中国 バイオ燃料生産増加が食料品価格を直撃 食料安全保障の暗雲

農業情報研究所(WAPIC)

06.12.12

  バイオ燃料生産の増加が中国の食料品価格を直撃し始めたようだ。China Daily紙によると、国家統計局(NBS)の数字が示す先月の消費者価格指数(CPI)は前年同期比で1.9%上昇した。これは投資アナリストの予測・1.5%を超えている。都市地域では1.8%、農村地域で2.1%の上昇で、これは農産物価格が一層高くなっていることを示唆する。実際、非食料品価格は1%の上昇にとどまっているが、食料品価格は3.7%上昇している。穀物は4.7%、食用油は6.2%、肉類(鶏肉を含む)は7.6%、卵は11.7%の上昇だ。

 農業部報道官は、中国の食料品価格上昇は、バイオ燃料、特にエタノール燃料の生産への熱狂的投資に掻き立てたものと言う。NBSの穀物生産高報告によると、夏と秋の豊作にもかかわらず、工業原料としての穀物の需要が増大している。

  Steady food price rises prompt watch on inflation,China Daily,12.12

 同紙の別の記事によると、財政部副部長は、穀物価格上昇は、特に原油代替燃料としてのエタノールの主要原料であるトウモロコシの価格の上昇が引き起こしたものだと言っている。中国で生産されるバイオ燃料の大部分がエタノールで、その昨年の生産量は102万トンに達した。その原料の76%がトウモロコシで、小麦とソルガムも使われている。

 中国農業科学院会長は以前、中国はエネルギー開発のために穀物を使う余裕はない、「エネルギーを大量のトウモロコシやその他の穀物に依存することになれば、わが国にとっての災厄になるだろう」と語っていた。

 財政部副部長は先週土曜日(9日)、バイオ燃料とバイオ化学は第一に中国の食料供給を保証した上で開発されねばならないと語った。彼によると、国の耕地は13億の人口を養うには不十分だから、穀物は中国にとって決定的に重要で、穀物供給が需要を超えるときにのみ、その一部がバイオ燃料に加工されるべきだ。

 彼は、「中国はバイオ燃料プロジェクトの穀物消費と食料供給への影響を慎重に評価する」、「政府は原料として穀物を使ういかなるバイオ燃料プロジェクトも厳格に統制する」と言う。

 他方、政府はバイオ燃料開発のための非食料農林産物の利用を奨励する、農作物や廃棄物を利用するバイオ燃料プロジェクトについては、原料生産基地を建設するように要求、それは耕地ではなく非耕作地を利用せねばならないと言う。このような資源 は多量にあり、公式統計は農林水産物生産に適した荒廃地は1億3300万f近くあり、藁のような農業・林業廃棄物も6億トンあることを示しているという。

 最近のChina Business Newsは、国家穀物局が発表した2006年作物生産高と栽培面積の最新見通しを伝えている。それによると、今年の中国のトウモロコシ生産高は前年に比べて1.9%増加して1億4200万トンとなり、来年はさらに2.1%増加して1億4500万トンになるという。北西部の好天がこの増加につながり、価格低迷による大豆栽培からの転換で栽培面積も30万f増えた。

 China releases crop output forecast report,China Business News,12.6

 小麦生産も前年を5.7%上回り、1億297万トンに増えた。しかし、来年は北部の干ばつと栽培面積の47万fの減少で3.4%減る見込みという。小麦生産量・収穫面積はピーク時(90年代)に比べれば大きく減少したままだ(下図参照。これら図は1994年まではFAOのデータベース、以後は中国の今回発表のデータに基づくもので、厳密には2005年以後と2004年までのデータは連続性を欠いている。しかし、長期的傾向は反映していると思われる)。

 米については、主産地である四川省、河北省における厳しい干ばつと病害の蔓延で、生産は前年を僅かに上回るにとどまった。来年は作付面積の10万fの増加で3.4%の生産増加が見込まれるという。しかし、これについても、小麦同様、生産量と面積はピーク時に比べればはるかに落ち込んだままだ。

 大豆生産は前年の1635万トンから1550万トンへと5.2%も減少した。来年は作付面積が20万f減少するが、生産量は僅かに(0.7%)増加して1560万トンになると見込まれている。しかし、減退傾向は明らかだ。飼料・食用油市場の拡大を見込んで大量に参入した外国加工企業が、安価な外国大豆の輸入に走っているためだ。大豆農民はそのための価格低迷で、大豆生産から撤退を始めているという。

 Multinational Soybeans and Processing Seen as Threat to China's Grain Security,soyatech.com,12.6

 

 こうした中でのバイオ燃料用穀物需要の増大は、間違いなく中国の食料安全保障を脅かすことになるだろう。バイオ燃料用需要の増大は既に世界の穀物価格の急騰を招いており、食料穀物不足ー価格上昇に輸入増加で対処することもますます難しくなっている。現在の中国の食料品価格の上昇自体、一部は国際価格高騰を反映している。

 12月7日に発表された国連食糧農業機関(FAO)の最新世界食料見通しによると、穀物、特に小麦とトウモロコシの価格は10年来の高さに達している。主要生産国の不作とバイオ燃料生産のための需要の急増がその主因という。他方、米生産は台風、干ばつ、洪水、病害虫で大きな損害を受け、世界の生産はまったく増える見込みはなく、南半球では来年の米生産が減少する見込みだ。

 Food Outlook→ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/009/j8126e/j8126e00.pdf

 このために、今年の世界の食料品輸入支出は前年よりも2%増え、3740万ドルの記録的高さに達するだろうという。途上国では、食料輸入量の増加ではなく、価格上昇の結果として、この支出は5%増加する。多くの国は、国内供給の改善ではなく、国際価格高騰のために購入量を減らすことになるだろう。さらに、エネルギー価格の上昇は、多くの途上国に、化石燃料需要を満たすための基礎食料輸入支出の削減を強要することになる。

 この最新見通しによると、世界の小麦生産は、来年は大きな回復が予想されるが、今年は前年を5.3%(3300万トン)下回り、5億9200万トンに落ち込む。粗粒穀物生産は2.1%減るが、過去5年の平均はなお上回り、高価格のために来年の作付と生産量は大きく増加すると予想される。しかし、現在の価格でもエタノール生産を主とする工業利用が増加を続け、1シーズンかぎりの増産だけでは価格が大幅に下がることは考えられない。


 油料種子価格も上昇しているが、一層利益の上がる穀物からの転換を促すには足りない。現在の需給逼迫は、特に需要増加が生産増加を上回る植物油市場でさらに進む。

 穀物価格上昇は肉生産・酪農部門にも影響を与える。動物病(狂牛病、鳥インフルエンザなど)の減少の結果としての消費者の信頼の回復で世界の食肉需要は回復に向かうだろうが、飼料コスト上昇の予測がこの部門の回復を遅らせる恐れがある。飼料コストをめぐる懸念は、世界の酪農品輸出の3分の1を供給するオーストラリアとEUの牛乳生産を減少させると予想される。

 中国のみならず、日本を含む世界の国々の食料安全保障に警鐘が鳴らされている。

 関連情報
 中国 燃料エタノール用需要増大で「数年以内にトウモロコシ純輸入国に」の予測,06.11.27