EU新規加盟国は農業の環境影響を抑える措置が必要―欧州環境庁

農業情報研究所(WAPIC)

04.4.30

 5月1日、新たに10ヵ国を加えた拡大EUが発足する。この拡大を直後に控えた28日、欧州環境庁(EEA)が、新にEUに加盟する国々、あるいは今後の加盟志願国は、加盟後に生じ得る農業の環境圧力増大を最小限に抑える農村開発措置に中心的役割を与えねばならないという報告書を発表した(⇒Agriculture and the environment in the EU accession countries:Implication of applying the EU common agricultural policy,environmental issue report No.37)。この報告は、5月1日に新たにEUに加わる中東欧10ヵ国(*)と地中海3ヵ国(**)の計13ヵ国の農業と環境の関係を洞察、重要な政策課題を提示したものである。

 報告によれば、これら諸国の多くの利用農地面積は国土総面積の40%から60%を占め、現EU15ヵ国平均の40%を上回り、農業は環境を形成するうえで非常に重要な役割を果たしている。そして、現在の農業システムは、現EU諸国に比べれば低投入で、生産性は低く、動植物種も多様性に富む。また、多くは、自然的価値の高い広大な農地(半自然草地、放牧地、ステップ、高地放牧場など)を持つ(下表)。

中東欧10ヵ国の推定草地面積(98年、1000ha) 

  総農地面積 永年草地 半自然草地 山岳草地
スロベニア

500

298

268

30

ルーマニア

14,841

4,936

2,333

285

ハンガリー

6,186

1,147

960

0

チェコ

4,282

950

550

1.8

スロバキア

2,433

856

295

13

ポーランド

18,435

4,034

1,955

414

ブルガリア

6,203

1,705

444

332

エストニア

986

299

73

0

リトアニア

3,496

500

168

0

ラトビア

2,486

606

118

0

 しかし、報告は、これらの国がEUに加盟したのちには、環境を損なう二つの流れが起きるだろうと予想する。

 一つは、生産的地域における収量を増やすための肥料・農薬・機械の利用の増加―農業の集約化、もう一つは野生動物が豊かな生産力の低い限界的地域における農業の放棄の流れである。これら二つの流れを最小限に抑えるために、これら諸国は共通農業政策(CAP)の下で利用可能な環境措置を適切に組み合わせて対処すべきと言う。

 90年代の政治変動と農業改革により、中東欧諸国の農業近代化・集約化の過程は中断されてきた。経済的変化と共通農業政策(CAP)の実施は、多少なりとも耕作地域の集約化と拡大につながると予想される。ただし、養豚・養鶏部門での大幅な生産拡張が予想されるといはいえ、農業生産全体が90年代以前のレベルに復帰することはないと予想される。従って、報告は、全体的には、大気・水汚染は90年のレベルを下回ると見る。耕種部門の集約化も施肥や農薬使用の改善を伴うとすれば、土壌や水資源への悪影響も限定されると見ることができる。ただ、草地、飼料作物地、長期休閑地の耕作地への転換は、特にこれが傾斜地で起きれば、土壌侵食のリスクが増す。報告は、部門全体の生産集約化に関連した環境圧力を最小限にするために、適切な農業環境措置の実施が必要だが、これには相当な行政資源がなくてはならないと警告する。

 報告の最大の関心は半自然草地の保全に向けられている。現在、特にバルト諸国や中央ヨーロッパ山岳地域で、自然的価値の高い草地システムの放棄が進んでおり、これは現在の家畜のレベルが十分な放牧能力を提供していないことを示すものだと言う。EU拡大協定により、牛・羊の頭数拡大への経済的支援が強く制限されている。さらに、集約化と耕地への転換が生産的地域における生物種豊かな草地への重大な脅威となっている。EU加盟(及び加盟前援助)が農業環境計画やその他の農村開発措置のために利用できる財源を増加させることになるだろう。これらの措置の国レベルでの実施と能力構築が、この問題に関してEU拡大を成功に導く基本的要因になると言う。

 * キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロベニア、スロバキア。

 **ブルガリア、ルーマニア、トルコ。

農業情報研究所(WAPIC)

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