農業情報研究所農業・農村・食料アジア・太平洋地域ニュース:2013年10月24日

中国新・米事情 失われる国際競争力 潤沢な世界米市場が中国を養う

 先日、中国の遺伝子組み換え(GM)米賞味キャンペーンについて伝えた(中国 遺伝子組み換え米賞味キャンペーンが盛ん 国民のGM食品への懸念を一掃?)。そのついでに、中国の最新米事情を見ておこう。

 とういのも、今、何故GM米キャンペーンなのか、さては中国に米危機が迫ったいるのではないかといったといった推測も生まれるかもしれないからだ。しかし、中国政府がGM米の一般商業栽培の許可に踏み切るという話は聞かない。GM米商業栽培の許可は農業生物多様性の喪失を通じて却って国の食料安全保障を脅かしかねない、そういうまっとうな科学者たちの懸念は政府もなお共有していると 信ずる。GM米賞味キャンペーンは国が自分の業績を一向に受け入れないことからくる研究者・技術者たちの焦燥感から生まれたものにすぎないのではないかと思われるのである。

 *北林寿信 農業生物多様性の喪失と第二の「緑の革命」―農業生態系の変化こそ注意が必要だ 科学(岩波書店) 2010年10月号参照。

 まず、最新の中国米事情で最も目を引くのが、この数年における輸入の増大である。米国農務省(USDA)の推定によれば、2010/11年までせいぜい130万トン程度にとどまっていた輸入量が翌年度以降300万トンを超えるまでに急増している。ただし、湖南、江西、浙江などの主要稲作地域の悪天候と洪水で10年ぶりの生産量減少(前年比0.7%)が予想される今年は別として、絶対的な米不足の結果とは言い切れない。

 過剰を恐れての米価引き下げ政策を180度転換させた2000年代半ば以降、激減していた米作付面積は増加に転じ、一時低迷していた単位面積当たり収量(単収)も増加に転じた。2003年以来2012年までに、単収は11%、作付面積は14%増加し、米生産量は27%増えた。米生産量の傾向的低下や絶対的米不足を予測するにはまだ早すぎる。

 最近のChina Daily紙が伝えるところによれば、最近の米輸入の増大は、米増産を促すために最低買入価格引き上げで中国の米が国際競争力を失った結果だという。10年にわたる米価引き上げで、米価は国際市場価格を大きく上回るに至った。

 国際競争力喪失の原因はほかにもある。急速な工業化と都市化で多くの水田が工業用地や居住地に変わり、それが国の米生産の中心を南から北に移動させた。そして、旧態依然の穀物物流サービスも米生産の効率性を削いでいる。例えば、北部の黒竜江省から浙江省や江蘇省のような大消費地への米輸送コストは米小売価格の30%を占める。こうしたことが南部の企業をカンボジア、ミャンマー、ベトナムのような隣国からの米購入に走らせる。今月タイを訪れた李克強首相は、今後5年間、タイからの米輸入量を年100万トン引き上げることに合意したという。

 世界市場で米供給が十分にあり、タイや上記の隣国から低価格の米が輸入できるかぎり(参照:国際米価:タイ輸出価格の推移と国際比較、中国米事情は安泰ということになる。

 Nation set to bolster the import of rice,China Daily,13.10.18

 問題は、今年の中国で起きたような不作が、世界の主要米生産地帯で常態化したときに起きる。気候変動でそれが起きる可能性が大きい。しかし、それはGM技術で克服できることではない。大事なのは農業生物多様性である。