豪州 作物大減収の最新予測 過剰な灌漑水利用が輸出農業の存続を脅かす

農業情報研究所(WAPIC)

06.12.8

 オーストラリア農業資源経済局(ABARE)が12月5日、最新の作物収穫予想を発表した。10月には、厳しい干ばつ(降水不足と高温)のために主要冬穀物(小麦・大麦・ナタネ)は昨年に比べて60%の大減収、夏作物(米、ワタ、ソルガム)の減収も予想されていたが(オーストラリア 干ばつで家畜飼料用穀物の輸入を計画 世界穀物需給に大きな影響,06.10.28)、最新予測ではさらなる減収が予想されている。2006/07年の冬作物は昨年に比べて62%減少し、収穫量はこの10年間で最低の1550万トンとなり、干ばつ条件の継続のために夏作物の収穫量も33%減少するだろうという。

 Australian Crop Report: December No.140 2006 (pdf)
 http://abareonlineshop.com/PdfFiles/acr06.4_december.pdf

 冬作物の大減収の主因は、オーストラリア唯一の大水系であるマレー・ダーリング川水系に沿って広がるこれら作物の主産地が記録的な干ばつに見舞われたためだ。オーストラリアの作物・家畜の大部分は、これら河川の水に依存するニューサウスウェールズ、クィーンズランド、ビクトリアの3州と西オーストラリア州西南端で生産されている。ところが、南オーストラリアは8月から10月にかけ、1900年以来最悪の干ばつ、ビクトリアとマレー川・ダーリング川流域は第二番目、ニューサウスウェールズは第三番目の厳しい干ばつに見舞われた。この期間を通じて雨がなく、これに高温が結びついた。多くの地域で、平均最高気温は最高を記録した(記録されている限りで)という。

 ニューサウスウェールスの中部・南部では、4月から10月までの降水量は平年を大きく下回った上に、春の気温も平均を上回った。そのために、冬作物の生育はシースン全体を通して阻害され続けた。北部では平均的降水があり、高収量となった。しかし、主要夏作物ーワタ、米ーの見通しは灌漑水不足のために暗い。ニューサウスウェールズ南部とビクトリアの11月現在の貯水量は貯水能力の30%以下しかない。ソルガムの生産見通しは、土壌水分回復に必要な夏のさらなる降水にかかっている。気象局の最新予報では、夏の降水が平年並みになる確率は、国の大部分の地域で50%程度でしかない。

 ビクトリアの冬作物もシーズンを通じて極度の水分不足下に置かれた。同時に、春の気温も記録史上最高となった。収量は大部分の地域で平年を大きく下回る。

 クィーンズランド南部の大部分は、シーズン当所の乾燥で冬作物は僅かな作付けしかできなかった。しかし、中部はシーズンを通じて好条件に恵まれ、この州の冬作物は、大部分がこの地域で収穫されることになった。クイーンズランドのソルガム作付面積は前年と同レベルになるだろう。しかし、それが実現するためには、作付前に土壌水分が大きく回復する必要がある。クィーンズランド南部の大部分の地域の11月現在の貯水量も、能力の10-20%しかない。

 西オーストリア北部はシーズン初めの条件が悪く、冬作物の作付が大きく減少した。20%の収穫減少が予想される。中部・南部の条件はよく、平年並み収穫が予想される。

 南オーストラリアの冬作物シーズンは恵まれた条件下で始まったが、途中で条件が変わった。大部分の地域で、降水量は平年を多少下回るレベルから大きく下回るレベルに変わり、多くの地域で記録史上最低となった。これに、大部分の地域における平年を上回る平均最高気温と軽度の凍害が重なり、収量は大きく減少することになった。

 全体として、小麦の作付面積は前期よりも14%減って1110万haとなった推定され、生産は61%減り、970万トンとなると予想される。大麦生産量は63%減って370万トン、ナタネ生産量はこの10年で最低の42万6000トンと予想される。

 他方、夏作物については、作付面積は全体で25%減り、120万haとなる。クィーンズランド南部やニューサウスウェールズ北部などでは、冬と春の降水が少ないために土壌水分が足りず、貯水レベルも大きく下がっているから、夏作物の生産見通しは厳しいものになる。平年並みの夏の降水を仮定しても、夏作物生産は前期を33%下回り、310万トンになると予想される。ワタと米の減収が減収分の大部分を占める。

 さらに、春の降水不足と高温で、南オーストラリア、ニューサウスウェールズ、クィーンズランド南東部の春の牧草の生育が厳しい制約を受け、家畜飼料用穀物の需要が増加している。これと冬作物生産の大きな減少が重なり、2007年秋までの家畜飼料を賄うために、農場が保有する穀物とまぐさのストックが増えるだろうという。

 オーストラリアは米国に次ぐ世界第二の小麦輸出国で、フランスに次ぐ世界第二の大麦輸出国でもある。食肉輸出量も米国に次ぎ第二位だ。この地位が記録的干ばつで脆くも崩れ去ってしまった。それどころか、不足する家畜飼料用穀物の輸入にまで追い込まれている。しかし、これは今年かぎりのことなのだろうか。

 このような世界第一級の穀物・食肉輸出国としての地位は、そもそも足りない水資源の過剰利用により築かれたものである。今年の穀物大減収は、たまたま遭遇した稀なる干ばつがもたらしたものであることには間違いないが、長期的にみれば、このような地位は根底から脅かされて「いる。

 オーストラリアの輸出農業は、圧倒的にマレー川・ダーリング川の水に依存してきた。マレー・ダーリング流域委員会は6日、今年6月から11月の間のマレー川の流量が1902年に記録された以前の最低流量の56%にまで落ち込んだと報告した(Murray flows at record low.Australian,12.7)。これは、今年の記録的な干ばつのせいだけとは言えない。

 河川に安定的な流量を確保するためには、水資源を涵養し・保水能力を持つ環境ー生態系が必要だ。しかし、先ごろ発表された国連人間開発年次報告によれば、マレー川流域の環境維持のためにはこの川の30%の水が必要だが、灌漑農業が80%の水を使っている。そのために、塩分過多、富栄養化、氾濫原と湿地の喪失などの環境破壊が生まれている。報告は、この流域に国の灌漑農地の40%が集中し、この流域が農業生産のおよそ40%を占める米、ワタ、小麦、牛などの輸出農業に使われていると批判する。

 The 2006 Human Development Report
 http://hdr.undp.org/hdr2006/pdfs/report/HDR06-complete.pdf

 環境を犠牲にし、短期的経済利益を追求するこのような輸出農業がいつまで続くだろうか。地球温暖化はその寿命をますます縮めるだろう。そのなかで、オーストラリア現政府は、日本との自由貿易協定の締結によって、このような輸出農業をもっと助けようと目論んでいる。その交渉開始に合意した日本政府も共犯者だ。