シラホシムグラ
(新称) Galium aparine L. |
シラホシムグラはヤエムグラ(Galium spurium L. var.
echinospermon )によく似た帰化植物で、2004年、植村修二氏によってヨーロッパ原産のGalium aparine L.
と同定され、白花をまばらにつける様子からシラホシムグラ(新称)と命名されました。 神奈川・静岡・香川・兵庫・大阪で確認され、すでに日本各地に侵入・定着している可能性が高いと報告されています。 (2004.帰化植物ニュースNo.4)
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この植物は九州にもすでに侵入している可能性があると思いましたので、春からヤエムグラを注意して観察していたところ、2009年5月16日にヤエムグラとはあきらかに様子が違う植物を見つけました。 おそらくシラホシムグラであろうと思われます。 新しい帰化植物ですので、この植物のようすをヤエムグラと比較しながら観察しました。
1.花のようす
花の大きさは直径2〜3mmで、ヤエムグラに比べ一回り大きく、花冠が白色で幅広です。 図1・2は同じ倍率で撮影していますので、ヤエムグラに比べて大きさや花の感じの違いがわかります。 雄しべは4本、柱頭の先は2つに分かれています。 雄しべの奥には花盤があり蜜を出しています。 (図1・2)
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図1 シラホシムグラの花 直径2〜3mm | 図2 ヤエムグラの花 直径1〜2mm |
シラホシムグラの花は小さいのですが、真っ白色でやや大きいため、ヤエムグラの淡緑色の小さな花よりもずっと目立ちます。 (図3) 花にはヒラタアブの仲間がよく訪れ、蜜や花粉を舐めています。 (図4)
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図3 シラホシムグラ 白色の花 | 図4 訪問昆虫 |
シラホシムグラの花は,、このように昆虫による他家受粉を行っていますが、昆虫が訪れなくても花が閉じるときに自家受粉を行っています。 湾曲した雄しべの花糸が、花冠が閉じるに従って柱頭に接近して、見事に受粉を完了させるようです。 (図5・6)
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図5 自家受粉のようす | 図6 しぼんだ花(花を閉じる時に自家受粉も行う) : 未受粉の花 |
2.節の長毛
ヤエムグラとの最もわかりやすい区別点は、茎の節(葉のつく部分)上部の長毛です。 シラホシムグラでは節の上部に、長毛が密生しています。 (図7) 一方、ヤエムグラの節には毛が生えていません。 (図8)
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図7 シラホシムグラ 節に長毛 | 図8 ヤエムグラ 節は無毛 |
拡大してみると、両種には、茎の綾に下向きのトゲ状毛が生えています。 シラホシムグラは節の上部に、透明な長毛が密生しています。 (図9) ヤエムグラでは、下向きのトゲ状毛だけが見られます。 (図10)
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図9 シラホシムグラの節 茎のトゲ状毛と長毛 | 図10 ヤエムグラの節 茎のトゲ状毛のみ |
3.葉の表皮のトゲ状毛
葉のようすもヤエムグラと違っています。 シラホシムグラの葉はやや青緑色で、幅が狭く、細かい毛が多く生えています。 (図11)
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図11 シラホシムグラ 葉は幅が狭く、細い毛が多い |
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図12 シラホシムグラ 葉の表皮の毛 | 図13 葉の表皮の毛 比較 |
4.果実と果柄
シラホシムグラの果実はやや大きく、長径4〜5mmあります。 果柄が長くのびている点も特徴です。 (図14) ヤエムグラの果実は長径3〜4mmとやや小さく、果柄が短いタイプと長いタイプがあるようです。 (図15)
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図14 シラホシムグラ 果実と長い果柄 | 図15 ヤエムグラ 果柄が短いタイプと長いタイプ |
5.花の時期
この場所には、シラホシムグラとヤエムグラが混生しています。 5月17日に同じ場所に咲いている両種を比較すると、シラホシムグラは今がちょうど花期で、植物体は青々としていて、頂部の葉もこれから展開してゆく状態です。 一方ヤエムグラは、すでに花期は終わり果実期に入っています。 植物体も少し枯れてきている状態です。 (図16)
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図16 左:シラホシムグラ 花期 右:ヤエムグラ 果実期 (5月17日) |
1ヶ月後の様子です。 左のシラホシムグラは果実期初期でまだ青々としていますが、右のヤエムグラはすっかり枯れています。 (図17)
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図17 左:シラホシムグラ 果実期 右:ヤエムグラ 枯れている (6月15日) |
この2種は、花期が1ヶ月ほどずれているようです。 ただ、シラホシムグラには、開花の早いタイプと、6月になってから咲く開花の遅いタイプがあるそうですので、今回見つけた株がどちらなのかは、今後も観察を続けてみないとわかりません。
6.帰化状況
今回確認した福岡県北九州市のこの場所は荒れ地で、シラホシムグラが大繁茂しており、植物体の高さは1mを超すほどに成長していて驚きました。 (図18・19)
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図18 荒れ地にシラホシムグラが大繁茂 | 図19 植物体は1mを超す (上の赤マークが1m) |
また、道路脇にも長い距離にわたって繁茂し、石垣やフェンスなどにもはい上がり、こちらも1m以上成長しているのが見られました。 (図20・21)
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図20 道路脇に繁茂するシラホシムグラ | 図21 フェンスにはい上るシラホシムグラ (赤マークは1m) |
これらの繁殖状況から、シラホシムグラはここ数年でこの場所に帰化したのではなく、かなり以前から入り込んでいたのではないかと思われました。
シラホシムグラはヤエムグラよりもかなり大型で、繁殖力が旺盛な感じですが、シラホシムグラは気をつけて見ないとヤエムグラにそっくりなので、今まで見逃されてきたのではないでしょうか。
今年の4月に、東京の山口純一氏がHPで新帰化植物 シラホシムグラをアップされました。 山口氏の記載によりますと本種の分布は、前述の神奈川、静岡、大阪、兵庫、香川(〜2004)、その後では、千葉(2008)、埼玉(2009/4/15)、東京(2009/4/26)、と関東地方からの報告がされています。 今回、福岡県 北九州市(2009/5/16)で生育を確認しましたが、新しい帰化種ですので全国的な分布状況はまだ良くわかっていないようです。 おそらく全国的にもかなり広がっているのではないかと思えます。 今後の報告が待たれるところです。
(2009.5.23)
******** 追 記 (09.6.16) *************************************
新たにシラホシムグラ分布情報を頂きました
和歌山(09.5.24Nawshicaさん)・和歌山(02.03資料にて確認 k氏)・新潟(09.5)・茨城(09.5.28 おーばさん)
宮城(09.6.14 volさん)・京都(09.6.16 nabeさん)
【 参考文献 】
・植村 修二・水田 光雄・藤平 明 2004 「日本に帰化したシラホシムグラ(新称)
」帰化植物写真ニュース4. 全農協
・山口 純一 HP 2009 「日本の野生植物検索表」 トピック・・・新帰化植物 シラホシムグラ
・佐竹 義輔・大井次三郎・北村 四郎 2002 「日本の野生植物・草木V合弁花類」 52-53
平凡社
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