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安価なコーヒー、農民と野生動物を脅かす

農業情報研究所(WAPIC)

03.4.30

 コーヒーの過剰生産と価格下落が多くの熱帯諸国の人々と生物多様性に危機的状況をもたらしている。インドネシアでは、低品質のロバスタ・コーヒーの生産の拡大が低価格と低地森林破壊に寄与しており、農民の生計の改善につながっていない。インドネシア・ボゴールの”野生動物保護協会”の オブライエン夫妻がこのような報告を”サイエンス”誌に発表した(O'Brien, T. G. & Kinnaird, M. F. Caffeine and conservation. Science,300,1728-1731, (2003) )。著者は、貧困の削減と生物多様性の保全のためには、コーヒー取引の公正化、農業方法の改善、コーヒー栽培面積の削減が急務だと言う。 

 世界のコーヒー生産は、1990年代から急拡大した。その多くはインドネシアとベトナムの増産による。しかし、消費はその速さで伸びなかった。90年代半ばにピークに達したコーヒー価格は、その後100年来の低水準に落ち込むことになった。インドネシアでは、原始雨林を切り開き、安価で低品質のロバスト・コーヒーの栽培が拡大した。ロバスタ種は、日陰で栽培されるアラビカ種と異なり、ほとんど日をさえぎるもののない場所で栽培される。インドネシアは今や世界4位のコーヒー生産国であるが、ロバスタ・コーヒーでは、ベトナムに次ぐ世界第二位の地位を占める(文末の表と図を参照)。

 価格ピーク時には、インドネシアの農民や外部の投機的業者による森林破壊の速度が倍化したといわれる。価格下落とともに、世界の一部のコーヒー生産者はコーヒー栽培を放棄したが、インドネシアの主要産地であるスマトラ島の農民は、価格低下のなかで生計を維持するために、コーヒー栽培をさらに拡大した。1996年から2001年の間に、島のコーヒー栽培面積は28%増加した。新たな栽培地の70%ほどがBukit Barisan Selatan国立公園の中か、近くにある。その結果、最後に残ったスマトラの低地林を保全する公園は、1985年以来、28%縮むことなったという。このために、絶滅が危惧されるスマトラ虎や犀の存続が危ぶまれることになった。これらの動物は、森林の境界の3km以内には近づかない。森林破壊により、これらの動物の安全な生息地が減っているわけであり、報告の著者は、20年以内に安全な生息地の大部分が失われるだろうと言う。

 著者は、生産者に持続可能な農業方法を促すより高い生産者価格を支払うフェア・トレードのコーヒーを消費者がもっと沢山の飲むことが危機の解決策になると言う。また、貧困レベル以上の価格を維持するための新たな国際協定も望んでいる。過去10年に見られた自由市場は従うべきモデルではない、価格を安定させる新たな国際協定が必要だし、我々すべてがコーヒーにもう少し支払う用意をする必要がある。少なくとも、国立公園内でのコーヒー栽培の削減は野生動物保護の助けになると言う。

 インドネシアが直面する問題は、多かれ少なかれ、世界中のコーヒー生産地域が直面する問題である。中南米の農民も、競争から生き残るために、日除け栽培される高品質コーヒーから低品質の日を受けて栽培される品種に転換を進めているが、オブライエンは、日除け栽培農場の多くの部分では、森林だけが日除けであり、低品質コーヒーへの転換が合理的に見えるのは最初だけだと警告している。

 参考までに、国際コーヒー機関(ICO)のデータから作成した世界のコーヒー生産とコーヒー価格に関する図表を掲げておく。

 

世界のコーヒー生産量(主要国、総数、60k袋)              
   

1982

1990

1991

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

ブラジル  

18,745

27,321

27,297

15,784

27,664

22,758

34,650

32,345

32,204

34,300

カメルーン  

1,950

1,682

1,726

660

1,432

889

1,114

1,370

1,113

1,200

コロンビア  

12,319

14,231

18,222

12,878

10,876

12,211

11,024

9,398

10,532

11,999

コス・タリカ

2,639

2,562

2,759

2,684

2,126

2,500

2,350

2,404

2,253

2,166

コート・ジボワール

4,677

2,940

4,129

2,532

4,895

4,164

1,991

6,321

4,846

3,338

エル・サルバドル

3,230

2,465

2,198

2,586

2,534

2,175

2,056

2,599

1,706

1,629

エチオピア  

3,725

2,909

3,061

2,860

3,270

2,916

2,745

3,505

2,768

3,756

グアテマラ  

2,518

3,271

3,496

4,002

4,524

4,219

4,893

5,120

4,940

3,669

ホンジュラス

1,900

1,568

2,321

1,909

2,004

2,654

2,195

2,985

2,667

3,036

インド  

2,211

2,829

3,000

3,727

3,469

4,729

4,372

5,457

4,526

4,950

インドネシア

4,788

7,441

8,463

5,865

8,299

7,759

8,458

5,432

6,733

7,604

メキシコ  

4,610

4,674

4,727

5,300

5,110

4,802

4,801

6,219

4,815

4,200

ニカラグア  

1,460

461

708

985

793

1,084

1,073

1,532

1,595

1,108

パプア・ニュー・ギニア

633

963

747

1,002

1,089

1,076

1,351

1,387

1,041

1.041

ペルー  

1,019

937

1,200

1,871

1,806

1,930

2,022

2,663

2,596

2,747

ウガンダ  

3,201

1,955

2,088

3,244

4,297

2,552

3,298

3,097

3,205

3,507

ベトナム  

153

139

1,308

3,938

5,705

6,915

6,972

11,648

14,775

13,133

総計  

84,865

93,921

101,635

85,417

102,612

96,213

106,055

114,418

112,404

111,282

 注:生産者価格はブラジルのもの、アラビカ種市場価格は「コロンビアン・マイルド・アラビカ」を除く他のマイルド・アラビカのものである。

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 Coffee Glut Brews Crisis For Farmers, Wildlife,National Geographic News,4.24

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