エライオソームをもったフジイロタチツユクサ
(別名ヤハタタチツユクサ)の種子
Commelina undulate R.Brown


外来種のフジイロタチツユクサCommelina undulate .Brownは、さく果が熟して2つに割れると、ぽろぽろと落花する種子と、さく果壁に包まれたままの種子の2種類の種子をつくります。

この落花する種子には、日本に自生するツユクサの仲間には見られない白い付属体が着いています。 この付属体はいったいどんな役割があるか観察を行ったところ、アリによる種子散布に役立つエライオソーム(
elaiosome)だということわかりました。

   
 フジイロタチツユクサCommelina undulate R.Brown の花  落花する種子:白っぽい付属体がある


1. フジイロタチツユクサの種子を運ぶクロヤマアリ 

 フジイロタチツユクサの種子を4個ティッシュペーパーに乗せて、クロヤマアリFormica japonicaの巣の近くに置きました。種子を置くとすぐにアリはやってきて、次々と白い翼の部分をくわえて自分の巣に運んでいきます。わずか2分間でクロヤマアリは4個の種子を運び去っていきました。(図1〜4

図1 置いたらすぐにアリが来る( 13:46 )  図2 2個目の種子を運ぶ ( 13:47 )  図3 3個目.の種子を運ぶ  ( 13:47 )

図4 4個目.の種子を運ぶクロヤマアリ. ( 13:48 )


4個のうち3個は自分達の巣へ運び、1個を巣ではなく遠くの方へ運んで行きました。(図5・6

 
図5 自分たちの巣へ種子を運ぶ  図6 1個は巣とは違う方向へ運んで行った


2. 観察結果

 花壇の脇と公園内にあった2カ所のクロヤマアリの巣の近くで、2日間に3回ずつ実験を行った結果が以下の表Tです。合計24個の種子を6回に分けてクロヤマアリの巣の近くに置いたところ、21個がアリの巣へ運ばれ、2個が巣以外の方向へ運ばれました。運ばれずに残ったのは1個だけでした。ほとんどの場合23分以内に種子はアリによって運ばれて行きました。 

場所 回数 置いた種子数 巣へ運んだ数 遠くへ運んだ数 残った数 測定時間
花壇の脇 T 5 5   0  12:59-13:01
U 3 3   0  13:43-13:45
V 4 2 1 1  17:07-17:17
公園内 T 4 4   0  13:05-13:06
U 4 3 1 0  13:46-13:48, (図1〜6.)
V 4 4   0  15:05-15:08
合計 6回 24 21 2 1

 表T. クロヤマアリによって運ばれるフジイロタチツユクサの種子の観察(2009.8.2728

3. かじられる白い付属体 

今回観察中、ときどきクロヤマアリが種子を巣に運ぶ前に種子の白い付属体をかじっているを見かけました。 アリから離して付属体の部分を拡大してみたものが次の画像です。(図7〜8)

図7 白い付属体をかじっているアリ 図8 クロヤマアリによってかじられた種子の付属体


4. 他の種類のアリもフジイロタチツユクサの種子を運ぶか

クロヤマアリと別の種で、はるかに小さなトビイロシワアリTetramorium tsushimaeでも観察を行ってみました。トビイロシワアリは種子を見つけると、やはり付属体の部分をくわえて自分の巣の方へ引きずっていきました。(図9) 自分の体よりもはるかに大きなフジイロタチツユクサの種子を時には2匹で協力して引きずることも見られました。(図10

図9 種子を引きずるトビイロシワアリ 10 2匹で協力して種子を引きずる


トビイロシワアリの行列の近くに種子を置くと、たちまち集まってきて付属体の部分をくわえて自分の巣の方へ引きずっていこうとしました。この付属体にはアリを惹きつけて、種子を巣へと運ばせようとする成分が含まれていると考えられます。(図11) 

図11 フジイロタチツユクサの種子に集まるアリたち

これらの観察の結果から、フジイロタチツユクサの種子の付属体はアリが好むエライオソームであることがわかりました。 エライオソームはアリ散布の種子をもつスミレ類やキケマン類の種子にみられますが、ツユクサの仲間の種子にもあるということが初めてわかりとても驚きました。 

このフジイロタチツユクサC. undulate 以外では、アメリカ・アフリカが原産の Commelina erecta L.の種子にもこのエライオソームがついていて、種の特徴の1つにもなっています(Faden, 1998)。 

今回この実験をした花壇の脇と公園は、本種がまったく生えていない場所です。 ここのアリたちは初めてこの外来種のフジイロタチツユクサの種子に接したわけですが、種子を見つけたとたんにエライオソームの部分をくわえて自分たちの巣へ運んでいったことが、とても印象的で興味深く思われました。      (2009.9.1)


【参考文献・サイト】 

Faden, R.B. (1998) Commelinaceae. In:K. Kubitzki (ed.) The Families and Genera of Vascular Plants, Vol. 4. Flowering Plants, Monocotyledons: Alismatanae and Commelinanae (except Gramineae). p. 115.  Berlin:Springer.  

吉村正志 鵜川義弘 緒方一夫 小野山敬一 今井弘民 久保田政雄 (2008) 日本産アリ類画像データベース, http://ant.edb.miyakyo-u.ac.jp


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