ヤノネボンテンカの閉鎖花
Pavonia
hastata |
ヤノネボンテンカは南アメリカ原産の帰化植物で、タカサゴフヨウとも呼ばれ観賞用に栽培されたりしています。 葉は矛形から矢じり形で、和名は、ボンテンカに似た矢じり状の葉をもつことに由来するそうです。 (週刊朝日 植物の世界より)
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ヤノネボンテンカ Pavonia
hastata |
1.動く雌しべ
ヤノネボンテンカの花はフヨウの花よりも小振りで、直径5〜7cmほど、早朝に開いて夕方には閉じてしまいます。 花を観察していましたら面白いことに気がつきました。 この花はなんと1日かけて雌しべが動いています。(図1-1〜5)
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図1-1 9:09 真っ直ぐな花柱 |
図1-2 11:58 先が開き初める |
図1-3 12:53 ねじれながら開く |
花が開いたときは、雌しべの花柱は真っ直ぐですが、お昼頃から先が開き初め、ねじれながら自分の雄しべの方に向かって動いていきます。
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図1-4 14:24 雄しべの方に向く |
図1-5 15:30 自家受粉できる位置までくる |
15:30頃には、雌しべの柱頭は花粉近くまで曲がり、自家受粉できる位置まで達しました。 (図1-5) この後、夕方になると5枚の白い花弁は閉じてしまいます。 (図2)
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図2 夕方になると花弁は閉じる |
図3 閉じた花の中の雌しべ |
図4 自家受粉のようす |
閉じた花の中を開いてみると、雌しべの柱頭には花粉が着いて自家受粉していました。 (図3・4)
ヤノネボンテンカの花は、日中は開花して昆虫を誘い他家受粉を目指しますが、昆虫が訪れなくても雌しべが動いて、夕方には自家受粉をして種子を作ってしまうという巧妙なしくみを持っているようです。
2.2種類の果実
ヤノネボンテンカの果実には、普通5個の種子ができます。 果実が熟すと萼片が開いて種子が姿を現します。 その果実には、5個の種子がちゃんと見えるものと(図5)、種子の真ん中に枯れた小さな丸いものがある果実が見られます。 (図6)
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図5 5個の種子がちゃんと見えるもの |
図6 枯れた丸いものがあるもの |
図6にみられる種子の真ん中にある枯れた丸いものは、いったい何なのでしょうか?
ヤノネボンテンカは1日花で、花は夕方になると閉じます。 閉じた翌日にはつぼまった花がポロリと落下します。 観察してみますと、花を咲かせるつぼみの外に、丸みのある果実で、花を咲かせずにつぼみのままの状態のものが見られます。 (図7)
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図7 花後の果実と丸みのある果実 |
図8 それぞれの果実の萼片を切り取ったもの |
花が落ちたものと、花を咲かせずにつぼみのままの状態のもの、それぞれの果実の萼片を切り取って中を見てみました。 花が落ちてすぐの果実は、種子は小さく、花が落ちた後の空間が大部分をしめています。 一方丸みのある果実では、種子がすでに大きく成長していて、上部には何か枯れたものが乗っています。 (図8)
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図9 閉鎖花が枯れたもの |
この枯れたものを詳しく見てみますと、小さな5枚の花弁のようなものに包まれていて、中には下方に伸びた雌しべの花柱と花粉らしきものが見られました。 つまり、小さな花が枯れた後だということです。
図6の種子の真ん中にあった小さな丸いものは、おそらく閉鎖花が枯れたものではないかと考えられます。 (図9)
3.ヤノネボンテンカの閉鎖花
ヤノネボンテンカはどうやら普通の花(開放花)と、閉鎖花をつけるようです。 そこで閉鎖花を探してみました。 (図10) 萼がつぼんでいる状態(閉鎖花)の萼片を切り取ってみますと、赤っぽい花弁が現れます。 その花弁はしっかりと閉じています。 (図11)
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図15 開放花のつぼみと閉鎖花 |
ヤノネボンテンカは、花を咲かせて他家受粉する方法と、雌しべが動いて自家受粉をする方法と、閉鎖花でも種子を作る方法という3重のしくみを持っている花だったのですね。
(2009.7.30)
【 参考文献 】
・土橋 豊 1995 「週刊朝日 植物の世界」
7-83 Vol.75 朝日新聞社
・清水 建美 編 2003 「日本の帰化植物」p.139 平凡社