”クレージー”、天井知らずの小麦価格高騰 来年は食料危機に接近とアナリスト

農業情報研究所(WAPIC)

07.9.5

  小麦価格の上昇がとどまるところを知らない。シカゴ市場でもパリ市場でも先週末に記録を更新したばかりだが、週明けにはこの記録がさらに大幅に更新された。

 シカゴの9月契約相場は一気に44セントも上げ、1ブッシェルあたり8.11ドルに達した。これは、オーストラリアの干ばつによる大減収の予測で上昇が始まった昨年秋以前のレベルを2倍以上上も回る。

 他方、パリ市場の製粉小麦先物11月相場も、先週末のトンあたり257€から一気に285€にまで跳ね上がった。今年4月から5月にかけては150€前後だったから、それに比べて倍近い上昇だ。7月半ばには190€ほどだったから、この1ヵ月半で100€近くも上げたことになる。

 どちらも、特にこの10日ほどは常軌を逸した価格上昇だ。

  

 カナダの干ばつによる減収予測、インドなどの新たな輸入がその引き金となったが、今週のさらなる上昇は、ロシアが輸出規制に走るという観測に加え(ロシア政府 小麦輸出禁止を考える 国内パン価格高騰とインフレ昂進を恐れる,07.9.3)、オーストラリアの干ばつ被害が予想外に深刻で、今年の収量も公式予測を大きく下回るという見通しが一層確実性を帯びてきたことによるという。

 Wheat breaks records on both sides of Atlantic,FT.com,9.4

 上記報道によると、オーストラリア・コモンウェルス・バンクの商品戦略家・トビー・ゴーレイ氏は、”我々はどこまで上がるか分からないと言うしかない。小麦市場における現在の取引は価格や本源的価値に関係ない。誰も売ろうと思っておらず、取引ごとに価格は上がる。1ブッシェル8ドルの小麦は’リディキュラス’だろうが、価格が’アブサード’、あるいは’クレージー’なレベルにまで上がることができない理由はない”と言う。

 この小麦価格上昇で、小麦を飼料としてきた畜産農家は別の安い飼料に切り替えることになろう。従って、小麦や大豆を犠牲に作付けが大幅に拡大、大増産が見込まれことからこのところ落ち着いていたトウモロコシのシカゴ先物相場も先週末の3.24ドル/ブッシェルから9月4日には3.37ドル/ブッシェルに戻した。大豆は8.687ドル/ブッシェルから8.93ドル/ブッシェルへと一層大きく伸び、06年平均と比べる50%以上の上昇だ。

 この背景には、既に何回か述べてきたように、主要生産国の生産低迷と東アジアを除く世界全域での消費の増加によって、在庫が70年代末以来の極端な低レベルに落ち込んでいることにある。

 

 しかし、消費は増え続ける一方、増産への大きな期待は持てない。最大の生産国・中国では国内消費が減少しており、農民の増産意欲が湧かない。第二の生産国・インドは、増産よりも輸入の方が安上がりと、大量輸入に踏み切った。第三の生産国・米国は、より将来性が見込めるトウモロコシや大豆への転換で作付面積を大きく減らしてきた。オーストラリアは干ばつの頻発と慢性的水不足に悩まされている。フランスも耕地や生産性の伸びの制約から大幅増産はあり得ないし、干ばつも 常襲化する傾向がある。ロシアとウクライナの生産は天候次第だ。

 上記FT紙によると、ハンブルグの油料種子コンサルタント・オイルワールドのアナリストは、”農産物の利用が抑制されるか、理想的な天候条件と作物収量の急増が実現されるのでないかぎり、2008年には世界は食料危機に近づく”と言う。

 わが国農水省は、輸入価格上昇に耐えかねて、輸入麦の政府売り渡し価格の引き上げに踏み切った(輸入麦の平成19年10月からの売渡価格について、07.8.24)。食品価格に多少の影響はあるとしても、恐れるほどの影響はないと見ている。しかし、”クレージー”な価格高騰は、この発表の後に始まった。さらなる値上げを迫られる可能性が高い。パンや麺類の価格の大幅引き上げは避けれらないかもしれない。