サクラソウ属 異形花柱花
Primula malacoides P.sieboldii

サクラソウ属の花は異形花柱花としてよく知られています。 この花のつくりを以前から観察してみたいと思っていました。 しかし、野生のサクラソウは今や絶滅危惧種(絶滅危惧U類)とされている希少種となっています。 (図1)

そこで、この時期に花屋さんの店先に並んでいる、園芸種のプリムラ(※Primula malacoides)の花も同じつくりだろうと考えて、観察してみることにしました。

※Primula malacoides(プリムラ・マラコイデス)は、中国原産の自生種を改良した1年草で、早春の鉢物として生産されています。
 

図1  野生のサクラソウ (Primula sieboldii) 図2  園芸種のプリムラ (Primula malacoides)


近くの園芸ホームセンターに並んでいる、園芸種のプリムラから、長花柱花と短花柱花を選び出そうとしましたが、どちらか一方の花ばかり並んでいて、だいぶ探しました。 ようやく長花柱花と短花柱花を選び出し、赤紫色のものと、白色を5株購入しました、1株68円で合計340円でした。 (図2)

 1.長花柱花と短花柱花

サクラソウの花は、花柱が長くて柱頭が虫ピンのように見えるピン型(pin type)=長花柱花 (図3)と、花冠から雄しべの葯が見えるスラム型(thrum type)=短花柱花 (図4) の2型があります。 

図3  野生のサクラソウ ピン型=長花柱花 図4  野生のサクラソウ スラム型=短花柱花

野生のサクラソウは花冠の色が淡く、花冠筒口が白くなっていますが、園芸種のプリムラは、花冠の色が濃く、花冠筒口は中心が黄色で縁が白くなっています。  長花柱花と短花柱花であることは、園芸種のプリムラも同じです。 (図5・6)

図5 園芸種のプリムラ ピン型=長花柱花 図6  園芸種のプリムラ スラム型=短花柱花


野生のサクラソウの断面を見るわけにはいきませんので、ここからは園芸種のプリムラの花のつくりを観察していきます。 

長花柱花の柱頭は長くて、短花柱花の葯とほぼ同じ高さにあります。 長花柱花の葯の位置は低くて、短花柱花の柱頭とほぼ同じ高さにあります。  受粉は、違うタイプの花でのみ成立し、同じタイプの花同士では有効な受粉が成立しないそうです。 (図7 緑色の矢印)

図7  園芸種プリムラの長花柱花と短花柱花  (緑色矢印が有効な受粉)

サクラソウのような花を異形花柱花と呼び、昆虫を利用して有効に送粉を行うために進化した適応といえます。



 2.柱頭の形状

長花柱花と短花柱花は、柱頭と葯の高さの違いだけでなく、柱頭の形状にも違いが見られます。 長花柱花では柱頭の突起が長く、短花柱花の柱頭では突起が短いという違いが見られます。 (図8・9)

図8  長花柱花の柱頭 突起が長い 図9  短花柱花の柱頭 突起が短い



 3.花粉の大きさ

さらに花粉の大きさも違っています。 長花柱花の花粉はやや小型で、短花柱花の花粉はやや大型です。 この園芸品種のプリムラの花粉では、長花柱花の花粉は長径が10〜15μm、短花柱花の花粉は長径が20〜25μmほどありました。  (図10・11) 

図10  長花柱花 小型の花粉 図11  短花柱花 大型の花粉



 4.等花柱花 (同長花)

サクラソウ(園芸種プリムラ)は、ほとんどの花が長花柱花と短花柱花なのですが、中には長花柱花でも短花柱花でもない花があります。 正面から見ると、柱頭と葯が同じ高さに見える等花柱花 (同長花)です。 (図14)

図12 長花柱花 図13 短花柱花 図14  等花柱花 (柱頭と葯が同じ高さに見える)

等花柱花の断面のようすを見てみますと、柱頭と葯がほぼ同じ高さにあって、自家受粉できるようになっています。 (図15)  顕微鏡で柱頭のようすを確認したところ、花粉がすでに着いていて、花粉管を伸ばしていました。  (図16)
つまりサクラソウは、昆虫にたよる花だけではなく、自家受粉で種子をつくってしまう花もちゃんと準備しているということです。

図15  等花柱花 (断面のようす) 図16  等花柱花の花粉と花粉管

この等花柱花は、「サクラソウの目」(1998)によりますと、頻度にして1%にも満たないほどの低頻度で存在すると書かれてありますが、九州大分県の調査 「サクラソウの遺伝的多様性の保持に必要な保護地の面積」(1998)では、調査した1530株のうち15%もが等花柱花であると報告されています。

異花柱花でのリスクは、違うタイプの花の花粉が受粉されない場合があることですが、長花柱花や短花柱花が自家受粉した場合でも、低い%で種子ができることが確認されています。 また野生のサクラソウは種子のみではなく栄養繁殖でも繁殖しています。 さらに等花柱花という第3の花までも咲かせて種子をつくったりと、さまざまな手段で子孫を残す方法を供えているようです。

                                                        (2009.2.18)


 【 参考文献 】
   ・鳥居 恒夫   1995 「週刊朝日 植物の世界」 朝日新聞社 Vol.61
   ・鷲谷 いづみ  1998 「サクラソウの目」 地人書館
   ・佐々木章・八田準一・長岡壽和  1998 「サクラソウの遺伝的多様性の保持に必要な保護地の面積」 日本造園学会
   ・清水 建美   2001 「図説植物用語事典」 八坂書房

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