ツリフネソウ 花のつくり
Impatiens textori

 1.花のつくり

ツリフネソウの花はとても特徴がある形をしていますが、どの部分がどうなっているのかよく分かりませんでしたので花のつくりを観察してみました。 
最も目立つ大きな袋状は下萼片で、先端にクルリと巻いた距があります。 萼片は上部にも2個あり、あわせて3個あります。 (図1・2) 

図1 ツリフネソウの花 図2 花のつくり

花弁は5個ありますが、側方の2個は合着するので3個のように見えます。 

2つの花弁が合着した側花片をよく見ますと、くびれたあたりにトゲトゲの着いた小花弁がみられます。 ちょうどイカの足のような形をしています。 この小花弁が合着したもう一方の花弁です。 (図3・4)

図3 イカの足のような形の小花弁* 図4 合着した2枚の花弁

*2005年に新種として報告されたワタラセツリフネソウは、この小花弁の形態がツリフネソウとの区別点の1つになっています。


ツリフネソウの下萼片は、大きく袋状になっていてクルリと巻いた距には蜜が分泌されています。 (図7・8)  この下萼片はマルハナバチが潜り込むのに最適なサイズにできています。 送粉昆虫のマルハナバチに合わせて花の形態が進化した結果だそうです。

図7 ツリフネソウを訪れるトラマルハナバチ 図8 蜜が分泌している距


一般にインパチェンスとして知られている園芸種のアフリカホウセンカ( Impatiens walleriana cv.)は、側花弁が基部で合着するだけなので、5枚の花弁があるように見えます。  (図5・6)

図5 アフリカホウセンカ( Impatiens walleriana )の花 図6  アフリカホウセンカ 花のつくり

アフリカホウセンカでは花弁が大きくて、下萼片は側萼片に隠れて正面からは見えません。 また下萼片の距はまっすぐに伸びています。 花にはホウジャクがよく訪れて花の正面から長い口吻を差し込んで蜜を吸っています。 

ツリフネソウとアフリカホウセンカは同じツリフネソウ属で基本的なつくりは同じなのですが、花の形態はかなり違っています、これは送粉昆虫の分布や進化とも深い関係があるそうです。
 

 2.雄性期から雌性期へ

ツリフネソウの仲間は、花の咲き始めは雄性期で、後に雌性期に変化します。 雄しべが花粉を出し終わる頃に丸ごとポロリとはずれて、雌しべが現れる仕組みになっています。 図9はハガクレツリフネの雄性期と雌性期の花、図10はキツリフネの雌性期の花です。 

図9 ハガクレツリフネ 雄性期の花と雌性期の花 図10 キツリフネ 雌性期の花

 
性転換はツリフネソウ属の園芸種でも見られます。 アフリカホウセンカ(図11)や源平ツリフネ(図12)も花は雄性期から雌性期へと変化していきます。

図11 アフリカホウセンカ 上:雄性期 下:雌性期 図12 源平ツリフネ* 左:雄性期  右:雌性期

* 図12 源平ツリフネの画像は、「はるなつあきふゆ夕菅の庭」さんのご厚意で使わせて頂きました。



 2.雄性期から両性期へ

ところがツリフネソウでは、雄性期の後、合着した雄しべの真ん中から雌しべの柱頭が現れてきて、花は雄性期から両性期へと変化します。雄しべは落下せずにそのまま残ったままです。  (図13・14)

図13 ツリフネソウ 雄性期 図14 ツリフネソウ 両性期


その後も雄しべは落下せず花が枯れて落ちるまでずっと元の位置にあります。 枯れて落ちてしまった花を見てみますと、すべて雄しべは元の位置に着いた状態でした。 (図15・16)

図15 枯れてきた花 図16 落下した花 雄しべは元の位置に着いたまま


ツリフネソウの雄性期と両性期をもう少し詳しく観察してみました。 雄しべは5本ありますがお互いに合着して柱頭を囲んでいます。 花粉は白くて極細い糸のようなもので繋がっています。 おそらく訪問昆虫に絡まりやすくできているのでしょう。 (図17・18)

図17 雄しべは5本 お互いに合着して柱頭を囲んでいる 図18 極細い糸のようなもので繋がっている花粉


花粉まみれになっている雄性期の柱頭を顕微鏡でみますと、花粉は柱頭にはくっついておらず、未受粉の状態でした。 まだ柱頭は未熟の状態です。 (図19・20)

図19 花粉まみれになっている雄性期の柱頭 図20 花粉は柱頭には着いておらず、未受粉の状態


両性期になると雄しべから突きだした柱頭は粘液で覆われていて、たくさんの花粉が付着し、花粉管を出しているものも確認できました。 (図21・22)

 図21 両性期の柱頭  図22 粘液で覆われた柱頭



                                                                     (09.10.22)

 【 参考文献 】
   ・佐竹 義輔・大井次三郎・北村 四郎 2002 「日本の野生植物・草木U」 p.235-236 平凡社
   ・秋山 忍     1994 「週刊朝日 植物の世界」 3-146  Vol.29 朝日新聞社 


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