ベトナム 米輸出奨励へ 豊作予想で生産者米価下落を恐れる

農業情報研究所(WAPIC)

08.6.23

 国内供給不足と価格高騰への懸念から米の輸出を制限してきたベトナムが、供給過剰と価格下落への懸念から、一転、米輸出奨励に乗り出す。6月19日、グエン・タン・ズン 首相が関係省庁に対し、企業が農民から米を買い上げ、輸出を増やすのを奨励するように要請した。

 産業貿易省(MIT)と農業農村開発省(MARD)は、米価下落を防ぎ、農民の損失回避を助ける任務を負わされた。また、世界市場への米の供給を増やす役割も期待されている。他方、ベトナム国家銀行(中央銀行)は、商業銀行が米輸出業者のために十分な流動資本を確保するように指示することを求められた。

 MARDによると、今年は春−冬作、夏−秋作とも豊作で、米総収穫量は去年よりも100万トン増えて3700万トンになりそうだ。今年の輸出量は350万トンに制限するとされてきたが、450万トンに増やす。今までの輸出量は220万トンで、去年より19%多い(輸出額では2倍)という。

 Prime Minister requests to boost rice exports,VNA,6.19
 http://www.vnagency.com.vn/Home/EN/tabid/119/itemid/254883/Default.aspx


 前日、フィナンシャル・タイムズ紙は、輸出再開は決まったが、トン当たり800ドルの最低輸出価格が設定されたと報じた(ベトナム 米輸出契約再開も最低輸出価格設定 米価低落の希望を打ち砕く)。これについては、公式には何の言及もない。ただ、輸出米価が大幅に下がるようなことになれば、肥料価格が1ヵ月で4倍にまで跳ね上がるなか、高輸出米価に期待して米作付面積を増やした農民を裏切ることになる。恐らく、安値輸出競争に走ることはないだろう。

 世界市場への供給は増えて輸出米価が多少下がることはあり得るが、生産コストの上昇を考えれば、輸出米価が現在の半分以下だった今年初めのレベルの戻ることは、長期的にみてもありそうにない。FAO(国連食糧農業機関)が史上最高の6億6700万トンになると予想する今年の世界米生産も(Food Outlook, June 2008)、天候次第では大きく減る恐れがある。

 なお、ベトナムと60万トンの輸入契約を結んだばかりのフィリピンでは、フェリー沈没の大災害を引き起こした台風6号(フィリピン名=フランク)で、中部ルソン、西部・中部ビザヤの23万4000fの農地が被害を受けたそうである(Frank’ hits agriculture areas,Business World,6.23)。