農業情報研究所農業・農村・食料アジア・太平洋地域ニュース:2013年11月11日

タイ米産業が大苦戦 米価暴落でも輸出競争に勝てず まして日本が・・・

 タイの国内米価が暴落している。理由は「米担保融資制度」(タイ政府 保証米価引き下げ 財政破綻を回避し、輸出競争力を取り戻すを参照)に基く農民への支払の遅れと、各農家への最大支払額を1家庭あたり3万5000バーツ以下に制限する新ルールだ。このために、農家は米を制度外で売り急いでいる。そのために、平均的な国内市場米価は政府が保証するというトン当たり1万5000バーツをはるかに下回る6500〜8000バーツにまで落ち込んだ。

 その上、市場価格を40%も上回る価格で過去2年にわたって買い入れられた米は国際競争力を失い、今や米在庫(過剰米)は1600〜1700万トンにもなっていると推定される。輸出価格はベトナム米のレベルに急接近しているが(国際米価:タイ輸出価格の推移と国際比較参照)、外国バイヤーは大量の在庫を抱えるタイの足元を見透かし、もっと安くなるのを待っている。

 Domestic rice prices in free fall,Bangkok Post,13.11.11

 今や世界米市場は、ちょっと前は最大の輸出国であったタイでさえ大苦戦する状況だ。関係あるかないか知らないが、ついでに言っておこう。

 そんな時代、日本は、TPP妥結をにらみ、国際競争力を強化するためにと称して、農家が自由に生産できるようにして生産性を高め、コストダウンを推進しようと「生産調整」廃止に動き始めた。生産調整がなくなれば日本の米生産力は飛躍的に向上、輸出競争力さえ獲得して日本稲作の宿弊である過剰問題は根本的に解消するだろう。これが、生産調整と生産調整協力農家への直接支払の廃止ばかりか「米価変動補填(ほてん)交付金」の廃止まで出張する産業競争力会議民間議員の言い分だ。しかし、近時の世界米市場の様相を見れば、これは夢物語にすぎないと知るだろう。国際競争に言及するまでもなく、生産調整廃止が引き起こす「需給均衡」価格までの米価下落は、消滅が期待される中小農家ばかりか、成長が期待される「担い手」も押し潰してしまうだろう。夥しい数の「兼業」農家に支えられた地方、農村地域は解決不能の雇用・失業問題に襲われ、放棄された傾斜地(緩傾斜地も含む)や山間(やまあい)の広大な田んぼは森林原野に帰るだろう。

 さすがに農水省は分かっている。手厚い補償金で飼料米への転作を誘導、それによって5年後の生産調整廃止が可能(すなわち、廃止しても主食米生産が増えることはない)かどうか判断すると言う。しかし、どうしてこんなことをしなければならないのか、これもさっぱり分からない。飼料米への転作の誘導のためには、飼料米生産から得られる所得を主食用米生産から得られる所得と同等以上にする必要がある。しかし、飼料としての価値が飼料米とほぼ同等とされる輸入トウモロコシの価格は、主食用米価格の10分の1以下だ(注)。飼料をこの価格で販売するとすれば(そうしなければ売れない)、主食用米との価格差トン20万円以上を直接支払いで埋め合わせねばならない。主食用米需給均衡のために転作飼料米70万トンが必要とすれば(これは十分にあり得る仮定である。農水省は飼料米需要は400万トンにまで伸びると期待している)、この埋め合わせに必要な財政負担は1400億円を超える。これは現在の米に関する戸別所得補償のための財政負担に等しい。飼料米生産のコストダウンが進むとしても、この程度の負担は長期にわたり続けねばならないだろう。

 その上、飼料用米といえども主食用米と本質的に変わるものではない。現在のような地域限定的な耕畜連携的飼料用米栽培なら問題は少ないが、これが一般的転作として全国的に広がれば主食用米、あるいは加工用米としての不正利用を防ぐためには行政が介入するほかない。その行政コストもどれほどになるか分からない。何のための生産調整廃止、米政策「改革」なのかということになるのである。

 (注)主食用米の最近5年ほどの全国全銘柄年平均相対取引価格はトン23〜25.5万円ほどだが、アメリカのトウモロコシ輸出圧価格は2007年以来7年間の平均で円換算2万1500円ほど、大きく値下がりし現時点では2万円を下回る。