3月の章 3月20日『中島みゆき アルバム』


“ ふるさとへ向かう最終に       
   乗れる人は急ぎなさいと〜♪ ”

【中島みゆき アルバム】

越冬中の長い夜にくり返し聞いていたテープ。

閉ざされた孤独な長い冬の生活に
ぴったりの曲だった。

この生活がいつ終わるのだろうかと
思いながらいつも聞いていた。

ある日、そんな気持ちを変えた
一言があった。




3.20 中島みゆき アルバム


 3.24 “つらら”がみられるようになると寒さはピークを超えた



「つららができてきたね」

いつものように小屋の見回りを
してきた隊長がにこっと笑いながら言った。

「つららができるようになったら
もう、寒さのピークを超えたんだよ」

「そういえば、つららって
今まで全然ありませんでしたよね!」

暖かくなって雪が溶けるからつららになる。

『なるほどぉ!!』  『知らなかった。』

今まで、つららが
暖かくなってきたことを
教えてくれるなんて思ってもいなかった。



雪国の人は、長い冬が
いつ終わるのかと待ちわびて、

小さな自然の変化にも敏感に
春の訪れを感じていたのだろうなぁ。

ふとそんな事がわかったような気がした。


尾瀬沼をおおっている雪にも
変化が感じられてきた。

表面が少し溶けて、また凍る
クラストが見られるようにもなってきた。



3.26 尾瀬沼の雪もクラストがみられるようになった



3.27  ダケカンバの大木が倒れ、送電線を切断していた

昼食前、緊急の無線が入った。
東京電力の送電線が不通になったらしい。

午後から、さっそく送電線の点検に向かう。

山スキーを履いて送電線にそって見ていくと、
ダケカンバの大木が雪のため倒れ
送電線を切断している場所が見つかった。

我々ではどうすることもできないので、
切れた場所の確認をして
無線で報告をする。


「せっかくここまで来たのだから
檜高山まで登ってみようか」

「いいですねー」
隊長の提案に我々は即賛成する。


檜高山も夏道がなく
雪のあるときにしか行けない山だけに
興味がある場所だ。

沢に沿って登っていく。
途中ものすごい急坂があり、
自慢のシールでも登れない。

細引きでスキーをつなぎ、
引っ張りながら、ツボ足で登ってゆく。

ウミさんはもう途中から上着を脱いで
ガンガン登っている。



3.27  ものすごい急坂を、スキーを引張って登ってゆく




3.27  檜高山から燧ヶ岳、遠くに雪の景鶴山 を望む。 手前は隊長です。


夕方近くに、檜高山に到着

天気は快晴。 風が心地よい。

燧ヶ岳のすそ野越しに
雪がたっぷりの景鶴山、
なんと至仏山までも望める。

この角度からの、燧ヶ岳と尾瀬沼は
なかなかお目にかかれないだけに
記念に写しておく。





3.27  ここからは、至仏山までも望むことができる



太陽が沈んできた。

気温もいきなり
グッと寒くなってきたが


我々は、
誰も言葉を発せずに

この美しい尾瀬沼の
1日の終わりを、
静かに見続けていた。




つづく


3.27 冬の尾瀬沼の1日が終えてゆく