イヌノフグリの仲間の種子散布 |
イヌノフグリの種子には、エライオソームというアリが好む物質(付属物)があり、アリ散布として知られています。
そこでイヌノフグリの仲間である、フラサバソウ(Veronica hederifolia) ・オオイヌノフグリ(V. persica) ・タチイヌノフグリ(V.
arvensis)・イヌノフグリ(V. polita ssp. lilacina)
のそれぞれの種子について、アリ散布のようすを観察してみました。
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フラサバソウ | オオイヌノフグリ | タチイヌノフグリ | イヌノフグリ |
1.果実と種子
それぞれの果実を見ますと、フラサバソウの果実は立体感があり、横に広い扁平な球形をしています。 オオイヌノフグリ・タチイヌノフグリの果実は扁平な倒心形で、イヌノフグリの果実はふっくらと丸みのある倒心形です(図1)。
イヌノフグリと聞くと「かわいそうな名前だ・・」と言う人もいますが、実際にこの果実を見ると、まるい2つのふくらみに短い毛がふさふさっと生えているようすは、とてもかわいくて、本当に小さな「犬のふぐり」という名がぴったりです。 名付けた人のセンスのすばらしさに感心してしまいます。
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図1 4種の果実のようす |
それぞれの果実には、何個の種子が入っているか調べてみました。 1つの果実だけですが、フラサバソウの種子は大きくて4個あります。 オオイヌノフグリには18個、タチイヌノフグリは22個、イヌノフグリは18個の種子が入っていました。 (図2)
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図2 種子・・・フラサバソウ4個 オオイヌノフグリ18個 タチイヌノフグリ22個 イヌノフグリ18個 |
2.アリが運ぶ種子
4種の種子を同じ場所に並べると、アリはどの種子を運んでゆくのでしょうか。
真っ先にアリがくわえて運んだ種子は、フラサバソウの種子でした。 みるみるうちにアリは種子を運んでいってしまいました。
こんなに早く運ばれる理由は、フラサバソウの種子のエライオソームが大きくて多量にあるためだろうと思われます。 (図3)
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図3 真っ先にアリが運んだのは、フラサバソウの種子 | 次々に種子は運ばれていく | 種子はあっという間に運ばれた |
フラサバソウの種子は、アリがあっという間に運んでゆくことがわかりましたので、次はタチイヌノフグリ・オオイヌノフグリ・イヌノフグリの3種の種子で同じ実験をしてみました。
時間はかかりましたが、イヌノフグリとオオイヌノフグリの種子は、どちらもアリに運ばれていきました。 イヌノフグリの種子の方が、やや多く運ばれました。 しかし、タチイヌノフグリの種子は1つも運ばれませんでした。 (図4)
タチイヌノフグリの種子にはエライオソームがついていませんので、アリには運ばれないまま残りました。
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図4 イヌノフグリの種子を運ぶアリ | オオイヌノフグリの種子を運ぶアリ | イヌノフグリの種子を運ぶアリ |
3.エライオソームと種子
エライオソーム(elaiosome)は、アリを誘引する脂肪酸や糖を含んだ物質で、フラサバソウ・オオイヌノフグリ・イヌノフグリでは、種子のくぼみの中についています。 アリはエライオソームの部分をくわえて種子を自分の巣まで運びます。 (図5・6)
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図5 イヌノフグリの種子を運ぶアリ | 図6 フラサバソウの種子を運ぶアリ |
ある本に「・・タチツボスミレのタネからエライオソームを外しタネだけにしたり、エライオソームだけにしてみると、エライオソームつきのタネがいちばん好まれる・・・アリはごちそう(エライオソーム)だけをさらってはいかない・・」というようなことが書かれてありました。
はたしてその通りなのか、エライオソームが大きくて多量にあるフラサバソウの種子で試してみました。
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図6 エライオソームを外した実験 | 図7 エライオソームを外し紙にのせる |
地面に置くとすぐにアリが来て、1番にエライオソームをつけた紙を運びました。 (図6) その後、アリはエライオソームを外した種子も、正常な種子も、エライオソームをつけた紙も、ばらばらな順番ですべて運んでいきました。 (図8〜10)
途中で、エライオソームが紙からはずれたものがありましたが、はずれたエライオソームも運んでいきました。
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図8 正常な種子を運ぶアリ | 図9 エライオソームを外した種子を運ぶ | 図10 エライオソームをつけた紙を運ぶ |
意外だったのは、エライオソームを外した種子が運ばれたことです。 おそらく、エライオソームの匂いや成分が種子に残っていたのではないかと考えられます。
いずれにしても、今回のフラサバソウの実験では、エライオソームつきの種子が1番好まれることはありませんでした。 またエライオソームを種子から分離しても、アリはエライオソームを運んでゆくことがわかりました。 次は、もう少し定量的に実験してみたいと思っています。 またスミレの仲間や他のエライオソームをつけている種子でも確かめてみたいと思います。
(2007.4. ’08 4.20)
【 参考文献 】
・三浦 励一 2006 「在来イヌノフグリ覚え書き」 植調 Vol.40,No.8
・清水 建美 編 2003 「日本の帰化植物」 平凡社
・佐竹 義輔・大井次三郎・北村 四郎 2002. 「日本の野生植物・草木V」 平凡社
・清水 建美 2001 「図説植物用語事典」 八坂書房
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