ヒサカキ 両性花 Eurya japonica |
春先に里山を歩いていると、ぷ〜んとあたりが都市ガスのような臭い(香り)がしてきます。 近くの樹木を見回すと、ヒサカキの小さな花がたくさん咲いているのを見つけることが出来ます。 (図1)
ヒサカキは図鑑などには雌雄異株と書かれていますが、花を観察してみますと、さまざまなタイプの花を咲かせています。
1.雄花 (雄株)
雄花は雌花に比べてやや大きく、花はふっくらとしています。 花弁は白色です。 (図2)
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図1 ヒサカキの雄株 | 図2 白色花弁の雄花 |
暗紅色の花をつけるものもあり、こちらはベニヒサカキ(E.. japonica f. rubescens)ともいうそうです。 (図3)
雄花には雌しべが見られず、雄しべだけが12〜15本ほど集まって、葯から白色の花粉を出しています。 (図4)
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図3 暗紅色花弁の雄花 | 図4 雄花の雄しべ 葯と花粉 |
2.雌花 (雌株)
ヒサカキの雌花は、雄花に比べて小さくて、花弁は細く先が尖っているような感じです。 (図5) 花には雌しべだけがあり、柱頭が3つ(2つ)に分かれて開いています。 雌しべの付け根あたりからは蜜をたっぷり出しています。 (図6)
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図5 ヒサカキの雌花 | 図6 雌花の蜜のようす |
3.不完全な両性花
.(1)不完全な雌しべをもった花
雄花の中に、時に雌しべが見られる花があります。 (図7) 両性花のようにもみえますが、花を観察してみますと、
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図7 雄花の中に雌しべが見られる花 |
この花の雌しべは柱頭がぴったりと閉じていて(図8)、子房を開いてみると、中には胚珠がありませんでした。 (図9)
どうやらこの花は、不完全な雌しべをもった雄花のようです。
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図8 雌しべ 柱頭が閉じている | 図8 雌しべ 子房には胚珠がない |
(2)不完全な雄しべをもった花
個体群の中には、いかにも両性花であるように雄しべと雌しべを備えている花があります。 (図10)
しかし花が開いているにもかかわらず、雄しべの葯が白いままのものがあり、これは葯が未発達の状態です。 (図11)
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図10 雄しべと雌しべを備えている花 両性花? | 図11 葯が未発達な花 |
同じ枝には雄しべの葯が茶色になった花もあります。 この花も葯から花粉を出しているようすがありません。 子房内には胚珠がちゃんとあります。 (図12) 葯をピンセットで開いてみると中には少量の花粉がありました。 (図13)
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図12 葯は平べったくて花粉を出していない | 図13 葯内には少量の花粉 |
しかし、この株のすべての花は、花が終わるまで葯がまったく裂開せずに花粉を出さないままでした。 このような不完全な雄しべをもった花は、雌花と混在していることが多いようです。 (図13)
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図13 不完全な雄しべをもった花 |
このような一見両性花のように見える花は、 まったく花粉を出さないままですので、どうやら不完全な雄しべをもった(雄性機能の存在しない)雌花だと思われます。
(3)不完全な雄花
不完全な雄しべをもった花の中には、雌しべが無く、まるで雄花のような花をつけていることもあります。 (図14) 図15では、雌花・雄花・両性花の3種類の花をつけているようにも見えます。
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図14 不完全な雄花 | 図15 3種類の花をつけているようにも見える |
しかし、図14・15のすべての花は葯から花粉を出していませんので、この雄花らしき花は、不完全な雄花(雄性機能の存在しない花)だと推測されます。
4.両性花
雄しべと雌しべを備えている花で、葯から花粉を出していて胚珠も確認できる花を探してみたところ、数は少ないのですがありました。 (図16) 同じ枝に両性花と雄花があり、すべての花は花粉を出しています。 (図17)
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図16 両性花と雄花 | 図17 両性花 花粉が出ているようす |
子房を開いてみると、中にはちゃんと胚珠があり、枝には初期の果実も見られますので、両性花を咲かせていることは間違いないでしょう。 (図18・19)
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図18 両性花の胚珠 | 図19 初期の果実 |
つまりヒサカキには、両性花も咲かせる株があるということです。 この枝には、雄花と両性花が見られますので、雄花両性花同株(雄性両全性同株)ということになります。
ヒサカキの両性花については、1993年に真鍋氏(北九州市立自然史・歴史博物館)によってはじめて明らかにされました。
従来、ヒサカキは雌雄異株とされていましたが、 雄花だけつける雄株、雌花だけつける雌株の他に、雄花と両性花をつける両全個体が存在していること(個体群中の数%程度)、さらに、花粉を全く生産していない雄しべ状の器官と雌しべを持ち合わせた花(雄性機能の存在しない花)があることが確認され、報告されています。 (真鍋 徹 1993 原生林及び二次林におけるヒサカキの個体群動態と再生産特性)
雌花と両性花が見られる株や、すべて両性花を咲かせる株もあるのではないかと思っているのですが、今のところ見つけてはいません。
(2009.3.25)
【 参考文献 】
・北村 四郎・岡本 省吾 1975 「原色日本樹木図鑑」 保育社
・永益 英敏 1995 「週刊朝日 植物の世界」 朝日新聞社 Vol.77
・清水 建美
2001 「図説植物用語事典」 八坂書房
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