今日は早いうちに夕食の準備と、 ミーティングルームの準備を終わらせた。 私とウミさんはツアー隊の出迎えに向かった。 |
2.26 わくわくしながらツアー隊を迎えに行く |
2.26 案内板の上にもたっぷりの雪 |
「 燧ヶ岳ツアー 」 現在ではもう行われていないが、 その当時、厳冬期の尾瀬に山スキーで入山して 翌日燧ヶ岳を目指すツアーが企画されていた。 この越冬中の最大のイベントだ。 越冬の小屋に大人数が泊まり この時だけは大変にぎやかになる。 越冬している我々も、小屋がにぎやかになるのは とっても楽しみで、2〜3日前からわくわくしている。 迎えに行くスキーの速さも自然と速くなってくる。 途中の案内板の上にはたっぷりの雪。 除雪してあげたいようだが 「自然のままがいいねぇ〜」とそのままにしておく。 |
その年は、スタッフを含め 総勢18人がツアー隊として入山した。 夏シーズンとは違うルートで沢沿いに登り 三平峠の東側から入山してくる。 お互いの位置を携帯無線機で確認しながら 樹林帯で無事合流した。 「こんにちわー」 「迎えご苦労さまー」 スタッフの人たちの懐かしい顔 「また来ましたー」 よくツアーに参加している常連さんのにこにこ顔、 「こんにちわー」 初めて今回のツアーに参加の人もいる。 みんな晴れやかな顔である。 「あいにくの雪で燧ヶ岳の出迎えはありませんが、 ここから、越冬小屋までご案内します。」 明日の足慣らしも兼ねて、 三平下まで樹林帯を滑っていく。 山スキーは登山靴で滑るので、足首が固定されず おまけに重いザックを背負ってふかふか雪の中を滑るので、 ゲレンデスキーの何倍も難しい。 |
2.26 ツアー隊と無事合流する。 ここでシールをはずす。 |
全員を無事越冬小屋まで案内し、にぎやかな夕食後 明日のための最終ミーティングを行う。 「ミノブチ岳が第1目標地点です。」 「それから頂上へは気象条件が厳しいのでほとんど行けません」 「下着はウール100%のものを必ず着用してください。」 「体調がすぐれない方は必ず申告し、燧ヶ岳登山は今回は見送ってください。」 「天候判断によっては、途中で引き返すこともあります。」 「最後に・・明日の燧ヶ岳登山を決行するかどうかは スタッフに一任してください。」 |
2.26 明日のための最終ミーティング |
ミーティングの後、談笑する中でも 明日の天候のことが最大の話題だ。 「今日は燧ヶ岳が1日中見えなかったのですが、 明日の天気予報は、どうでしょうか・・?」 「我々も明日の天候は、わからないんですよ・・。」 「せめて、吹雪じゃないことを祈るしかないですよね。」 「今回のツアーをすごく楽しみにしていたんですけど 吹雪では登れませんからね・・。」 「私は、もしミノブチ岳の頂上に立てたら 記念にと “鯉のぼり” を持参したんですよ。」 「おおー!いいねー」 「早くも頂上に立つ気でいますねー。」 明日の話題で盛り上がったあと、早めの就寝となった。 明日が良い天気であるように祈りながら・・ |