ツボミオオバコの不稔花・稔性花
Plantago virginica 


ツボミオオバコは、北アメリカ原産の帰化植物で、本州〜九州に分布するようです。 ツボミオオバコの花は、多くは花冠を開くことなく、始終直立した(つぼんだ)ままの花だというところから、この名がつきました。 (写真 1・2)

写真 1 ツボミオオバコ 写真 2 ツボミオオバコは、多くはつぼんだままの花


 1.つぼんだままの花
   ※「原色日本帰化植物図鑑」「日本の帰化植物」ともに閉鎖花と書かれていませんので、“つぼんだままの花”としました。

つぼんだままの花(以下 つぼんだ花)は、雌しべが隠れたままの花もありますが、中には雌しべの柱頭を、花冠の外に出しているものも観察されます。 (写真 3)  完全に自家受粉だけをすると思っていましたが、そんなに単純ではないようです。 ほとんどの花が、雄しべを花冠から外へ出さず、花粉を外へ散布しないにもかかわらず、ちゃんと他家受粉できる準備をしています。 植物の持つ用意周到なしくみには、驚かされます。   

1つのつぼんだ花を開くと、4枚の半透明の花冠の中に、雌しべと、極端に小さな4本の雄しべが見られます。 雌しべの柱頭はとても大きくて立派なつくりです。 これなら他家受粉も自家受粉も両方できそうです。 (写真 4)

写真 3 雌しべの柱頭を、花冠の外に少し出す 写真 4 花のつくり 柱頭と小さな雄しべ

このつぼんだ花は、大きな花冠をもち、花柱を外に出して他家受粉も行うことなどから、やはり閉鎖花ではないようです。


 2.花冠を平開する花

   ※閉鎖花ではないので、こちらも開放花とせずに、”花冠を平開する花”としました。

多くがつぼんだ花をつけるツボミオオバコですが、花冠を平開する花(以下 開く花)を咲かせることもあります。 開く花は、雄しべの葯がはっきりみえますので、遠くからでも1目でわかります。 (写真 5)  環境的なものか、遺伝的なものかよくわかりませんが、咲くところには、そのあたりのほとんどが開く花だという場所もあります。

写真 5 つぼんだままの花と 花冠を平開する花


 (説明のために画像を横向きにしてみました。) 
ツボミオオバコは、花序の下から花を咲かせます。 雌しべ先熟で、まず雌しべが熟し、つぼんだ花冠の先端部の隙間から柱頭を出します。(雌性期)  しだいに柱頭は枯れてゆき、その後花冠が開き、雄しべが花粉を出します。(雄性期) 

雄しべが花序の下側に位置することや、雌性期と雄性期の間に、“雌しべの柱頭が枯れている部分”が見られることは、自分の花粉がなるべく自分の雌しべに着かないように、自家受粉を避ける巧妙なしくみなのでしょう。 (写真 6)

写真 6 雌しべ先熟、上部は雌性期(柱頭が見える)、下部は雄性期(花冠が開き、紫色の葯がみられる)


オオバコも同じような花の咲き方をしますが、「知るほどに楽しい植物観察図鑑」(本多郁夫 著)には、雌性期と雄性期と両性期が見られるオオバコが紹介されています。 同じ内容がHPでも紹介されています(ここをクリック)ぜひご覧になって下さい。 

同じ属のツボミオオバコでも、もう少し多くの花を観察すれば、“両性期”が見られる花があると考えられます。 残念ながら、今年の花は終わりましたので、また来年、花が咲くのを楽しみに待つことにします。


1つの開く花には雄しべが4本あります。 雄しべの花糸は、とても長くて、花冠のなかでクルリと折りたたまれています。 (写真 7−1) 葯が根元からはずれ、徐々に前に出てきました。 雄しべの葯は紫色をしていて、真っ白い花粉を出します。 開く花では、葯の花糸は斜め上方にピンと突きだして、紫色の葯と裂開部の縁の白色がとても綺麗です。 (写真 7−2〜4)

写真 7ー1 花冠の中に折りたたまれている花糸 写真 7ー2 雄しべの伸び始め
写真 7ー3 葯が裂開して、白い花粉を出す 写真 7ー4 開く花の雄しべのようす



 3.「不稔花」、「不稔の開放花」という記述について

この開く花に関して、「日本の帰化植物」(平凡社)では、次のような記述があります。
「花冠裂片は・・・不稔花では平開、稔性花では筒部より長くて直立し・・・」、 「神奈川県植物誌2001は、神奈川県産標本の1割弱が不稔の開放花をつけると報告した。」

つまり、“開く花には、種子ができない”ということが書かれています。  しかし、この場所に咲くツボミオオバコは、つぼんだままの花にも、開く花にも、どちらにもちゃんと種子ができています。 (写真 8・9)

写真 8 稔性花と不稔花と書かれているが 写真 9 どちらにも種子ができている


それも、稀に種子ができているのではありません。 この場所に咲く開く花を30株ほど調べてみましたが、すべての株に、種子がちゃんとできていました。 ということは、ここに咲く開く花は“不稔花ではない”ということです。 (写真 10・11)  

写真 10 開く花は、不稔花といわれているが  写真 11 種子ができる開く花もある


この場所にはかなりの数の開く花が咲いていますが、ほとんど(すべてかもしれません)種子ができているように思われます。  ツボミオオバコの開く花には、どうやら、種子をつくらない不稔花と、種子をつくる稔性花があるようです。

他の地域では、ツボミオオバコの開く花は、やはり種子をつくらない不稔花なのでしょうか? あるいは種子をつくる稔性花でしょうか? 
                                                                           (08.5.28)

 【 参考文献 】
   ・長田 武正       1976 「原色日本帰化植物図鑑」 保育社
   ・清水 建美 編    2003 「日本の帰化植物」 平凡社
   ・本多 郁夫       2007 「知るほどに楽しい植物観察図鑑」 橋本確文堂




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