序章 10月4日 初雪から小屋閉め

10月4日、この年は例年になく早い初雪が降った。

ぐっと冷え込んだ日の翌朝、
紅葉のシーズンの尾瀬には、
燧ヶ岳だけが白く輝いている。

「初雪だ!!」

我々は朝の準備もそこそこにすませ、
いっせいに外に飛び出す。

「うわー真っ白!」「綺麗!!」「いい時に来たわねー」
感激の声を上げる人、カメラをパシャパシャ写す人、
興奮した言葉が交わされる中、

「今年は冬が寒いかもしんねぇなぁ・・」
檜枝岐のアキさんのつぶやきだった。




10.4 燧ヶ岳に初雪つもる


10.14 湿原の葦もすべて枯れる
その初雪も数日後には見られなくなって、
尾瀬の最後のにぎわいの紅葉シーズンも
10月上旬に終わりを告げた。

紅葉シーズンが終わると、
みぞれ交じりの雨が降りはじめ
日に日に寒さが増してくる。

もう尾瀬を訪れる人も、ほとんどいない。

尾瀬は小屋閉めの時期に入ってきたのだ。



10.20 2階の窓まで 雪囲いする



11月に入ると、 
尾瀬の山小屋はすべて閉鎖される。

5日、山小屋の従業員達の下山の日だ。
その日もまた雪が積もった日となった。
 
「なごり雪のようだなぁ」 

 「木道は滑るぞぉ」 

登山靴でない人は、雪対策に
はき慣れたゴム長靴に 荒縄を巻き付ける。

「10m先で転んで、すぐに戻ってくるなよぉ」
どっと、笑いの起こるなか。

「また、来シーズンに会いましょーぅ」
お互いに握手を交わし別れを告げた。

4月に雪を踏みしめて上山した仲間は
この日、新雪を踏みしめての下山となった。





 11.5 小屋閉めの日


小屋には、越冬隊の男 3名だけが、
無言のまま、ポツンと とり残されたようだった。

「せっかくのええ雪や。少し見に行こう!」
隊長の声に、我々も大江川湿原まで行ってみた。

「美しい!!」

 積もった新雪に枯れた湿原が黄金色に見える。
沼の岸辺には、凍った氷が吹き寄せられて層になっている。

誰もいない木道の上で、しばらくこの風景に釘付けになった。

尾瀬の、厳しい冬のシーズンの前に見せる
最後の一瞬の美しい風景なのかもしれない・・・。

つづく


11.5  新雪の日 黄金色に輝く浅湖湿原から 燧ヶ岳


11.5 凍った氷が吹き寄せられて層になっていた