世銀:農業科学のリスクと機会を探る国際協議プロセスを始動

農業情報研究所(WAPIC)

02.8.31

 世界銀行は、持続可能な発展に関する世界サミット(WSSD)で、飢餓を減らし、農村の暮らしを改善するための農業科学利用のリスクと機会に関する新たな国際的協議プロセスが6月29日に開始されたと発表した(Global Consultative Process Launched on Agricultural Science,8.29)。

 発表によれば、このプロセスは、消費者・農業者・科学者・NGO・政府・民間部門の意見を交換し、政策決定者が困難な諸問題に答えるために必要とする手段と情報を与える農業科学に関する国際的評価を生み出そうとするものである。米国政府とエクソンの圧力で退任を余儀なくされたといわれる前国連気候変動国際パネル(IPCC)議長・現世銀主任科学者のロバート・ワトソンほか計5名が共同議長を勤める。

 これは生産性と環境管理の両面にかかわる。農業科学の適用は、一方では農業者の生産性向上への寄与に関して完全に評価される必要があるが、同様に環境・社会のリスク、倫理的問題も評価されねばならないという。このプロセスは、有機農業、伝統的な植物育種技術、新たな農業技術、バイオテクノロジーのような広範な問題のリスクと機会を探ることになる。

 この評価は、切迫した問題で政策形成者を導くために有効であると立証された気候変動やオゾン層に関する類似の評価をモデルとする。ワトソン氏は、気候変動、生物多様性、オゾン層に関する国際的評価を主宰した彼の経験からして、あらゆる意見が聴取される「プロフェショナルな」評価の実現が可能と信じる、「そのような合意は、包括的で透明なときにのみ機能する。広範なパートナーとの議論という困難な挑戦を敬遠してはならない」と言う。

 このプロセスにおいて最も論争的な問題はバイオテクノロジーの位置付けであろう。これをめぐっては、米欧が激しく角を突き合わせているし、途上国もその採用の便益とリスクをめぐって割れている。しかし、ワトソン氏は、「ファイナンシャル・タイムズ」紙に対し、将来あり得る農業は有機農業・伝統的農業・バイオテクノロジー利用農業の混合であり、「すべての技術の科学的・経済的・社会的側面の評価を望む」と語っている(Bid to break deadlock over GM food,FT com,8.28)。同紙によると、彼は、増加する世界人口を養う必要性から農村経済の強化に至る将来の農業が直面するあらゆる問題、バイオテクノロジー批判者が巨大企業の容認できない独占的支配をもたらすかもしれないと言う知的所有権制度も検討することになるが、それが遺伝子組み換え(GM)作物の商品化のモラトリアムにつながることはないであろうと言う。ただし、彼は、産業や米国政府が世銀の調査結果を商業的圧力で踏み潰すのは間違いだと警告したいう。

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