オーストラリア 干ばつ離農支援を倍増 干ばつに耐えられぬ家族農場切捨て?

農業情報研究所(WAPIC)

07.9.26

 オーストラリア政府が、干ばつ に喘ぐ農業者の支援の一環として、離農(農場売却)農業者への支援の倍増を決めた。政府は25日、先週発表した4億3000万豪ドル(約430億円)の干ばつ支援措置に続き、7億1400万豪ドル(約715億円)の追加支援措置を発表した。そのなかで、干ばつによって農場を売りに出すことを余儀なくされた農家に支払われる支援金を、従来の最大7万5000豪ドル(約750万円)から15万豪ドルに倍増させることを明らかにした。転業のための職業訓練や移住のために2万豪ドルも支払う。従来は、保有資産が15豪ドルを超える者はこれらの援助を受け取れなかったが、今後は保有資産が35万豪ドル未満の者が受給できるようになり、受給資格者も大幅に増える。

 Prime Minster of Australia:Australian Government Strengthens Drought Support,07.9.25
  http://www.pm.gov.au/media/Release/2007/Media_Release24586.cfm 

 去年から今年にかけて長引くオーストラリアの干ばつは、現在のオーストラリア農業の”持続可能性”を疑わせるに十分なほどの厳しさだ。オーストラリア農地の70%が干ばつ支援地域に指定されている。12万9000うちの推定10万の農業者が干ばつ宣言地域内で営農している。

 今年の穀物生産は過去5年平均を30%近く下回ると予測されたばかりだが(オーストラリア穀物 干ばつで”凶作”に近い連年の大幅減収に ABARE最新予測,07.9.18)、今後3ヵ月の降水も平年を60-70%下回るとされており(More low rainfall forecast for drought-affected areas,ABC rural news,9.25)、そうなれば半作以下だった昨年並み、あるいはそれ以上の凶作となるかもしれない。

  今年の牛乳生産は、干ばつに襲われる前の2002年の114億リットルから92億3000リットルにまで落ち込むと見込まれている。羊の数は2002年以来21%減り、羊毛生産は2002年の64万5000トンから43万8000トンに減る。牛の数も2002年の2772万頭から2540万頭に減った。

 2008年のワイン生産は、前年の190万トンから80-130万トンと半減もしかねない。マレー川からの灌漑水に頼るほとんどすべての園芸とブドウ栽培が灌漑水の配分に与っていない。ヨーロッパのワイン産業を前例のない苦境に陥れてきたオージーワインも、今や干ばつで完全に干上がりつつある(Aussie wine industry is all dried up by drought,The Scotsman,9.24)。 永年作物(果樹)が枯れつつある。

 このような状況で、多大な費用と時間を要する経営再建よりも、支援を受けて転業する方を選ぶ農業者が増えるだろう。他方には、売り出される農場の買占めで経営拡大を図る近隣農家がいる。これによって、干ばつにも耐えられる大規模農家が増えると期待する専門家もいる($150,000 to leave the land,The Age,9.26)。こんな”農業構造改革”でオーストラリア農業の”持続可能性”を脅かす水問題 が解決されるわけではない。しかし、2001年以来の干ばつ支援支出は28億豪ドル(約2800億円)に上り、今年の支援約束額は既に19億豪ドルに達した。

 政府は農業と家族農業の重視の姿勢は変わらないと強調する。しかし、干ばつはますます頻繁になると予測されており、こんなことを続けていれば政府財政はいずれ破綻するだろう。そんな事態を避けるには、これを機にできるだけ多くの農家にご退場願うというのが政府の本音だろうか。オーストラリアでも、家族農場切り捨てに拍車がかかった。