オーストラリア 干ばつで家畜飼料用穀物の輸入を計画 世界穀物需給に大きな影響

農業情報研究所(WAPIC)

06.10.28

 オーストラリア農林水産相が27日、干ばつで飼料が足りなくなった家畜を養うために穀物の緊急輸入に踏み切ると発表した。オーストラリア農業資源経済局(ABARE)が27日に発表した2006/07年の冬作物と家畜の生産見通しを受けての発表だ。

 Imported grain issues,08.7.27
 http://www.maff.gov.au/releases/06/06161pm.html

 ABAREは、既に大減収を予測した9月の農業生産見通し(オーストリラリア 干ばつで穀物が大減収 草も枯れて家畜群も崩壊の危機,06.9.20)を更に大幅に切り下げた。

 http://www.abareconomics.com/publications_html/crops/crops_06/cr_drought_06.pdf

 9月の予測では、小麦収穫量は1640万トンだったが、これが955万トンにまで引き下げられた。前年度に比べると61%もの減収になる。大麦も64%、カノーラ(ナタネ)も69%の減収で、小麦・大麦・カノーラを合せた収穫量は1355万トン、最悪の干ばつ年であった2002/03年をに比べても100万トン下回る1994/95年以来の最低レベルになる。

 今年の干ばつは、多くの地域で最悪年だった1982/83年に匹敵する。ニューサウスウェールズ(NSW)の穀作地帯はすべての地域で干ばつが宣言され、多くの地域で収穫皆無が予想される。ビクトリアでは降水不足と厳しい霜害が作物を破壊、南オーストラリアでも多くの地域で減収となる。クィーンズランドでは、中部では十分な雨があり、不作は免れそうだが、南部は大きな減収となる。西オーストラリアでは、一部では条件は悪くはないが、それでも単収は前年の半分ほどしかない。

 牧草の育ちも悪く、飼料穀物の価格も上昇しているから、農家は繁殖用家畜の保存に懸命で、家畜数を減らさざるを得なくなっている。と畜の増加と家畜市場の需要の減退のために、牛肉生産額は13%減少して66億ドル、羊肉生産額も35%減少して14億ドルになると予想される。

  このような予想を受けて、農林水産相は、政府は今、家畜を養うために、穀物の輸入を考えていると発表した。米国、英国、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカ、中国、ウクライナ、カナダを含めた国々からのトウモロコシ、ソルガム、小麦の輸入を考えている、輸入は来年1月から始まるだろうという。

 穀物大輸出国のオーストラリアが国内需要を賄えず、輸入までするとなれば、世界の穀物・食料需給に与える影響は大きい。先月の減収予測だけでも、既に小麦価格の世界的高騰を招いている。それは、トウモロコシ、大豆に有利な農業政策のために小麦作付を減らしてきた米国の来年の作付動向の変化ートウモロコシ、大豆から小麦へのシフトーを予測させ、トウモロコシ、大豆の価格も上昇させている。

 しかも、オーストラリアの干ばつは来年も続く可能性が高いと予測されている。気候変動は、このような干ばつの頻度をますます増やすだろうという予測もある。これまで京都議定書を拒否、温暖化防止対策を軽視してきたオーストラリア政府も、国の経済成長を0.7%減速させると予想される今年の深刻な干ばつの中で 、一転、原発採用も含む温暖化対策強化に乗り出した(Climate comes in from the cold,The Sydoey Morning Herald,10.28)。

 干ばつはオーストリア農民の自殺を急増させている(Australia drought sparks suicides ,BBC,10.19)。政府は救済策を強化・拡充したが、長期的にみればオーストラリア農業はもはや持続不能だ、市民に満足な水を供給するために農業から撤退すべきだという声させ湧きあがっている(Bailouts of marginal farms attacked,Australian,10.17)。

 今年起きている穀物不足・価格高騰は、今後ますます頻繁になり、強度を増すであろう。バイオ燃料用需要の増大がこれに拍車をかける。日本もその影響から逃れることはできないだろう。小麦だけの問題ではない。大量の輸入トウモロコシに頼る牛飼育、オーストラリアからの輸入に頼る牛肉の大量消費の時代も長くは続かないかもしれない。その上、九州を中心とした西日本の4年続きの米不作は、日本自体の稲作にも既に温暖化の影響が出始めているのではないかという懸念を生む。日本も安閑としてはいられられない。