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欧州委、農業起原水質汚染で英仏に法的措置

農業情報研究所(WAPIC)

03.4.7

 4月4日、欧州委員会は、フランスとイギリスに対するEU水質法に関する法的措置を取ったと発表した(Commission pursues legal action against France and the United Kingdom over EU water laws)。EU水質法に関する欧州裁判所の判決の遵守を求める「理由書付き意見書(reasoned opinion)」を両国政府に送付したものである。この意見書送付は、欧州委員会がEU構成国に対して取り得る初期段階の法的措置の一つで、EC条約第228条に基づく。構成国がその法的要請に満足に応えていないと判断したときに、法的措置の理由を詳細に述べ、期限を特定して問題の解消を要求するものである。構成国が期限内に問題を解決しない場合には、欧州委員会は、当該構成国に罰金を科すことを求めて、欧州裁判所に提訴できる。

 フランスについて

 欧州裁判所は、2001年3月8日、ブルターニュの飲料水と使用される地表水の硝酸塩濃度が、このような地表水の水質保護のための1975年EEC地表水指令(75/440)が要求する1リットル中50rの限界を守るのに失敗していると判決した。裁判所は、フランス政府が取った措置は、汚染防止行動計画として整合性を欠いていることも批判した。さらに、裁判所は、この水が何故利用されるかについて欧州委員会に説明することなく、基準を満たさない水を飲料水として利用したと裁決した。

 欧州委員会によれば、硝酸塩濃度はなお基準を超えており、上昇さえしており、有効な措置を定める適切な行動計画が未だに設けられていない。欧州委員会は、そのために意見書を送付したと言い、フランスが遵守を怠れば、再び欧州裁判所に提訴、罰金を科すことを要請すると言う。

 地表水指令は水質基準を定め、構成国に対して、すべての水についての総合的・整合な行動計画の策定を要求しているおり、指令発効後12年以内に汚染度低下を促進することを目指している。フランス政府は、集約的畜産が集中し、高度の硝酸塩汚染が進むブルターニュについて、90年代初めに「農業起原汚染制御計画」を始動させ、現在までに大量の財政資金を注ぎ込んで畜舎改善、糞尿処理施設建設などの汚染防止に取り組んできた。しかし、家畜頭数削減はブルターニュでは「タブー」であり、度々の相場崩壊の危機も、逆に飼養頭数の増加で乗り切ろうとしてきた。そのために、汚染は一向に減らず、昨年2月、フランス会計検査院は、むしろ水質は悪化していると報告した。そのために、政府は、改めて廃水処理場設置、農家の活動停止、頭数制限、有機農業への転換などの助成計画を策定した。しかし、これに対しても、環境・有機農業・消費者団体は、予算の最大部分は糞尿処理に関連そたもので、工業的農業継続を認めるものと批判している。農民は、頭数削減にはなお強く抵抗している。ブルターニュの工場畜産は、今回のEUの措置で、まさに正念場に立たされる。

 イギリスについて

 2000年12月7日、欧州裁判所は、イギリスが、1991年の硝酸塩指令(91/676/EEC)に従って硝酸塩汚染水を確認し、硝酸塩危急区域を指定するのを怠っていると批判した。その上、イギリスは、飲料水として利用されない硝酸塩汚染地下水・地表水を放置した。従って、指令の下で浄化事業に対象とされた区域は、容認し難いほどに限定されている。

 欧州委員会によれば、この判決以後、イギリスはイングランド、ウエールズ、スコットランド、北アイルランドでさらなる区域を認定、汚染区域に指定してきた。しかし、イングランド、ウエールズ、スコットランドの区域認定はなお不十分である。そのために、意見書を送付、イギリスが対応を怠れば、やはり欧州裁判所に提訴、罰金を科すことを要請すると言う。

 1991年EU指令は、イギリスでは完全には実施されておらず、僅か8%の農地が対策の取られる「センシティブ」な区域に指定されているにすぎない。そのために、欧州委員会により欧州裁判所に提訴され、政府は、昨年、漸く硝酸塩排出の削減に向けて腰を上げた。EU指令の要求を満たすために、イングランドの100%をカバーするか、海に近い一部地域に規制逃れを許す80%をカバーする計画が提案されていた。

 環境当局や環境保護団体は100%案を支持したが、農民団体はコストの高さを理由にこれに反対してきた。2001年12月、最大の農民運動団体・全国農民同盟(NFU)は、「硝酸塩危急区域」を現在の8%から一気に80%から100%に拡大する政府計画は、農民に深刻な実践上・財政上の問題を引き起こすと反対を表明(NFU - Press ReleasesNITRATES PROPOSALS WILL CREATE SERIOUS PROBLEMS FOR FARMERS,01.12.20)、強力なロビー活動を続けてきた。イギリス環境・食糧・農村問題省(DEFRA)の昨年6月の発表では、計画はイングランドの55%、スコットランドの13%、ウエールズの3%をカバーするにすぎないところまで後退した。それでもEUの規制をクリアするには十分だとしている。DEFRAは、これは農民の圧力に屈したのではなく、BSE、口蹄疫、非常な農業所得低下によって打撃を受けている農民に追加コストを強いるときではないと言っている(Nitrates - Reducing Water Pollution from Agriculture,02.6.27)。欧州委員会は、こうしたイギリスの言い分を退けたことになる。イギリスも、この問題で正念場に立たされることになった。

 なお、硝酸塩指令は肥料や農業廃棄物による地表水や地下水の硝酸塩レベルの上昇を防止することを目指すものである。過剰な硝酸塩は水域生態系の悪化と有害な藻類過剰繁殖を招く要因となる。また人間の健康への悪影響も疑われている。指令は、EU構成国が地表水・地下水の監視を行い、1993年12月までに危急地域(硝酸塩汚染水域を含む集約農業地域)を指定するように要求している。