ガガイモの両性花と雄花 (ガガイモ科)
Metaplexis japonica



ガガイモの花は魅力的で、花もなんだか不思議な作りをしていて、いつも気になっていました。 今年、素晴らしい最新の『ガガイモの論文』(田中肇 秦野 武雄 金子 紀子 川内野 姿子 北村 治 鈴木 百合子 多田 多恵子 矢追義人 2006)(ここをクリック)を読み、ガガイモの花のつくりにとても興味を惹かれましたので、この論文をテキストにして、追認(後追い)しながら自分なりに観察してみました。


1.ガガイモの大きな花と小さな花

ガガイモの花には、大きな花と小さな花があり、大きな花は両性花・小さな花は雄花だそうです。 さっそく花を見ましたが、1目では大きな花と小さな花の区別が難しく、しばらく探してようやく明らかに大きさが異なる花を見つけました。  (写真 1.2) 

写真 1  ガガイモの花 写真 2  大きな花と小さな花


この大きな花と小さな花が、両性花と雄花であるかどうかは、蕊柱(ずいちゅう)の大きさと、底部の隙間でわかり、『ガガイモの論文』によりますと「大きい花の蕊柱は約4×4mmで、底部に花粉塊を入れられる垂直な隙間が開いている。 小さい花の蕊柱は約3×3mmで、底部の隙間は閉じている。」と書かれています。 
そこで、大きな花と小さな花の花冠をはずして、それぞれの蕊柱を観察しました。 大きい花の蕊柱は幅約4mmで、底部の隙間が開いています。 一方小さい花の蕊柱は幅約3mmで、底部の隙間は閉じていました。 (写真 3・4)



底部の隙間が開いている


底部の隙間は閉じている
写真 3 蕊柱の比較 写真 4 底部の隙間の比較


実際に、この底部の隙間に、ガガイモの花粉塊を持ってくるとどうなるか試してみました。 底部の隙間が開いている方は、花粉塊が中にすっと入って行きました。 一方底部の隙間が閉じている蕊柱では、花粉塊は中に入りませんでした。  (写真 5・6)

写真 5  両性花:底部の隙間と花粉塊 花粉塊は中に入ることができる 写真 6  雄花:花粉塊は中に入らない


底部の隙間から入った花粉塊の様子を、蕊柱の断面で見てみますと、隙間の奥には広い柱頭室があります。 この部分には、蜜が充満しています。 柱頭室は、クリップごと花粉塊がすっぽりと入るほどの広い空間となっています。 (写真 7・8)

写真 7  柱頭室のようす 写真 8 すっぽり入った花粉塊

花粉塊を柱頭室に入れたままにしたらどうなるのか試してみました。 20時間後に柱頭室を開いてみますと、花粉塊からものすごい量の花粉管が発芽しているのが観察されました。 (写真 9・10)

写真 9  柱頭室内での花粉管の発芽 写真 10  花粉塊から発芽した花粉管



子房を比較してみますと、大きな花(両性花)では発達した大きな子房であるのに対し、小さな花(雄花)の子房はとても小さく貧弱で未発達でした。 (写真 11.12) 

写真 11  大きな花(両性花)の子房 写真 12  小さな花(雄花)の子房



2.ガガイモの受粉機構

『ガガイモの論文』には、受粉のしくみも書かれてあります。 筆の毛を昆虫の口吻にみたてて実験してみました。 まず昆虫が蜜のある柱頭室に口吻を差し込んで蜜を吸います。 V字状をした細い裂け目には、多数の上向きのトゲが両側にありますので、口吻は次第に上に移動します。 (写真 13・14) 

写真 13 口吻を差し込んで蜜を吸うようす 写真 14 細い裂け目の上向きのトゲ


最上部まで引き上げられた口吻は、クリップの裂け目にとらえられ、花粉塊が花からとり出されます。  (写真 15〜17)

写真 15  口吻は、クリップの裂け目にとらえられる 写真 16 花からとり出された花粉塊 写真 17  クリップの裂け目に挟まった毛


このように昆虫が花粉塊を口吻に着けたまま、別のガガイモの花の蜜を吸うと、みごと花粉塊は柱頭室に送り届けられます。 なんとも驚くべき、すばらしい仕組みになっていることでしょう。 (写真 18・19)

写真 18 別の花の蜜を吸うときに 写真 19 みごと花粉塊は柱頭室に送り届けられる

この仕組みに感心してしまいましたが、『ガガイモの論文』では、さらに新たな発見が記述されています。

「ガガイモの花粉塊は夜行性の蛾の口吻の先端で運ばれ、昼行性の昆虫は重要な送粉者とは考えられない」Sugiura and Yamazaki(2005)と報告されていましたが、この論文では「多数の昆虫が日中この花を訪れ花粉塊を運ぶことを観察し、ガガイモが比較的大型で不規則に訪れる昆虫により送粉されると結論した」と、新しい送粉者の発見が詳しく報告されています。 
実際に私も、日中に多くの種類の昆虫がガガイモの花に訪れていることを観察することができました。



3.両性花と雄花を区別できるサイズ

この『ガガイモの論文』を読んで、ガガイモの花には両性花と雄花があることがわかりましたので、さっそくガガイモの花を観察してみました。 ところがガガイモの花の大きさは連続していて、大きな花と小さな花の境がどこなのだろう? という疑問がわいてきました。  (写真 20)

写真 20   花の大きさが連続しているガガイモの花


蕊柱の幅や、底部の隙間、子房の大きさを観察すれば、両性花と雄花の区別がつくのはわかりましたが、花の大きさからでも両性花と雄花は区別できるのではないだろうか? と考え調べてみたくなってきました。

花のサイズと両性花と雄花の関係を、福岡県S山に咲くガガイモの花で調べてみました。 (表1 グラフ1)

表 1 (福岡県S山のガガイモの花)

花のサイズ(mm) 9.5 10.0 10.5 11.0 11.5 12.0 12.5 13.0 14.0 合計
両性花



2 6 6 7 2 23 33.8
雄花 2 4 3 10 18 8


45 66.2

グラフ 1 (福岡県S山のガガイモの花)


その結果、福岡県S山のガガイモでは、花のサイズが12.5mm以上のものは両性花であり、11.0mm以下のものは雄花だということがわかりました。 11.5〜12.0mmのサイズの花では、両性花と雄花が混在していました。 また、両性花は調べた花の33.8%で、雄花は66.2%でした。


もう1カ所、別の場所(福岡県K公園)のガガイモの花も調べてみました。 (表2 グラフ2)

表 2 (福岡県K公園のガガイモの花)

花のサイズ(mm) 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 合計
両性花



1 3 4 7 6 2 23 92.0
雄花 1 1







2 8.0

グラフ 2 (福岡県K公園のガガイモの花)


こちらの場所のガガイモは花が咲き始めた時期でした。 花のサイズがたいへん大きくて、一見しただけでS山に咲くガガイモの花との大きさの違いがわかりました。 大きなものでは18mmのサイズのものまでありました。 花のサイズが13mm以上のものがほとんどで、これらは両性花でした。 雄花は少なく、9〜10mmのサイズの花が2つ咲いていました。  両性花は調べた花の92.0%で、雄花は8.0%でした。


4.2つの場所における両性花と雄花の割合の違い

K公園のガガイモの花(表2)は、92.0%が両性花でしたが、この場所では、ガガイモの花がようやく咲き始めた時期で、花の個数もまだ多くありませんでした。
一方、S山のガガイモ(表1)では、両性花は33.8%でした。  こちらはガガイモの花の時期としては、中期〜後期でした。 生育条件や環境の違いなども、あると思いますが、ガガイモの花はもしかしたら、両性花と雄花の割合は花期の進行とともに変動するのではないかと思われました。

今後も、K公園のガガイモの両性花と雄花の割合を、花期を追いながら調べてみたいと思っています。
                                                                   (2008.9.15)

 【 参考文献 】
  
・田中 肇 秦野 武雄 金子 紀子 川内野 姿子 北村 治 鈴木 百合子 多田多恵子 矢追 義人 2006. Andromonoecious sex expression and pollinia delivery by insects in a Japanese milkweed Metaplexis japonica (Asclepiadaceae), with special reference to its floral morphology 「日本の Milkweed ガガイモ(ガガイモ科)における花の雄花両性花同株性表現と昆虫による花粉塊授受、とくに花の形態との関係」 Plant Species Biology (2006) 21, 193-199


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